もしや

 押忍!! ガクです。ある番組でやる気を出す為の方法に『とりあえずやる』ってのがありました。やってればその内やる気が出てくるって発想って自己防衛の一種じゃね? って思った事があります。


 通人に道を尋ねながら冒険者ギルド会館に到着した。

 帝都の冒険者ギルドはモックやへイルにあったような外観をぶち壊す仕様になっていなかったので探す事が容易ではなかった。


 あんなビルが建ってれば分かるんだながな。


「時間かかっちゃったね~」

「私をからかおうと思ってますね! 私はそんなすぐにアワアワしなんですよ!」

「サラの恥ずかしいさに悶える顔が見れないとは……」


 スッゴイ残念だ。


「そもそもガクさんは―」


 サラがドアに手を掛け、開く。


「お帰りなさいませ。旦那様。お嬢様」


 サラは速攻で閉めた。


「サ、サラ?」

「あ、えっと。ビックリしました」


 そういえばヘイルのギルド会館で受付してくれた人は普通な対応だったな。

 それに人だった。


 う~ん。

 それはそれで良いな。


「い、行きましょう」

「そうだね」


 覚悟を決めましたって感じだな。


「お帰りなさいませ。旦那様。お嬢様」


 あ、サラが固まってる。


 う~ん。

 何で帝都のギルド会館の受付する人の服装がセーラー服なんだろう。


 おそらく、というかほぼほぼ燐火さんが原因だと思うけどね。


「ガクさん。あの服、可愛くないですか?」

「いいよ」

「ガクさん!?」


 言いたい事は分かってるさ。


「まぁ先にやる事をやっちゃおうね」

「はい!」


 満面の笑顔。

 君のその笑顔、守りたい。


「こんにちは。ご用件をどうぞ」

「あ、はい。ダンジョンに入りたいので、その手続きをしに来ました」

「分かりました。冒険者カードはお持ちですか?」

「はい」


 俺とサラはカードを出して受付嬢に渡した。


「少々、お待ちください」


 そう言って奥に行ってしまった。


 暇なので辺りを見渡す。

 現在の時間が半端な為なのか人が少ない。

 こういった大きなギルドはたくさんの人がいるって思ってたんだがな。


 ボードを見ている人が数人と机で寝ている人が数人。

 話している人が数人ってところか。


「お待たせしました。冒険者カードをお返しいたしますね」

「はい」

「では、こちらがダンジョンに入る為の書類です」


 サラが渡された書類をテキパキと書いている。

 俺の分も。


 少し時間がかかるかな?


「あの? ちょっと良いですか?」

「何でしょう?」


 いや、『アナタは書かないんですか?』的な目で見ないでよ。

 まだこの世界の文字とか覚えてないんだよ。


「人が少ないように感じるんですが、いつもこのくらいなんですか?」

「えぇ。多く人がダンジョンへ向かっていますので、人が少ないんです」

「あ、そうなんですね」

「はい。それに最近、ダンジョンでの噂がありまして……」

「噂?」

「書き終わりました」

「確認いたしますね」


 おやおや?

 サラが怒ってるぞ?


 ……何故だ?


「……はい。大丈夫ですね。では、こちらをどうぞ。サービスです」


 もらったのは真っ黒な石が二つだった。


「これは?」

「ダンジョンで、一番効率良くお金を稼ぐ為に必要なモノです。名前は蓄積石です」


 鑑定のスキルを持っているのを思い出いし、使ってみた。


~~鑑定~~

名前 蓄積石 lv0

効果 魔物を倒した際に一部の力が蓄えられる。


 レベルの概念があるアイテムなのか。

 面白いモノもあるんだな。


「どのように使うんですか?」

「持ってるだけで大丈夫です。ただ、魔具である魔法バックのようにその場から切り離された空間にしまわれると、効果はありません」

「なるほど」

「魔物を倒すとその石の色が変わります。最初は黒。最終的には白になります。色は五段階するので変わった時に売却をお勧めします」

「ありがとうございます。ちなみに白でいくらになるんですか?」

「金貨二十五枚です」

「高いですね」

「それだけの難易度ですので」

「そうですか」


 説明は以上のようだ。

 紙にでも内容が載っていたのだろう。


 サラが必死に読んでたからな。

 後で聞いておこう。


「何かご質問はありますか?」

「大丈夫です。ありがとうございました」

「行ってらっしゃいませ」


 こうして一つ目の用事が終わった。


 馬車に乗ってサラが口を開いた。


「ルアンは寝ていますか?」

「寝てるよ。バックの中でグッスリだ」


 寝ているルアンを馬車に置いておくという選択はなく、俺のバックの中身を全部抜いてからタオルやらなんやらを詰めて、ルアンを入れた。

 熱いかな? とは思ったが、問題なかった。


「この後はどうしますか?」

「そうだな~。荷物を売っちゃおうか?」

「では、商業ギルド会館に行きましょう。道は分かりますので」

「分かった」


 俺は魔力でも循環させるかね。


 俺の荷物はスミスさんに渡された物だ。

 樽にして百個以上はある。


 どのぐらいで売れるかな?


 それと、商業ギルド。

 物の売買に関する事を生業としている人たちが入るギルドで、俺たちのように大量に物を売る時は商会を使わなけばならない。

 これは俺たちを守るモノで安値で買い取られるような事を防ぐ為らしい。


 守らなくても罰則などはない。


「そろそろ着きますよ」

「早!?」

「各ギルドをバラバラな位置にあると大変なのでギルトが複数ある場合は大体近くにあるものなんです」

「そうなんだ」


 この世界の交通手段は馬車がメインだからな。

 あっちこっち回るにも時間がかかってしょうがない。


 数分後、商会ギルドに到着した。

 初めて来たが、外見は冒険者ギルドと大差なかった。


 今回は俺が先に入った。

 話すのはサラだけどね。


「らっしゃい。何の用だ」


 速攻で要件を聞くってさすがは商人だな。


「荷物を売りに来ました」

「物は? 個数は? 提示金額は?」

「物はこちらです。個数はこれと似た物がある程度あります。価格はそちらの金額を聞いてからにしましょう」


 テキパキしているな~。

 感心しちゃうよ。


 サラは自分のバックからモックの特産品である木を彫った置物を数個置いた。

 熊の木彫りのようなモノだな。


「……モックの特産品だな? 状態は良い。色の変色もない。木のいい匂いもする。……面白いな」

「どうでしょう?」

「価格は一個銀貨八枚~十枚だな」


 日本円換算で八千円~1万か。

 高額だな。


「……お話になりません。帰ります」


 サラが置物を持って帰ろうとする。


「待て、嬢ちゃん。商人の冗談だよ」

「……そうですか。私は嘘が好きではありませんので」

「分かったよ」


 今、気が付いた。

 もしや、サラって交渉とか無敵じゃない?


 嘘は見抜くし、相手の感情も分かる。

 俺がサラの交渉相手ならお手上げだな。


「ここじゃなんだ。場所を変えようぜ」

「いいでしょう」


 サラもテンションが上がってきたようだ。

 かなりノリノリである。


 応接室のような部屋に通され、お茶とお菓子を出してもらった。


 ……美味い!?

 おかわり自由かな?


「まぁさっきは済まなかった。俺も商人だからな」

「いえ」

「で、これをどのくらい持ってるんだ? 話はそれからだ」

「ある程度。と、さっき程言いましたが?」

「そう言うなよ。これは一個ずつ見る必要があるからな。大まかで構わないよ」

「そうですか……」


 俺、ここにいなくてもいいよね。

 まぁお茶が上手いから良いか。


 サラが負ける事は考えられないし。


「樽の中にたくさん入っていて何個入ってるか分からないんですよ」

「その樽はどこにある。まさか外か?」


 商人の目つきが鋭くなる。

 こえーよ。


「いえ、信頼できる場所にあります」

「……そうか。樽は何個ある? 十か? 二十か?」

「五十程度はあります」

「五十!?」


 大きな声出すなよ。


「ガク~? どうしたの~?」

「何でもないよ。ルアン」


 商人はルアンを見て驚いてはいるが、合点がいったように少し笑って様子を伺い始めた。


「……おなかへった~」

「俺が少し食べちゃったけど、これ食べるか? 美味しいぞ」

「たべるぅ~!」


 机の上にあるお菓子とお茶をルアンに渡した。


 頬を膨らませながらモキュモキュと食べている。

 寝起きでここまで食べられるって若さだな。


「すいません。お話の腰を折ってしまって」

「問題ない。そうか。お前らか。ダルダさんをボコボコにしたヤツってのは」

「あいつをボコボコにしたのは俺です」

「ガッハッハッハ! よくやった、兄ちゃん」


 笑い出した。

 ルアンはお菓子に夢中。

 カワユイ。


「アイツは昔かっら気に食わないヤツでな。気が晴れたぜ」

「どうも」


 アイツ、どんだけ嫌われているんだ。

 まぁ、反省はしている。

 だが、後悔はない。


「おっと。商談中だったな。ん~。銀貨三十枚。最低価格でこれだけだそう」


 日本円にしたら三万かよ。

 これが最低価格。


 さっきはどんだけぼったくりしようとしたんだよ。


「……嘘は嫌いだと言いましたが?」

「何が嘘だと言うんだ? 俺は何も―」

「アナタ、ダルダさんを嫌ってはいないでしょう?」

「そんな事はない。ヤツがボコボコにされたってっ聞いて―」

「『特に何も思わなかった』のでしょう?」


 ノリノリだな~。


「それと、最低価格銀貨三十枚では安いですよね? 仕入れと運搬の費用を合わせれば全然少ないです」

「なんで……」

「はい?」

「なんでそこまで分かる」


 商人がサラに嘘を見抜かれて警戒に入ったな。

 まぁ、感情が分かるサラは手に取るように相手を誘導できるだろうな。


 単純な俺はお願いされれば誘導されちゃうけどね。


「まぁ、何ででしょうね」

「……はぁ~。降参だ。惨敗だ」

「どうも」


 どういう事だ?


 俺はお腹がぷっくりとなったルアンを膝に置いて思った。


「価格は……そうだな。ちゃんと一個ずつ見よう。一人じゃ数が多いから複数の人数でやるが、信用できる者たちだ。で? 全部でどのくらいある?」

「樽で百はあります」

「……そうか」


 商人は考えているな。


 俺はルアンとジャンケンしてあっち向いてホイをしている。

 全敗中だ。


「明日の朝にまた来い。人を集めさせて運ばせる」

「その必要はありません。置く場所が分かればそれで充分です」

「それは魔具か?」

「そのようなモノです」

「そうか。だが、明日の朝で良いか?」

「はい」

「この三つの置物はここで買わせてもらおう。全部で銀貨百三十枚でどうだ?」

「良いでしょう」

「待ってろ。金を持ってくる」


 そう言って部屋を出た商人。


「どうでしたか? ガクさん」

「うん。エロカッコ良かった!」

「エロは余計です~!」

「でも、まさか金貨一枚と銀貨三十枚になるとは」

「状態がかなり良かったですからね」

「なるほど」


 俺ではなく、スマホの能力か。


「待たせたな。確認してくれ」


 タイミングよく入って来た商人の手には硬貨が入った袋が入っていた。

 まさか全部銀貨かよ。


 サラは中の硬貨を一枚ずつ数えている。

 スミスさんのお店をやっていたのでお金の計算が早いな。


「確かに」


 俺が硬貨の入った袋を預かり、バックの中に入れるフリををして【アイテム収納アプリ】の中にしまった。


「それじゃ、明日の朝で頼むな」

「はい。それでは」


 俺とサラは商業ギルドを後にした。

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