勝者

 押忍!! ガクです。子供の頃、誰しもかめ〇め波が出せないか、どうしたら出せるのかなど研究したと思います。おそらく男子が多いと思いますが。俺は二五歳頃でしたけどね。


 三つの頭を持つ竜が口を開け、それぞれがブレスを出した。


 だが、音は無い。

 そして衝撃も。


 おかしいと思い、サラが居たであろう場所に目を向けるとビックリを通り越して呆れてしまった。


 竜のブレスは十数秒程度。

 その後、上空に戻り消えてしまった。


 ネズがいた場所に目線を移す。


 ぶっちゃけ塵も残こってやしないと思ったが、気絶していた。

 足がピクピクしてる。


 こうして決着が付いた。


 俺は自分で着ているフード付きのコートを脱ぎ、サラの元に持って行く。

 ここにいるほとんどの人がまだ現実に戻って来ていない。

 口を開けで呆けている。


「サラ、これ着て」

「ガクさん、ありがとうございます」


 サラは素直に俺が着ていたコートを取り、羽織った。


「ルアン。アナタの応援で勝てました。ありがとうございます」

「ほんとう! やった~! るあん、たくさんおうえんしたの! サラク、がんばれ~って!」

「聞こえましたよ。本当にありがとうございます」

「うん! サラクもカッコよかった! あのピカピカしたのもつよかった~!」

「アレは竜です。ルアンの応援を聞いて空から着てくれたんですね」

「そうなの!」

「きっとそうです」

「えへへ~」


 と、そこにバファルが大きな声を上げた。


「勝者、サラク」


 どうやら復活したようだ。

 俺はルアンをサラに預け、倒れているネズの場所に向かう。


 完全に気絶している。

 だが、身体や地面が焦げたりしていない。


 それもそのはずだ。

 ネズのお腹辺りの服が破けている。


 サラがルアンに爆風や轟音でビックリしないようにしたのだろう。


「ガクさん。何が起こったのか説明できる?」

「シャルル。口を開けて呆けてたんじゃないのか?」

「忘れなさい」


 目が本気だ。

 こわい。


「こいつが倒された原因はあの竜じゃないよ。サラの殺人パンチだ」


 痛いぞ。

 サラの殺人パンチ。


 殺人と名前に入っているが、殺される事は無い。

 ただ、死ぬかと思う程の威力と衝撃だという事だ。


 何度か食らったからな。


 別名は普通のパンチだ。

 まぁスキルを使ったかもしれないけどね。


「え? あの竜は?」

「あぁ。アレはただの虚像だ。サラが言っていた〈雷光砲〉だっけ? アレはただ光をこいつに照射しただけ」

「……はぁ?」


 サラが竜のブレス、もといただの光りでネズの目を潰し、一瞬で懐まで潜りお腹に殺人パンチだ。


 あの竜は偽物だ。

 何がどうであの竜が作られてるのか知らないがね。


 本当に呆れた。

 サラが攻撃する前に足元に自分が立っている目印を足元に書いてから攻撃して、すぐに戻って同じポーズをして待つ。


「サラクはなんの為にそんなことしたのよ」

「ルアンの為だ。だからワザとピンチになったように見せ、不安を煽った。ルアンが応援してもうダメか、と思われる寸前でカッコイイ攻撃をして敵を倒す。子供が好きな演出だろう?」

「サラクってバカなの?」

「子煩悩な親は皆こんな感じだよ。そもそもこの場所の土を一瞬で砂に変えたのもサラだよ? 本気を出したら一撃で終わるって」


 俺に同じような力があったらおそらく同じ事をする自信があるぞ。

 俺の場合は、身体からオーラを出して髪を金髪にして逆立てて空を飛んでから、かめ〇め波を放つ。


 昔、練習したからな。

 今度やってみようかな?


「サラクがここを砂にしたのって朝よ。私はてっきりグラウンドを砂にしたから疲れてたのと思ったわ。だって広範囲を一瞬で、しかも詠唱破棄。かなり魔力使ったんじゃないの?」


 詠唱破棄ってのはスキル名を唱えないで魔法を放つ事だ。

 出来るモノと出来ないモノがある。


 だが、俺はレベルが高ければ全ての魔法を詠唱破棄できるんじゃないか、とか思ってたりする。


「どうだろうな。隠してたのかは分からないが、俺には全然余裕に見えたよ」

「アナタより百倍強いってあながち外れていなかったのね……」


 まぁね。

 サラは強い。


 そして胸が大きく可愛い。


 つまりは最強だ。


 俺がサラを超えられるのかな?


「よく分かったわ。ありがとう」


 シャルルはそう言ってサラクの元に行ってしまった。

 もっとお話しても良いんだよ?


 残念だ。


「ば、ば、バカな……。なんだったんだ、今の化け物は!?」

「アンタ……」


 ダルダが他の数人を連れてこっちに来た。

 めんどい。


 あいつは潰そう。

 それかちょん切ろう。


 そこにバファルが間に入る。


「決着はした。決闘の原則に基づいて明日、我々がアナタの家に行くのでそのつもりで。なお、約束を破るような事があれば最悪は首を刎ねる場合があるので気を付けて下さい」

「わ、分かっている」


 ダルダはバファルの後ろにいる俺を射殺さんとばかりに睨んでくる。


 アレは反省をしていないな。

 周りにいる連中も顔は覚えといた方が良いな。


 決闘のルールではダルダを俺たちから干渉する事は防ぐ事は出来るが、周りの人間を使う可能性もある。

 その時は絶対に潰そう。


「帰るぞ。お前らネズを運べ」

「「「はい」」」


 ダルダ一行はこうして帰って行った。

 全く。


 今日も長い一日だ。


「お疲れ様だったね。ガクくん」

「俺は戦ってませんから疲れてませんよ」

「気苦労の事を労ったんだが?」


 気苦労か。

 ダルダは俺の精神衛生上とても悪いからな。


 まぁもう見る事はない。


「そうですね。あいつの顔をもう見る事がないのがなによりですね」

「いやいや。気苦労と言うのはサラクさんが戦った事だ。命が掛かっていたんだ。心配もあっただろう?」

「サラが負けるはずがないです」


 サラは最強だぞ?

 最強は負けないんだ。


 などと謎理論を展開したところで誰も理解できないからな。

 そもそもサラが負けるような人ってスミスさんとかスナーチャさんみたいな人だろう。


 アレは魔王と魔王幹部だぞ。

 人がどうこうできる相手じゃないんだよ。


「君は心底彼女を信頼しているんだな。だが、もし彼女が殺されて―」

「舐めるな。……サラが殺される訳がないんだよ」


 少し感情的になってしまったか。


 殺気に似たモノをバファルに向けてしまった。


「あ、すまない」


 気が付いて両手を上げた。


「ふはっはっは。君は心に鬼でも飼っているのか? 危うく剣で攻撃してしまうところだった。……だからサラクさん、私に殺気を向けないでもらえるかな?」


 ふわっと後ろから抱きしめられた。


 匂いと背中のタワワな感触で分かる。

 サラに抱き付かれたのだと。


 いつの間に後ろにいた?


 てか、バファルの右手に剣が握られている。

 え? いつの間に抜いたの?


「ガクさんに攻撃をしたらアナタのモノを潰しますよ?」

「……本気で遠慮しよう」


 俺も前かがみになってしまう。

 バファルもサラの声から怒りの具合が分かるのだろう。


 まぁサラの事だからモノとは剣だと思うけど。


 頭の上に何かが降りてきた感触がした。


「ガク~。ねむい~」

「サラをいっぱい応援したから疲れたんだろう。おいで、狭いけどバックの中で寝てて良いよ」

「うん。バックのなかでねる~」


 サラに抱き付かれたままだったが、ルアンをバックに入れる。

 前にバックの中は狭くないか? と聞いたが、ポカポカして気持ちが良いそうだ。


 下に敷いてあるタオルもかなり肌触りの良いモノだし、俺も一回入ってみたいものだ。


「おやすみ。ルアン」

「おやすみなさい~」


 可愛い。

 ニヤニヤしてしまう。


「ガクさん。何ニヤニヤしてるの。気持ち悪いんだけど」

「シャルル。人の顔を見て気持ち悪いとか言っちゃダメだ。俺でなければ喜んでしまうぞ?」

「ごめん。何言ってるか分からない」

「……そうか」


 このネタが通じないとは。


 口論しているサラとバファル。

 まぁ現在はバファルが正座してるんだが。


「サラ、帰ろうか」

「……そうですね。バファルさん、今日はありがとうございました」

「いや、騎士として当然の務めだ」

「ですが、次はありませよ?」

「もちろんだ!」


 バファル、頑張れ!


「シャルルもご心配おかけしました」

「問題ないわよ。アナタこそ大変だったわね」

「私も問題ありません。ガクさんとルアンがいますから」


 あらやだ。

 照れ恥ずかしい。


 ここで俺はようやくサラから解放されてしまった。

 もう少し堪能したかった。


 いろいろあったが今日も濃い一日だった。

 疲れていないが、これからどうなるのだろうかと気が重くなる。


 だが、この時の俺は知らない。

 これから起こる出来事を。


 そして知る事になるのだ。

 いかに自分が弱く、無力であるのかを。

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