第28話 飛べ!!アイビー・マーク2!!

「…はっ!?」


目覚めるなり上体を勢いよく起こす愛志。

辺りを見回すとシスタールームの共有スペースで彼はそこに敷かれた布団の中に居た。


「あれ…何で俺は泣いてるんだ?」


頬に違和感を感じ手で触れると涙の筋が出来ていた。


夢を見ていた…。

彼にとってとても衝撃的な内容だったにも関わらずその内容は殆ど思いだせなかった。

夢を見たと言う記憶があるのに覚えていないと言う事はよくある事だ。

しかし感情を揺さぶられて涙を流した時特有の目の奥の痛みと胸が締め付けられる様な感覚…それだけは確実に愛志の体感として残っている。


段々と意識が覚醒してくるとある事に気付く…妹達の姿が無いのだ。


「…おい!!誰かいないのか!?密…!!薫…!!千里…!!」


慌てて起き上がり部屋の中を走りまわる。

三人は自分の部屋には居なかった…そしてアイビーの部屋までやって来ると相変わらず作業中のルミだけが黙々と手を動かしていた。

そして背中越しに応える。


「やぁおはよう兄君…彼女たちならもういないよ?」


「へっ?いったいどこへ…」


「そんなの決まってるじゃない…戦いに行ったのさ」


「何だって!?どうして俺を起こさなかった!?何故あのコ達だけで行かせた

!?」


ルミを強引に振り向かせ胸ぐらを掴む。

身体の小さいルミは床から足が離れ宙ぶらりんになった。


「まぁ落ち着きなって…これは彼女たちが彼女たち自身の意思で決めた事だよ…僕も含めてね…」


「なっ…」


愛志の手から力が抜けていく。

床に足が付いたルミは襟を正しながらこう言った。


「彼女たちは何もヤケを起こしてこんな行動を取った訳じゃない…やられたらやり返す…人間社会の基本だろう?」


「何を言ってるんだ!!俺はあいつらを追いかける!!ルミ、アイビーアームズは何処だ!?」


愛志は身体に装着するためアイビーアームズを探すがどこにも見るからない。

あれを着ければ身体能力が何倍にも跳ね上がり決戦場に指定されている鏡台山まで時間もかけず簡単に行ける筈であった。


「ああ…あれなら今は密君が装着してるよ…なにせ彼女だけは戦闘能力が皆無だからね」


「はっ!?あの戦闘経験のない密に戦わせるつもりか…!?いい加減にしろ!!」


ルミがあまりにも簡単に言ってのけるものだから愛志は少し頭に血が上ってしまい再びルミを怒鳴り付けてしまった。

しかし当のルミにはその事を気にした様子はない。


「…妹達が心配なのは分かるよ…知っての通りこれは戦争で命のやり取りだ…」


ルミの言葉を受けて愛志の脳裏にジニアの身体が消えた時の記憶が過る。


「でも、それを納得ずくで僕ら『妹』はこの世界に来ている…だから必要以上に妹の命が失われる責任を兄君が一身に背負う必要は無いんだ…」


以前、密がジニアに聞いた召喚時に妹候補に対して輝く少女が召喚に応じるかどうか聞いてくるという…それに応じた者だけが召喚されてこの世界にやって来るのだ。

ルミが言う通り、死ぬかも知れない可能性を承知で妹達は愛志のもとに来ている事になる。

しかしそう言われたからといってそのまま黙っている愛志では無かった。


「俺には兄妹がいない…だから密が自分を妹にしてくれと頼んで来た時は驚いたけど嬉しかったんだ…それから薫…ジニア…サーティ…アイビー…千里…ルミ…と、どんどん妹が増えていってそれは楽しかったさ…ずっと俺の側で笑ったり怒ったりしてほしいと思ったんだ…!!

だからあいつらが俺の妹でいてくれる限りは俺は命がけであいつらの命を…笑顔を守もる!!それのどこがいけない?」


拳を握りしめ声を張り上げ熱弁する愛志の表情を見てルミはクスリと僅かに微笑む。


「何が可笑しい!?」


「いや…失礼…兄君があまりに必死だったものだからついね…フフッ」


「何だよ…それ」


急に恥ずかしくなって顔を背ける…愛志は顔はおろか耳の先まで真っ赤になっていたのだ。


「俺は走ってでもあいつらの元へ行く…ルミはそれを完成させてから来てくれ…!!」


「ちょっと待ちなって兄君…全速力で走ったとして現場までどれだけ掛かると思ってるんだい?」


踵を返し今にも駆け出そうとする愛志をルミが呼び止める。


「仕方ないだろう…それしか方法が無いんだから!!」


「本当に君はせっかちだな…人の話は最後まで聞き給え…『アイビー・マーク2』は今を以って完成した!!」


大袈裟に両手で天を仰ぐルミ。


「なっ…!?これは………」


出来上がった新しいアイビーの姿に愛志は驚きを隠せない。

何と外見はそのままに身長が5メートル程に大型化され背中には戦闘機の様な翼にジェットエンジン的な筒状の物が付いている。

これは修理したと言うレベルでは無く完全に新造されたと言っていい。


「これに乗っていけば現場までひとっ飛びさ!!さあ乗って!!」


そう言ってルミがアイビー・マーク2の身体にあるスイッチに触れると、胸の装甲板が開きシートが現れる…どうやら人が乗り込めるようになっているらしい。

愛志は彼女に促されるままそのシートに座った。

続いてルミも愛志の膝の上にちょこんと飛び乗った。


「おいおい!!」


「ちょっと失礼するよ…何せ急造だからね、複座にする時間が無かったんだよ…アイビーたっての願いでAIのリソースは密のアイビーアームズの方に取られてるからここからは僕の手動操縦さ」


ルミは色々と説明してくれるが、彼女と身体が密着している事に動揺する愛志にはそれどころではない…心臓の音が高鳴る。

今迄だって密や薫をお姫様抱っこした事はあったが、この身体が重なり合う態勢はその比ではない程の密着感と高揚感…高校生の彼には刺激が強すぎる。

しかしギリギリの所で昇天しそうな意識を押さえ付けた。

ここまでくると妹好きを通り越してただの変態である。

そんな事はお構いなしのルミがシート脇のレバーを引くとシートが下がり装甲板が閉じる。

二人は完全にアイビー・マーク2の中に入ってしまった。


「おお…スゲー…俺はとうとうロボットにまで乗り込んだぞ…!!」


鼻息も荒く興奮する愛志…巨大ロボットに乗り込んで悪と戦う…これもまた男子のロマンの一つであるから無理もない。


「準備はいいかい?飛ぶよ!!」


シスタールームの天井が左右に開いていく…ますますロボットの発進シークェンスその物だ。

アイビー・マーク2の両翼に付いているエンジンに火が灯ると轟音を発し、ルーム内はそこから出た煙で充満している。


「アイビー・マーク2…発進!!」


ルミの操作で両腕を空に向かって突き出しグングン上昇していく。

天井の穴を抜けるとそこはもう外だった。

シスタールーム自体が空間を歪めて構成された空間だ…傍から見るとアイビー・マーク2は突然空に現れたように見えたに違いない。

ある程度の高さまで上がると背中の羽根が90度回転し水平になった。


「みんな…待ってろよ!!俺達が今から行くからな!!」


エンジンから物凄い炎を発しながら愛志とルミを乗せたアイビー・マーク2は密たちが向かった鏡台山に向かって猛スピードで飛んで行った。

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