6-2
ギディが
サンセットバードは
末弟のマックスの飛び方ではない。誰が相手だということをクロードは、考えなかった。
クロードはいつでも
わずかに遅れて自船の黒い猟犬号の外側に回りこんで、
しかし、クロードはためらった。追い風で互いの位置を視認できない今なら、
逆転して第4戦に勝利すれば、2勝2敗。第5戦で決着を着けることになる。
相手は
負けるわけにはいかない。
だが、クロードは
天空楼閣号に向きを変えると、サンセットバードはすでに黒い猟犬号に迫っていた。
予想していたよりも大き後れを取っていた。それでも
クロードが外側に出て、サンセットバードとすれ違う。
負けるわけにはいかない。
シルフィー・リーと飛びたい。
だから、負けるわけにはいかない。
空賊になってもまだ冷酷になれない自分を呪いながら、クロードは
午後0時20分。天空楼閣号、格納庫にて。
帰還したギディが乗るサンセットバードを固定して、マックスが格納庫のウィングカイトの出入り口を閉じた。
「ギディ! お前の勝ちだ。さっさと降りて来い」
言いたいことは沢山あったが、ギディを待ち構えているであろうシルウィンに無事を確認させるほうが先だ。
しかし、様子がおかしい。
ギディはサンセットバードの
「おい!」
あわててマックスと、手すりに止まっていたミレディが駆け(飛び)寄ると、ギディは弱々しく頭を上げた。
「勝ったって聞いたら、急にお腹が空いて……」
ギディの空腹をこれでもかと具体化された音が、格納庫に響いた。心配そうにクイッと彼の顔を覗き込んでいたミレディが、あまりの音に驚いて手すりに逃げていってしまったほどだ。
「ぶわっははっ……。仕方ねぇ、俺が今日の英雄を担いでやるよ」
誰かの手を借りることを嫌うギディだったが、この時ばかりは大人しくマックスのたくましい右肩に担がれた。
「俺、本当に勝ったんだよね?」
背中から実感わかないと、ギディが確認してくる。
「おうよ。しっかし、ギディがあの閃光のザナンの孫だったとはなぁ……。後でしっかり話し聞かせてもらうからな」
孫ではないと訂正したかったが、ギディにその気力は残ってなかった。
2人の
「馬鹿ギディ! 馬鹿ギディ、大丈夫?」
ギディが心配で泣きそうなシルウィンのために頭を軽く持ち上げると、再び空腹を告げる音が響いた。みるみる顔が赤くなるシルウィンが爆発する前に、ギディはマックスの背中に顔を押し付けた。
「ば、ば、馬鹿ギディいいいいいいい!」
シルウィンは1人で飛び出していってしまった。
本当はもっと勝利を喜びたかったというのに、台無しだ。
午後0時39分。天空楼閣号、リビングにて。
天空楼閣号はシルフィー・リーの引き渡しのため再び動き出した。
気まずそうにうつむくシルウィンが座っている同じベンチに、マックスはギディを座らせた。リビングには、レイヴンとシルウィンしかいなかった。グウォンは嫌がったが、料理が得意なローゼと見張りを交代した。レイヴンはいつもの様に、壁にもたれている。
「……あいつ、めちゃくちゃ速かった。負けたはずだったのに、なんで勝ったんだろ?」
ギディが勝利を喜べないのは、気力を使い果たしたせいと、空腹のせいだけではなかったようだ。
「お前が無茶したから、勝つわけにはいかなくなったのさ」
「それって、わざと負けたってこと?」
「そういうことになるな」
どうしてと悔しがるギディに、クロードの弟だと打ち明けてもいいだろうと、マックスは考えた。
「そういう奴なのさ、クロード兄さんは。ややこしくなるからって、ずっと隠してきたが、クロード兄さんは俺の実の兄だ」
「ややこしくなるって!」
シルウィンは抗議するが、まぁまぁとマックスは苦笑いして、目でギディをなだめるのが先だと伝える。
「クロード兄さんが、わざと
「ただの整備不良だ」
マックスが閉め忘れたドアをくぐりながら、クロードが不機嫌に鼻を鳴らした。
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