サラクの事

 押忍!!男の中の漢。名前は学。この世界ではガクです。昨日、悪夢を見ました。はっきり覚えていませんが、起きたら尋常じゃない汗をかいていました。まだ俺には人の斬った張ったは早いと思いました。


 「神様。今、大丈夫だったら電話してくれないか?ちょっと相談もあるんだ」


 現在、俺は自宅の自室にいる。時刻は深夜3時。


 あの後、スミスさんが俺たちを先に帰らせ、『後の仕事は俺がやる』と言っていた。あまり深く考えんよ。俺はね。

 食欲は皆無だったが無理やり食べ、風呂に入り、なんだかんだでこんな時間になってしまった。


 俺は、今日の出来事を考える。何ともまぁ、無様だったのだろうか。俺は。


 人に頼る。今日の俺はそれかしていない。違うな。俺はそれしかできなかったんだ。


「……プルプルプル~。プルプルプル~……もしもし」

『こんばんは。こんな夜遅くに私の声が聞きたくなるなんて、どうしたんですか?』

「……。俺は……本当にこの世界で生きて行けるか?」

『学くん。今日はやけにシリアスモードですね。何かおかしな物でも食べましたか?』

「真面目に頼む。ちなみに今日の晩飯はマスか作った。意外に美味しくて残念だった」

『そ、そうですか』

「あぁ」

『……質問にお答えします。学くん。何か勘違いをしていませんか?』

「勘違い?」

『その世界は、学くんのいた世界よりシビアですが、深刻になるほど難易度は高くはないですよ。むしろ、学くんはずっと甘い生活をしていただけで、他の転生者の人たちは案外楽しそうに生活していますよ?』

「……俺が、甘いのか」

『少し違いますね。学くんが甘いのは自身ではなく、認識です』

「……よく、分からないな」

『これまで学くんの認識では人は死に難いと認識していました。ですがそれが変わりつつある。この世界では簡単に人が死ぬと思っていますね?』

「あぁ。人が死んだり、殺されそうになったり。日本じゃありえないだろ?」

『学くん。そこが認識が甘いポイントです』

「……?」

『日本じゃありえないとおっしゃいましたね?違います。日本でも起こっていましたし、人は人に殺されていましたよ?ニュースで人の死が放送されない事がありましたか?』

「……無かったな」

『学くんは、周りの環境が世界だと認識していたんですよ』

「周りの環境」

『地球の死者は約十五万人が一日に及びます。この世界では約二十万~二十五万人です。地球よりも多いですが、この世界は地球よりも治安や生活水準は低く、常に命の危険があります。この差を学くんはどう思いますか?』

「……正直。少ないと思った。倍以上だと思った」

『これが、認識が甘い所ですね』

「そうか……」


 俺は、甘ちゃんだったのか。


『正直、学くん自身も弱いと思いますが、そこまで深刻にならなくても良いと思いますがね』

「そうなのか?」

「えぇ。弱ければ強くなれば良いだけですし」

「簡単に言うな~」

『前にも言いましたが、参加賞はスタートダッシュ要素です。つまり別段なくても支障のないものです』

「そうだったな」

『この世界に転生してまだ一か月も経っていないんですよ?弱いのは当たり前です。ですがずっとこのままでは流石に生きて行けません。だったら強くなる以外に道はないはずですが?』

「そ、そうだな」


 なんかもう数年はいるような気がしている。


『他に質問はありますか?』

「ん?……ぁ。そうだ。スミスさんに話をしなきゃいけないんだがどこまで話して大丈夫なんだ?」

『さぁ?』

「は?」

『え?』


 久しぶりだな。これ。てか、知らないのかよ!!


『これも前にお話ししましたが、神様は基本的に何もしません。これは出来ないと置き換えても構いません。神様は直接この世界に手を出すと降格されます。間接的にやってもバレたら降格です」

「え?じゃお前もヤバいんじゃ!」

『私は大丈夫ですよ?この程度は問題ありませんし』

「そ、そうなのか」

『はい。まぁ、そのような感じで、学くんが話しても止める事も邪魔する事もできません。なのでご自由にどうぞ』

「話した後で何かないよな?」

『アハハハ!ないですよ!!それに話したところで信じないと思いますよ?』

「……それもそうか。この世界とは違う世界で生まれて俺はその世界では死んでいる。神様に会ってこの世界に転生したけど、右も左も分かりません。って話たところで信じないか」

『そうです。最悪、頭のおかしな人になりますね』

「スミスさん相手なら最悪は殺されそうだ。多分ないとは思うが」

『いい人たちと出会いましたね』

「全くだ。感謝してるよ」

『アハハハ。日本じゃ感謝のかの字もなかったですからね』

「それを言うな。地味に精神がダメージを受ける」

『それは失礼しました~~』

「……ありがとな」

『はい?すいません。聞こえません出した。大きな声ではっきりと喋ってもらえませんか?』

「ありがとうございます!!」

『よく言えました!!二回もありがとうだなんて』

「聞こえてんじゃねーか!!」

『もちろんですよ?』

「なんかムカつく!!」

『私は学くんを転生させただけですからね。感謝される事はしていませんよ?』

「そんな事はない。十分に感謝している」


 家族の事。サラの事。そして俺の事。こいつには感謝してもしきれないほどの気持ちがある。


『そうですか?あまり分かりませんが感謝は受け取っておきますね?』

「そうしてくれ」

『はい』


 その後、他愛のない話をし電話を終えた。明日はなんとかなりそうな気がしてきた。


「ガク。私の質問に正直に答えろ。嘘を付くことは許さん。分かったか?」

「はい」


 ダイニングに皆が集まっている。スミスさんたち全員は普通の服装だ。


 サラはスミスさんの隣にいる。なぜか仮面着用中。俺の癒しが!!


「まず最初にサラの情報を受け取った事について質問がある」

「はい」


 最初はそこからか。当然の事だよな。


「なぜ、あそこまで正確か情報をあんな短時間でつかめたのか。誰から聞いたのかを話せ。出来ればそいつの事についても話せ」

「……話せません」

「……次だ。学。これはお前だな?」

「はい」

「では、ガクという名は偽名なのか?」

「違います。それも俺の名前です」


 地球にいた頃の名前は学。この世界ではガク。俺はそう思っていた。なんで俺の名前が分かったのか分からないが、今の俺はガクだ。神様は学くんと言うがな。


「同郷の奴らとは?」

「俺と同じ境遇にあった者たちですね」

「他にもいるのか?」

「多分。いや。必ずいます」

「同じ境遇とは?」

「言えません」

「なぜだ」

「言っても信じないと思うからです」

「信じるか信じないかはこっちで決める。話せ」

「絶対に信じないですよ?しかも俺の事をおかしな奴だって思いますよ?」

「今さらだな」

「マス。今さらってなに?俺って皆におかしな奴だって思われてたの?!」

「「「……」」」

「誰か否定して~~!!」


 そんな、俺はすでにおかしな奴だったなんて、そん事無いのに、俺は普通の人間だよ~。


「ほら話せ」

「……分かりました」

「同じ境遇の奴らから話せ」

「それは……この世界に転生した人たちの事です」


 うわ~。ポカーンって顔してる。なんか恥ずかしい。


「サラク。どうだ?」

「……真実です」

「そうか……」


 なんで、サラが真実だと分かるんだろうか。


「お前には話してなかったか」

「サラクの目についてだ」

「聞きましたよ?」

「違う。目の能力についてだ」


 ……。目の能力。あの紅い瞳はカッコイイだけでなく、何かしらの能力があるのか?す、すごい!!


「何かあるんですか?」

「あぁ。サラク。お前が言え」

「はい。ガクさん。私は、私の目は相手が嘘を付いているのかが分かります」

「へ~~。で?」

「え?……それだけですが…………ガクさん?」

「フム。紅い瞳を持ち、可愛く、キレイ、おまけに料理もできて、家庭的。そして強くて、特殊能力持ち。なに?この世界の人強くね?」

「なにブツブツ言っている」

「あ、すいません。サラの能力が服を透視するって話ですよね?サラ、余り見るなよ。恥ずかしいから」

「ガクさん!!違いますよ!!私はそんな変態な能力は持ってません!!しかも余りってなんすか!!そこは見るなでいいじゃないですか!!」

「あれ?違った?思考が読めるんだっけ?それも恥ずかしいな。サラには絶対に言えないような事、妄想しちゃってるからな~」

「何を想像してるんですか!!やめてください!!私の能力は嘘を見抜く力です!!」

「それは、俺には無意味だな。サラに質問されたら全て答えてしまいそうだし、サラに嘘つきたくないし。う~~ん」

「……嘘。……本当に」

「ん?便利な能力だね~。どうやって伝えたらいいか分からなかったから、伝わるってのは便利だ」

「ガクさん。…………私を怖いとは思わないのですか?」

「全然思わないな。何で?」

「私の能力は嘘を見抜く力ですよ?私の前では嘘を付けないんですよ?」

「それがどうしたの?」

「ほんとにおかしな奴だな。ガキ」

「マス。何か言った?」

「いや。別に」

「ガクさん…………私は、あなたの傍にいて良いですか?」

「サラがいてくらたら俺は安心できるから是非お願いします」

「うぅ。…………ガク……さん」

「えぇ!!サラどうして泣くの?俺何か言ったかな?ごめん!!泣かないで!!」

「お前、サラクを泣かせたな」

「あ~あ。料理のランクが下がるな」

「スミスさん?マスまで。俺はどうしたら!!」

「「知らん。自分で考えろ」」

「そんな!!」


 俺は、サラに近づき肩にに手を置く。泣いているサラは仮面を外し手で顔を覆っている。


「サ、サラ。泣かないで。ね?」

「うぅ~~ヒック。ウワ~~~。」

「大泣きになった!!マス。助けて!!」

「……ボス。アホらしくなったんで俺、仕事に戻っていいですか?」

「あぁ。お前らも仕事に戻っていいぞ」


 俺とサラとスミスさんを残し、皆が仕事に戻った。なんてタフな人たちだ。俺はそんな体力ないぞ!!


「ガク。サラクが泣き止んだら二人で俺の部屋に来い。そうだな。二時間あればたっぷり出来るだろう。若さを考慮して三時間以内には来いよ」

「ちょ!!スミスさん!!……行っちゃったよ。物凄い事言いながら」


 何この状況。俺、最悪スミスさんに殺されると思ってたのに。何なの!!  

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