Chapter 7 嘘をついた大人は誰だったのか?
7-1
壁際のベンチに座っている少年少女を一瞥して、クロードは鼻を鳴らした。
「レイヴン、貴様と2人だけで話がしたい」
「約束を反故にしないなら、かまわない」
「ほんと、気に入らねぇ。……シルフィー、こいよ」
クロードが道を開けると、戸惑うシルフィーが不安そうに進み出る。汚れた男物のフライングスーツ姿のままだった。
「お姉ちゃん!」
ダーっと姉に駆け寄るシルウィンを一瞬だけ視界の隅に捉えてクロードは、面白くなさそうにレイヴンとリビングを出て行った。
もし、シルフィーが駆け寄ってきた妹にきつい平手打ちをお見舞いしているのを目にしていたら、クロードの機嫌も少しはよくなっていたかもしれない。
「話というのは?」
レイヴンがクロードを連れてきたのは、薄暗い予備の貨物室だった。
「シルフィーをどうするつもりだ?」
奥の丸窓の横の壁に背中を預けたレイヴンは、肩をすくめた。
「お前には関係ない」
「質問に答えろ」
レイヴンはクロードに拳銃を突きつけられても、顔色一つ変えなかった。むしろ、わずかに口角を吊り上げて笑っている。
「クロード、彼女をどうしようと俺の勝手だ。どうせ、お前も金で買ったのだろう。いくら出した?」
クロードは怒りに体を震わせていた。愛銃の引き金を引くことも忘れるほどに、彼は怒りに体を震わせていた。
「金で買った? 俺が? シルフィーを?」
「なら、シルウィンが言ったように、誘拐したのか? お前が誘拐するようなやつじゃないと考えていたのは、買いかぶりだったな」
「誘拐? ちょっと待て。俺がシルフィーを誘拐? なんだそれ?」
2、3度瞬きをして、クロードは拳銃を下ろした。
「誘拐された姉を助けたい一心で、飛んでいたのが冗談のような飛行船で天空楼閣号に突っ込んできた。ローゼが上手く拿捕できなかったら、今ごろどうなっていたことか」
「ちょっと待てくれ」
レイヴンの話がよほど思いがけないものだったらしく、クロードはガシガシと燃えるような赤毛をかき回した。
「じゃあ、あれか? シルウィンはシルフィーの手紙を受け取らなかったのか?」
そもそもシルフィーの手紙を読んでいれば、こんなことにはならなかったはずだと、今さらクロードは気がついた。冷静なつもりで、ずいぶん頭に血が上っていたことに、今さらクロードは気がついた。
「少なくとも俺は、シルウィンから手紙のことは一言も聞いていない」
「……マジかよ」
クロードは配管むき出しの汚い天井を仰いだ。
拳銃を突きつけた勢いはどこへやら。どこか滑稽な赤毛の大男に、レイヴンはさらに口角を吊り上げる。
「お互い、いろいろ噛み合ってないようだ。時間はあるだろう? 真相を聞かせてくれないか?」
「ああ。その方がよさそうだ」
脱力したクロードは、近くの木箱に腰を下ろす。
「そもそも、シルフィーを買ってくれって言ってきたのは、修道院の連中のほうだった。…………」
クロードはことの真相を話し始める。
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