5-5
午前11時27分。天空楼閣号、操縦室にて。
ベル・アボットは、一騎打ちのために天空楼閣号の向きと位置を調節している。見張り台とつながっている伝声管から、わざとらしいローゼのため息が聞こえてきた。
『なぁんで、公式ルールにするのかなぁ』
見張り台のローゼが嘆いているのは、一騎打ちが終わらないかぎり、見張りを交代できないからだ。ベルはローゼのむくれている姿が、鮮明に思い浮かべてクスリと笑った。
『さぁね。うちのリーダーの考えるとこは、よくわからないからね』
指示だけだして、理由も意味も説明しないレイヴンを、ベルは快く思ってなかった。
『そもそも、クロードが本当にシルウィンの姉を誘拐したかどうかも怪しい』
『やっぱり、ベルも気になってるんだぁ』
この予定外の儲けのない仕事は、初めから疑わしい点がいくつかあった。今さらといえば、今さらだったかもしれないと、ベルは諦めのため息をついた。
『どのみち、もうすぐわかることね』
午前11時31分。天空楼閣号、ウィングカイト格納庫にて。
「そろそろ時間だ。マックス」
「わぁってるよ!」
グウォンが2人の依頼主を連れて来る前から、マックスはレイヴンに抗議していたが、ようやく諦めた。もっとも、すでに決まったことだったから、ギリギリまでレイヴンに不満をぶつけていただけだったが。
「負けても恨むなよ」
マックスはゴーグルをはめて、すぐ上の機関室の音に負けないように、格納庫の中二階部分に立つシルウィンとギディに声を張り上げる。
中二階の手すりに止まっている気難しい
天空楼閣号が安定した揺れに変わったのを、マックスが全身で感じたのと、用意が整った合図のベルが鳴ったのは、ほぼ同時だった。
自分以外が格納庫を出て、隣の部屋に移動したことを確認してから、マックスは壁際のレバーを引いた。
ガラガラと音をたてて、壁の一部が外側に倒れていく。すぐに吹き込む強風にも動じることなく、中央の朱色のウィングカイトに向かう。
黒の狩猟団のおかかえ
朱色の愛機サンセットバードに飛び乗る頃に、外側に開いた壁が床の一部のなる。ゆっくりと大空へ滑り降りるために、床が傾き出す。
ハーネスで体を繋いで、ふとマックスの脳裏に黒の狩猟団のもう1人の
「ありえねぇよ」
彼は自分よりも格上だ。勝てる気がしないほど、彼は優れた
選手として競技会に出るとこはなくなったが、
だが、今の彼は
頭領が一騎打ちをするはずがない。
「ありえねぇよ」
もう一度自分に言い聞かせるが、かつてのチームリーダーであり、尊敬する長兄クロード・ランドウォーカーの顔はなかなか消えなかった。
床が動きを止めた。
後は開始の合図の特殊な白煙弾が放たれるのを待つだけだったが、今のマックスにはいつもより何百倍も長く感じられた。
午前11時35分。
黒い猟犬号から白煙弾が放たれた。
係留ロープを切り離して滑りだしたマックスは、当初の作戦通り初戦は相手を確認するために負けるつもりだった。
風下に向かって平行に並んだ2機の飛行船から滑りだした
白煙の地点で折り返し、自分の飛行船と相手の飛行船の外側を回って戻ってくるまでの早さを競う。白煙で折り返した後は、ちょうど6の字を描くようなコースだった。
スタート直後リードしたのは、マックスのサンセットバードだった。
だから、マックスは知らなかった。すぐ後ろの朱色のウィングカイトが、あえて一定の距離を保っていることを。
1つ目は、開始時のスタートダッシュ。
2つ目にして最大のポイントが、白煙の地点で行われる
マックスが得意とするターンは、
しかし、
ありえないことが、現実となっていた。
マックスはこの時、対戦相手がクロード・ランドウォーカーだと知った。
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