決闘

 押忍!! ガクです。 日本で生きていた頃はお金を稼ぐ事をした事がありませんでした。今に思えば、本当に両親や兄弟に迷惑をかけたな~。と思います。


 シャルルが宿舎に来る前に俺に解いて欲しい事とは俺とシャルルが付き合ってると思われている事のようだ。

 まぁ、俺としてはシャルルのような美人さんで正義感の強い女性とはむしろよろしくとお願いしたいのだが、そんな訳にもいかない。


 シャルルの事が好きなエンダルに申し訳ないしね。


「教官! ですから私とガクさんはお付き合いしていません!」

「シャルよ。隠したいのは分かるが、エルとガクくんの戦いでガクくんが『世界で誰よりも彼女が好きだ』と言いていたじゃないか」

「それは私ではなく、サラクの事ですよ!」

「良いじゃないか。良い男はモテるモノだぞ、俺のようにな! ガハハハ」


 なるほど。

 こんな感じで誤解を解ことして失敗しているのか。


「ガクさん。一言ぐらい私に相談してくれても良かったじゃないですか……」

「サラ!? 何で泣いてんの!」


 サラがガチ泣きしている。

 マジかよ……。


「……ヒック。……ヒック。うえ~ん」

「あ~。ガクがサラクをなかした~!」

「え!? なん、え? 本気にしたの!?」


 そこに更に変なのが登場。


「ガク! 俺の思いを知りながらシャルルに告白したと言うのは本当か!! 貴様には騎士道以前に男として鍛える必要があるようだな!」


 エンダルが剣を抜刀しながら突撃してきた。


 お前まで来るなよ。

 余計にややこしくなるだろうが。


「バファル……さん。俺とシャルルがお付き合いしているという事実はありません。さっきアナタが言った言葉はサラに向けて言った言葉ですから」

「そうなのか?」

「そうです」


 エンドルはシャルルが止めてる。

 助かる。


「サラ。誤解だからね? 俺がシャルルと付き合ってるってのは誤解だから」

「ほ、本当……ですか?」

「本当だよ」

「……よかった」


 そう言ってサラは俺に抱き付いてきた。

 いい匂い。


「あ、ルアン。俺の髪を抜かないで、ハゲちゃう」

「ガク、サラクをなかせた~。えい。えい」

「今は泣いてないよ」

「ほんとう~?」

「本当だよ。だから、抜かないで……」

「わかった~。サラク、だいじょうぶ~?」

「……大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。ルアン」

「えへへ~」


 良かった。

 笑顔に戻った。


 ホッとしてエンドルとシャルルの方を向いたらちょうどエンドルがシャルルにビンタされる瞬間だった。


 バチン、という優しい音ではなく、ドゴンという音がした気がする。

 ビンタってあんな鈍い落としたっけ?


 ビンタを受けたエンドルは空中で三回転を決め、顔面から着地してぶっ飛んだ。

 鍛えてるだけあって首は取れていないようだ。


 俺だったら取れてると思う。


 シャルルはエンドルを放置してこっちに戻ってきた。


「……あいつ大丈夫か?」

「問題ないわよ」


 そうか?

 動いて無くない?


「何があったんですか?」

「あいつが……エンドルがいきなり告白してきたのよ」


 それでビンタをかましたと。

 ご愁傷様だな。エンドルよ。


 だが、シャルルの声が少し上がっているって事はまんざらでは無いって事かな?

 恥ずかしくなって手が出たのか?


「それは……。なんと言ったら良いのか……」


 サラが何とも言えない表情をしている。

 新しいな、この表情。


 頭の上で笑い声が聞こえる。

 どうやらルアンはエンドルが三回転したのが面白かったようだ。


「全く、仕方がないな。エルは俺が医務室まで運ぼう」

「すいません。お願いします」


 バファルが片手で持ち上げて肩に担ぐ。

 人間、そんな軽くないと思うんだが、何で片手で持てるんだろう?


 マスみたいな化け物か何かか?


「これで誤解も解けたと思うわ。すまないわね、ガクさん」

「俺は別に困ってないから、大丈夫だよ」

「そう? なら、良かったわ」


 そう言ってサラの方に行く。

 あぁ~もう少しお喋りしようよ~。


 ルアンとジャンケンをしようかな?

 何故か勝てないんだよね。


「サラク。今日はいろいろとごめんなさいね」

「大丈夫ですよ。では、また今度」

「えぇ、そうね」


 サラがニコニコしている。

 また今度って事は会う約束でもしてるのかな?


 俺はお留守番かな?


「行きましょうか、ガクさん」

「そうだね」


 今日はもう遅くなっちゃったから、宿屋で時間でも潰して明日から動くかな~。


 俺とサラが宿舎を後にしようと出入り口に向かうと誰かが言い争いをしていた。

 誰だ? と思ったらバファルともう数人は知らない人だ。


「ふざけるな! 何故、騎士が動かないんだ! 立派な犯罪行為じゃないか!」

「ですから、私の部下二名が現場を目撃しています。犯罪行為をしたのはそちらです」

「こっちは怪我をしている。明らかにやり過ぎだろう!」

「複数で攻撃したのではなく、一対一での戦闘だと報告がありました。殺さなければ問題はありません」

「ぐぐぅ……」


 ……あいつ。

 ダルダの店にいたヤツらだな。


 俺が暴れた後、お店を出る際にルアンを盗もうと気を伺っていたヤツらだ。


「あ! お前!!」


 ん?


「後ろを振り向くな! お前だ! お前!」


 誰の事だ?


「き、きさま~!!」


 顔を真っ赤っかにしているオッサン。

 男の後ろに止まっている馬車から数人降りてきた。


「ダーリック。どうした」

「こいつです! こいつがダルダさんをやったヤツです」

「ほぉ~う」


 二メートルを超える巨体の男が俺を上から下まで舐めまわすようにみた。

 寒気が止まらねーよ。


「おい。ここでトラブルは困るぞ」


 俺たちと相手側の真ん中に入り、止めるバファル。

 俺もサラの事を止める。


 瞬殺しちゃいそうだし。


「決闘だ! お前らに決闘を申し込む!」


 馬車から出てきた男が大声で叫ぶ。

 よく見たらダルダだった。


 回復魔法かポーションで傷を治したのか。


 クソ、手足の一本は潰しておけば良かった。


「待て、ダルダさん。決闘は両者の同意が必要だ」

「私は構いません!」

「サラ!?」


 まさかのサラが同意した。

 意外だな。


「あっはっは! あの女が同意したぞ! バファル、お前が見届け人をしろ」

「……決闘はいつやる」

「今日だ。今からやるぞ。グラウンドを貸せ」

「分かった」


 グラウンドって凸凹だけど大丈夫か?



「おい、お前ら。決闘には賭けるモノが必要だぞ! 俺はお前らの一番大切なモノだ!」


 ……ゲスが。

 マジで殺してやろうか。


 俺が動こうとした瞬間、サラに手を握られた。


「ガクさん。ダメです。今は我慢です」

「……ゴメン。また暴走するところだった」


 サラが止めてくれて良かった。


「お前らも俺に要求して良いぞ。何にするんだ?」

「そうですね。一つ、私たちとの今後一切接触しない事。二つ、家と奴隷と服とその他の金額の負担。三つ、金貨二百枚でどうですか?」


 吹っかけたな~。

 金貨二百枚って日本円で二億だぞ。


「いいぞ。その程度安いモノだ」


 マジかよ。

 金持ってるな~。


「……両者の決闘に賭けるモノはダルダ側はサラク、ガクとの今後一切の接触を断つ事。家、奴隷、服とその他の金銭の負担。金貨二百枚。サラク側は二人が一番大切なモノ。異議がなければ同意をしなさい」

「同意しよう」

「同意します」


 バファルが険しい顔をしている。


「では、この決闘の見届け人は私、バファルが執り行う。決闘方式は代表戦を推奨し、一対一での戦闘とする。決闘である為、相手を殺しても罪には問わない」


 マジかよ。

 殺す気でくるのかよ。


「こっちはネズが代表として出る」

「うっす」


 二メートルの大男が一歩前に出た。


「私が代表として出ます」


 こっちはサラが代表で出る。


 サラの怒りが爆発する前に始まらないかな?


「では、場所を移動しよう」


 俺たちは再びグラウンドに向かう。

 途中でシャルルが俺たちに気が付いたが、ただならぬ雰囲気を察知し、地面を均している人たちを集めて退散させた。


「サラ、状の杖出そうか?」

「大丈夫です。防具もいりません」

「分かった」


 サラがそう言うのであれば出す必要がないのだろう。


「サラク~。だいじょうぶ~?」

「大丈夫ですよ、ルアン。私のカッコイイ姿見ていて下さいね」

「うん!」


 サラはルアンの頭を撫でてグラウンドの中心に向かった。


 すでにネズとかいう二メートル越えの大男がスタンバイしていた。


「これより、決闘を開始する。降参をした瞬間に止めに入るのでそのつもりで」

「あぁ」

「はい」


 サラもネズも構えをとらない。


「開始!」


 決闘という殺し合いが始まった。

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