においってなんですか?

 押忍!!名は学。年は三十六。彼女いない=年齢。座右の銘は異世界には夢があるです。


 シスターの恰好をした奴隷商人、こと違和感の塊のスミスさんに紛失の儀をすることを伝えた。


「んじゃ。お前に伝える事を話す」

「はい」

「まず、三週間逃げるなよ?」

「はい!…………は?」

「それと、死ぬなよ?」

「え?ちょ!」

「後、サラクを襲う時は俺も誘え」

「スミスさん!!」

「なにか質問は?」

「いろいろあり過ぎてもう、何がなんだか分かりません!!」

「そうか。それは上々」

「何が?!」

「さて行くぞ」

「もはや何も聞いてくれない!!」


 スミスさんはやはり行動が早い。俺も後を付ていく。クソ!!トイレにも行けなかった!!


「どこに行くんですか?」

「ん?お前の仕事場だ」

「……内容を聞いて良いですか?」

「めんどい。後にしろ」


 マジかよ。もうこの時点で逃げたいよ。


 スミスさんの後を付いていくと玄関とは逆。裏口から家を出た。今更ながら気が付いたがスミスさん家はデカい。大きいと言うより広いと言った方が表現としては合っているだろうな。二階建ての家だが縦に長い。正面は普通だが、実際は小さな旅館クラスの家だ。スゲーなスミスさん。


「うっ!!」


 俺はスミスさんの後を追い、裏口から出た瞬間、悪臭が鼻につく。クサいがこの臭いは俺が今まで嗅いだどんなクサい物よりぶっちぎりだ。言葉で表現できない。


「この程度の臭いでダメと言わんだろな?」

「もう、無理です!」

「お前の働く場所はこんなもんじゃないぞ」

「逃げて良いですか?」

「三週間お前はサラクが作った料理が食えるんだぞ?」

「喜んで頑張ります!!」

「まぁほどほどに頑張れ」

「はい!!」


 今の俺は無敵だ!!


 ちょっと歩いたとこに蔵があった。木造じゃなく石造りだ。なんだ?この建物?


「ここがお前の働く場所だ」

「スミスさん。吐いて良いですか?」

「駄目だ。我慢しろ」

「う、ウス」


 この建物から臭いが出ている。何なんだ?この建物は。マジで気持ち悪い。


「入るぞ」

「マジか~~」


 ドアを開けるスミスさん。


「おうぇゃぁぇぇぇぇ」


 吐いた。ごめんなさい無理です。頭が臭いを受け付けてないのが分かる。臭いでめまいってあるんだね。三半規管が故障しんだと思う。クラクラする。


「ハーハーハーハーオウェェェェェ」


 ヤバイ!!体が震える。臭いでこんな事になんの?無意識に手が体が震える。手足から体温が感じなくなってきた。寒い。めっちゃ寒い。


 呼吸をしたいが息をするのを体拒む、が酸欠で吸うと臭いが襲いかかる。もはやパニックだ。何度も言うが臭いだ。これは臭い。そう思うことにした。が俺の意識は暗闇に沈むのだった。


 顔に冷たい物がかかり意識が覚醒し始める。そしてまた冷たい物がかかる。


「ガハッ!ゲホゲホ!!…………お、おれは…………」

「気を失ったんだよ」

「…………アレはもはや兵器の一種だ。」

「余裕あるように見えるが、ないんだよな?」

「あるように見えます?」

「まったく見えん。冗談抜きに顔は真っ青を超えて真っ白だ。新鮮な死体の方が健康に見えるくらいだ」

「それ、今の俺って死ぬより酷いってことですか?」

「まぁ。そうだな。体はどうだ?」

「ハハ!……また、体が震えて来た。もはや笑える」

「さて、どうするか」


 スミスさんは桶を片手に腕を組み、考えている。


 え?俺?絶賛思い出しゲロしてるぜ!


 何か考え付いたように頷いたスミスさん。俺は一旦風呂へ。着替えはないが貸してくれるらしい。風呂があるとはマジでスミスさんスゲーよ。


 異世界に風呂なんて無いと思っていたが、あるとこにはあるってことだな。


「とっとと入って、とっとと出ろよ。次は俺が入るんだからな」

「…………はい」


 今気が付いたがスミスさんの服に俺のゲロが付いてる。申し訳ない。


 おれは服を脱ぎ、浴室へ。


 木でできた椅子に座り、お湯を桶ですくい頭から被る。冷えた体がお湯で温まるのを感じる。口の中もお湯を風呂からすくってゆすぐ。幾分か楽になる。


 ハ~~。サラクさんの手料理を全部ぶちまけてしまった。もったいない。


 ずっと下を向いてボーーっとしてた俺は体を洗う物を手で探す。


「石鹸はどこだ?」

「……どうぞ」

「ありがとう」


 俺は頭を洗う。あまり泡立ちが良くないし臭いも少し油臭い。だが、体から臭いが消えればそれでいい。


「……なにかあったんですか?」

「裏の蔵の臭いを嗅いで吐いた」

「そうですか」

「あぁ。呼吸が出来なくて意識を失った」

「そうですか」

「スミスさんの服にも吐いたのを付けてしまった」

「そうですか。ですが、あの人はそんな事気にしないですよ」

「後で謝ろうと思ってる」

「そうですか」

「一番の後悔はサラクの手料理を全部吐いてしまった事だ。もったいない」

「料理くらい、いくらでもお作りいたしますよ」

「そっかよかった」

「……私は先に上がりますね」


 俺は頭からお湯を被る。さて体を洗うか。背後からバタンと音がしたのに気が付き、俺の意識はようやく現実を認識した。


 今、何が、あった?


「え?ハァ?……え?」


 マジか?これはアレか?ラッキースケベ的な展開か?え?俺、まさか無駄にした?


 今いたのサラクだよね?イヤイヤなんだよコレ?俺の裸、見られた?そんなことは良いや。


 問題は、俺が何も見れなかった事だ。そう、そこだ!!


 違~~~う!!間違えた!!そんなの変態じゃないか!


 裸を見られたサラクはキャ~~~みたいな展開をするんじゃないのか?イヤ、俺の状態がマジで悪かったから仕方なったが、そういうのをしたい!!時間を戻したい!!


 残念ロリ神!!時を十分ぐらい戻せ!!できればお前の事は最高神と呼んでやるぞ!!…………ッチ!まったく反応がない。まるで死体のようだ。


 そんな事を考えられるくらいに回復した俺は湯船に入り煩悩滅却をはかる。


 サラクが入ったお風呂。サラクが入ったお風呂。……違う!!そんな事考えてはダメだ!!


「疲れた。もう出よう」


 体を拭き、借りた服を着る。


「出たか」

「すいません。先に入ってしまって」

「かまわん。面白い物が見れて俺的には大満足だ」

「面白い物?」

「それはいい。それよりもサラクの裸はどうだった?」

「……!!」

「おい。なに驚いた顔してる?サラクが入ってるのなんざ知ってたさ」


 なに言ってくれてんの?この人、マジかよ。ありがとうございます!!


「で、裸を見た感想は?」

「……です。」

「なんだって?」

「見れなかったです!!」

「お前……本気か?」


 本気と書いてマジと読む的な感じで聞いて来た。どうしたスミスさん。そんな真剣顔して。


「気が付いた時には出た後でした」

「お前が入ってしばらくしてからサラクが出て来た。何もなかったなんて無いだろう」

「ほぼ無意識で話しをしてました」

「また器用な真似をするな、お前は」


 俺はその場で膝から崩れ落ち、手を付き深い後悔に苦しめられた。


「サラクはお前の身体をバッチリ見てたそうだぞ?」

「後で気付きました」

「華奢そうに見えたけど、少し筋肉質で意外だったそうだ。まぁ確かにそうだな」

「今、気が付きましたけど。スミスさんも俺の裸見てますよね?」

「覗いてたからな」

「堂々と言い切った」

「もう用事は済んだ。早く出て行け」

「分かりました」

「飯を食ったとこで待ってろ」

「はい」


 俺はキッチンのある部屋に向かった。すると、エプロン少女が料理をしていた。


「あ!出られたのですね。座ってください。今、出来ますのんで」


 俺に気が付いたエプロン少女は席を進める。そして座る俺。


「どうぞ。お昼までもう少し時間がありますから軽い食べ物です。胃にも良いと思いますよ?」


 笑顔が眩しい。目が眩む。目が幸せを訴えている。


「あ、ありがとう」


 エプロン少女は俺の向かい側に座った。髪が少し湿っている。なんか妙に色っぽい。風呂上り+エプロン+ちょっと薄着のコラボはヤバイな~。おっと鼻血が…………


 あ、さっきの事謝んないと。


「お風呂入ってごめん。誰かが入ってるとか気が付かなかった。本当にごめん」

「……何か、見ましたか?」

「まったく見てない!!」


 本当に見てない。サラクの目を見てちゃんと言い切った。


「……本当ですね?」

「はい!!」

「なら、許します。」

「……あっさり?」

「スミスさんの悪戯なのは分かってます。それにお風呂に入って来たガクさんはまともな表情ではなかったですし、その、私は、その、バッチリと、その、」

「あぁ。スミスさんに少し筋肉質だったって聞いたな~」

「すいません」

「イヤイヤ。俺が悪いんだし、俺は気にしないよ」

「ガクさんはお優しいですね?」

「ん~?そうかな?」

「クスクス。そうです!」


 笑顔が眩しい。君の笑顔は一千万ドルの夜景も足元に及ばないな。心がほぐれる~。


「ありがとう。サラクさんのおかげで元気が出て来た。頑張っていけそうだ」

「それはよかったです」

「ほうほう。もう、こんな仲になっていたか。子供が出来るのも案外早いかもしれんな。」

「「スミスさん!!」」

「息ピッタリだな」

「うぅ~。私、失礼します!!」


 そう言ってサラクは出てってしまった。あ~もっと笑顔を見てたかったな~。具体的に時間を提示するなら100年くらいかな。少なめにしてだが。


「さて、話をするか」

「……はい」

「明日、もう一回トライする。それが駄目なら」

「奴隷ですか?」

「イヤ。別の仕事をやってもらう」

「分かりました」


 よかった。奴隷にならなくて。


 それにしても、明日もう一回か。ご飯は抜いて行こう。耐えられる自信がない。


 臭いで三半規管が壊れるなんてあるんだな。あれは現代日本じゃまず嗅がない臭いだろな~


「昼まで休め、昼を食ったらサラクの仕事を手伝ってもらう。何か問題はあるか?」

「まったく問題ありません!!誠心誠意!手取り足取り頑張ります!!」

「そうか。頑張ってくれ」

「はい!!喜んで!!」

「だそうだ。午後はお前に任せるぞ。そこにいるんだろう?」


 ドアの向こう側がガタンとなった。居たんだねサラク。つまり今の聞かれてたのは。めっちゃ恥ずかしい。


「にゃ~~~ん」


 ドアの向こう側から聞こえた。なにこれ?何かのご褒美ですか?あざ~~~~ス!!


「早く入れ」


 そして、サラクの必死なごまかしをバッサリ切り捨てるスミスさん。マジぱね~~


 なぜか仮面をしているサラク。恥ずかしかったのだろう。顔が見れないのは惜しいが今回は仕方ない。


「おい。お前はサラクから詳しい説目を受けろ。俺はこれから出かけてくる」

「分かりました」


 スミスさんが出ていく時、スミスさんはサラクに小声でなんか言って出て行った。サラクはワタワタしてた。めっちゃ可愛い~。


 午後からはサラクと一緒だ。頑張ろう!! 

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