天元突破!!

 「…………知らない天井だ」


 絶賛現実逃避中の漢。名は学。年は三十六。彼女いない歴=年齢。現在ハーレムを作る事が我天命。どんな苦難に晒されようとも俺は必ずこの天命を成し遂げる。


 昨日、我身に降り注いだ災難は一晩経っても変わらずにいる。


 ここは? 部屋だな。狭いな。ベットと机ちょっとしたタンス以外ないし。イヤ、これ以上、物自体が置けないな。


 ここまでを整理しよう。異世界に来て飲まず食わずで十二時間以上の長旅。やっとの思いで町に、暗くて見てなかったが街ってレベルだと思う。家は木造だな。門番のとこの柵や受付も木で作られてたし。


 町に入る為には身分証が必要で俺は持っていない。ここまでは問題ない。


 門番のおっさんに再発行をお願い。物凄い苦い顔をされ連れて行かれた謎の家。


 その家もやっぱり二階建ての木造建築。おしゃれな家だから後で写メに保存予定。


 家の住人は修道服を着た優しい感じのおばさん。十人中十人がシスターかな? と思うような服を着こなした人。その正体は奴隷商人、名はスミスさん。俺はどうやらここで三週間も働くらしい。三週間も働けるかな?


 ……なぜこうなった?


思考に耽る俺を余所に突如ドアが開いた。


「オイ。いつまで寝てんだ。早く起きろ」


 分かっていても違和感半端ないな。一見優しそうな外見と修道服。だが、しかし口調は乱暴。今日はくわえタバコをしている。なんか違和感の塊だな。


「すいません!! 今起きました!!」

「お!! そうか。丸一日も寝続けてたからな。盛った毒が思いのほか効きすぎたらしい。アッハッハッハ」


 盛った毒? ……思いだした! 勧められて飲んだあの紅茶みたいな飲み物だ。あれ飲んだ後に物凄い眠気に晒されたんだった。毒盛られたのかよ。……結構美味しかったなあの紅茶。また飲みたい。


 それに俺は一日以上寝てたのか。マジかよ。転生二日目かと思ったら早三日かよ。残りは二十日かな?それならラッキー!


「あ、あの。俺は一体どうしたら……」

「ん?まずは飯だ。行くぞ。ついて来い」

「え?は、はい!!」


 スミスさん行動が早い! 俺の返事を聞く前に部屋を出てった。俺は慌てて後を追う。クソ! 靴はどこだ!!


 向かうは一階。俺は二階で寝てたらしい。


 スミスさんに追いつき部屋に入る。すると一人の女の子がいた。食事を作ってるらしい。顔は見えないが背後から見えるシルエットで大体分かる。俺のゴットアイを見くびってもらっちゃ困るぜ。


 普通にかわいい。イヤ、体の成長がすごい。俺の中で花火が打ちあがってる~。エプロン姿がめっちゃ可愛い。エプロン少女と心の中で名づけよう。


「飯にしよう。ガク。好きな席に座れ」

「あ、はい」

「今、お食事お持ちいたしますね~」


 声も可愛い。耳が幸せだ~。


「食いながら話そか」

「わ、分かりました」


 席に座り料理を待つ。全部で八席あるな。横長のテーブルに端に一席ずつと横に三席ずつ。こんなに大きな席が必要なのだろうか。


「お待たせいたしました~」

「あぁ。後、軽い酒を頼む」

「分かりました。どうぞ」

「どうも」


 美味そうだ。そう言えば俺丸二日何も食べてないや。餓死寸前だな。もはや空腹感も感じないぜ。


「どうした?食っていいぞ」

「あ、すいません。ちょっと考え事していて」

「スミスさん。お酒はこちらでよろしいですか?」

「あぁ。それでいい」


 食事を始める俺、お酒を飲み始めるスミスさん。その様子見る一人のエプロン少女。クソ!顔が見れない。


 俺は貪るように食べ、おかわりをしながら腹を満たしていった。うまい。こんなにうまい料理は初めてかもしれない。食べ物を食べ体にエネルギーが循環されて活力が漲る。先ほどまでと違い体から熱が生まれていくのが分かる。体の中から生を感じる。生きてるって気がする。


「アッハッハッハッハ。ガク。お前は面白いな!!」

「え?」

「食べながら泣くとは器用な事をする」

「……ほんとだ。俺…………泣いてる。」


 泣いていた。気が付くと泣いていた。無意識に涙が溢れて来た。だが、嫌な感じはしない。逆にうれしい気持ちがある。なんなんだろう。この暖かい涙は。俺が地球での生活で感じた事が無い。心の中にある冷たい何かが溶けてく気がする。俺はこの気持ちを知らない。なんという気持ちなのだろう。


「すいません。あまりにも料理がおいしくて」


 さりげなくエプロン少女に対し好感度を上げようとする俺。


「さて、落ち着いた事だし、話に入るとしようか、ガク」

「は、はい。」


 はい。普通にスルーされました。


「まず、お前の今の状態を話す」

「状態?」


 俺、どっか悪いのか?


「お前の状態は現在、俺が主でおまえが奴隷っって事になってる」

「は?奴隷?俺が?」

「そうだ。腕輪を渡しただろう?あれは奴隷が付けるものだ。外すのは簡単で特に行動を縛ったりと言った代物ではない。この街で過ごす為の仮の身分証だ」

「何でこんなことを……」

「お前の素性が分からんからに決まってるだろう。犯罪者かどうか、どっかのスパイかどうかなどを三週間で見極める。問題無しなら再発行。それで終了だ」

「問題があったらって、もしダメだったら?」

「私の正式な商品となり完全な奴隷になってもらう」

「え?……マジッすか?」


 え?俺の異世界転生は三日目にして詰みか、俺の自由がなくなっていく。売られるのかな~俺。


「……俺を売る時はなるべく綺麗な人にお願いします」

「お前、案外余裕があるな」

「今のこの状況を俺の心が受け付けてくれてないだけです」

「クスクス、クスクス」


 俺とスミスさんの会話を聞いていたのかエプロン少女が小さいながら笑っていた。俺はこの人の笑い声を聞くために生まれたのかもしれない。


 ん?そうなると俺の人生ここまで?ダメじゃん!!


「お前が笑うなんて珍しい事もあるもんだ」

「すいません。私が笑う事の珍しさなんて、スミスさんのご機嫌に比べたらそこら辺の石ころですよ」


 そんなことはない!!君のエプロン姿は世界を救い!君の笑顔で戦争がなくなり!君の存在は僕というちっぽけな存在に希望をくれんだ!!と言おうとしたが、エプロン少女の笑顔を見てしまった俺は時間が止まったように動きを止め、思考を停止。彼女の顔を見る。その事しかできなかった。


 くそ。俺のゴットアイは不良品だったらしい。まさか俺の目でも計れない女の子がいようとは考えもしなかった。髪は茶髪。ショーットカット真ん中分け俺の理想通り。目鼻立ちも良くバランスが整っている。すれ違う人が10人中11人が目で追ってしまうだろうな。そんな可愛さだ。そして彼女の特徴はなんと言っても…………


「……赤い瞳」

「なんだ。今頃気が付いたのか。胸ばっか見てっからだな」

「イヤイヤ。なんでそんな事無いですよ! スミスさんなんでそんな事言うんですか! 変な人って思われたらどうするんですか?!」

「一瞬も見てないのか?」

「見てな……。クッ!!すいません!目を奪われました!!」

「ウム。正直でよろしい」


 絶対におかしな人、もしくは変態と思われただろうな。あ~嘘が言えなかった。あの胸は健全男子なら間違いなく目が行くだろう。見てないなど口が裂けても言う事が出来ない。


 ふと、エプロン少女を見ると彼女は暗い顔し、ポケットからある物を取り出した。


 それは口以外を隠す仮面だった。そして彼女の目が、顔が見れなくなる。なぜ隠す必要がある!! 俺に見られたくないのか? ……やべ~ガチでショックだわ~


「なんで隠しちゃうんですか?」

「なぜって、こんな目。……あなたもこの目を醜いと思っているんでしょう?」

「イヤイヤ。ありえないでしょ!」

「冗談か何かですか?この目を見て同じ事が言えますか?」


 エプロン少女は仮面を外し、俺を真っ直ぐ見つめてきた。やべ~このまま時止まんねーかな?お~~い。残念ロリ神。ちょっと一世紀ぐらい時を止めてもらえないかな?

 そうすればこの目に見られても心を奪われない可能性が出てくるかも。いや~~


「何度見ても綺麗な瞳だな~~」

「……え?」

「…………声に出てましたか?」

「あぁ。ばっちりとな」

「……やっちまった!!」

「スミスさん。私は失礼します」

「わかった」

「え?……ちょっと!!」


 俺の言葉も虚しく彼女は部屋から出て行ってしまった。


「嫌われた。絶対に嫌われた。オワタ~。完全にオワタ~」

「本気で言っているならお前は彼女の一人もできやしないだろうな」

「ぶるぅぅぅぅわゎゎぁぁぁ!!」

「もしかしてお前、女の一人もいないのか?」

「グハ!!」

「なるほどな。お前の場合モテるモテない以前にタイプの女の顔もまともに見れないもんな?さっきみたいに」

「あべし!!」


 もうやめて!! 俺のHPはもうマイナスの天元突破! ドリルで掘る速さでマイナス値更新中!! もはや俺の心は砕けて消えた。


「あいつの名前はサラクだ。年齢は十六」

「十六!!」

「あの発達で十六だ、まだまだ大きくなるだろうな」

「なんと素晴らしきかな桃源郷」

「ん?なんか言ったか?聞こえんかった」

「い、いえ。何でもないです!」


 あっぶね~。またやっちまうとこだった。


「そういえば、これからどうするのか聞いてなかったな?ガクお前は紛失の儀をやるのかい?」

「やらない場合は?」

「現段階では引き返す事が出来る。もちろん再発行はできない。」

「やっても駄目だったら?」

「お前は奴隷になる」

「う~ん」

「お前の教育係をサラクにしよう」

「よろしくお願いします!!」


 俺はこの口車に乗ってしまった。後悔することになるのはそう遠くない未来。そして遠い未来は多分、残念ロリ神でも分からないのだろう。


 こうして俺の地獄の三週間が始まった。一日減らなかった。地味に残念だ。

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