1-3
午後0時43分。つぎはぎの翼号にて。
そろそろ操縦桿から手を離して大丈夫だろうと、シルウィンは肩の力を抜いた。計器も安定している。後ろに座るギディを振り返った。
「ギディ、とりあえず、安定飛行に移行するか……わっ」
つぎはぎの翼号が大きく揺れた。
計器は安定していたはずだと、シルウィンがあわてて計器に目を戻す。
「危な……」
「ギディ!!」
鈍い音がして、ギディがシルウィンの操縦席の背もたれに頭をあずけてきた。後頭部の髪に混ざって、赤いものが見える。ズルズルと床に滑り落ちるギディを見て、シルウィンは真っ青になった。あわててベルトを外そうとするが、つぎはぎの翼号がさらに傾いた。
シルウィンはパニックに陥った。
「ギディ、ギディ、ギディ……」
大好きな幼なじみに手を伸ばして、名前を繰り返す。後悔からか、恐怖からか、懺悔からか、シルウィンはただただ名前を繰り返す。ベルトを外すことも忘れて、ただただ名前繰り返すことしかできなかった。
傾いたつぎはぎの翼号が、いつまでたっても落下しないことにシルウィンが気がつくまで、しばらく時間がかかった。
静止しているわけでもない。まるで抱っこされてグルグルと振り回されているような動きだった。
「落ち着くんだ。ボクがしっかりしないと」
シルウィンが涙を拭って、操縦桿を握ろうとした時だった。
床下の機関室から伝わる振動がやんだ。操縦室から、熱機関を止めることはできない。
新たなパニックが彼女を襲った。
間違いなく、誰かいる。幼なじみと2人しかいないはずのこの飛行船に。階下から、確かに足音らしき音と、かすかに人の声らしきものも聞こえる。
夢なら覚めてほしい。できれば、黒い飛行船がやって来た時から夢であってほしいと、シルウィンは初めて強く願った。
床のハッチが開く音がして、シルウィンは強く目を閉じた。涙がまた溢れている。
「これは、どういうことでっしゃろ? 少年が2人?」
つぎはぎの翼号でシルウィンとギディを見つけた時、グウォンはただただ困惑していた。
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