その18 つくづくみちおわるみち 第一章終







「よこっらしょー…と」

しょーいちと言いたくなったが、どうにか欠片ほどの自制心で制すことに成功した。

ともかく僕は、登校してきた自分のクラスに入り、自分の机の椅子に座っている訳だ。

悪いね、毎日毎日男の尻なんて押しつけてと僕は椅子に謝ったりもしないけど、窓ぎわの席を有効活用して窓の外なんかを優雅に眺めたりしている。

今日は5月の半ば過ぎくらいの月曜日。

先週のごたごたから数日と2日間の休暇を終え、今日からまた5日間の授業がゆったりこってり開始されてしまう。

「ふぁー」

外を見ていたら思わず大きく口を開けて欠伸をしてしまった。

もう、ももちゃん。朝練張り切りすぎ。

後ちょっとで腰が砕けるところだったよ。まったく。

あーでも、今日のお弁当は楽しみかな。

何と言ってもももちゃん作キノコか何かのオムライス弁当。

形を崩さずに持ってくるのが大変だったさー。で、その努力が4時間目の授業後に堪能出来るわけだから、いまから待ち遠しくてそれはもうって感じ。

ぬふふ、日の丸の旗とか刺さってたら嬉しいかな。さすがに冗談だけど。

「ん?」

そこで、教室の扉が開く音がしたので、何となく僕はそっちのほうを見る。

すると、教室に入ってきたその人は、僕と視線を合わせた。

「おはよう、茉矢木くん」

僕がそう茉矢木くんに声をかけると、彼は狐みたいな両眼をさらに細めて頷く。

「おはよ」

そして茉矢木くんは、ゆっくりと教室を横切りつつ、僕の方にやってくる。

ただし目的は、僕と話すためだとか、そんな理由じゃないんだけど。

「…」

茉矢木くんは僕の側まで来て、だけどその途中、僕の隣の席の前で止まって、じっとその席を眺める。

もしかするとついに机愛好家に目覚めたのかと一瞬考えようかと思ったけど、いや実はあんまり思ってないけど。

とにかく茉矢木くんは、その使用者がいなくなった机と椅子を、じっと見つめる。

細い目を極限まで細めて。

机に使われた木の年輪でも見てるのかな?、と疑問が浮かぶくらいに。

動かず喋らず。

ただじっと、何かを偲ぶように立ちつくす。

だから僕も、特に彼に話しかける理由も無かったので、そのまま黙ってその茉矢木くんを眺めてみる。

ついでに、使用者がいなくなったその学校の備品も。

木沢梨沙が使っていた、それを。

そして、何となく僕は、回想1を入れてみることにした。

彼女は。

木沢梨沙は。

あの深夜の出来事の次の日の早朝、学校で発見された。

無惨な、飛び降り死体の形となって。

この学校に、3日連続の血の池を作って。

最後は美術部らしく、自分自身の体を使ってそれを描いたわけだけど。

つまり傑作を、いやいや血作ですかな?。

どうでもいいけど。

彼女が発見されたのは、早朝。

まだ朝の部活動略して朝練も始まっていないような時間。

いつものように一番早くに学校に到着する用務員さんによって発見された。

ついでにその用務員さんによって警察やらなんやらに連絡が行き、色々調べられた結果、死んだのはどうやら僕と別れてすぐのことだったらしい。

あ、今回は普通に飛び降りて死んだのよ。

飛び降りが普通かどうかは知らないけど。

決してゾンビになるなんてお行儀の悪いことはしてないのよ木沢さんは。

まぁ最初は警察の人も、まさか3人目の犠牲者が、みたいな感じになってたみたいだけど、そんなこともなく。

彼女が飛び降りる際、靴と一緒に残した諸々の品によって全ての謎が開かされたというわけさ。

いやはや、何と言いますか。

それに伴い例の2人組の刑事が僕の所に来たときは僕もさすがに・・・まぁ特に感想は浮かばなかったけど。

わざわざ何のご用かなぁって思いつつのその時の会話。

「こんにちわ学生さん」

「ご苦労様です刑事さん」

「おおっ、まさか君に労ってもらえるとは思いませんでしたよ」

「いえいえ、社交辞令を真似した言葉ですのでどうかお気になさらずに」

「あっはは、そうですねえ。礼儀は大切ですよ、特に若い内は」

「なるほど。つまりあなたは反面教師になってくれると」

「せっかくだから正面切ってもいいんですがね」

「それは結構。僕にはもうすでに心の師仰いで仕方がない人とかが頭の中にいますから」

「そうですかあ、残念ですね。あ、これは社交辞令ですから」

「そうですか。それは僕としても助かりました」

「それはそれは。大変結構なことで」

「はい。・・・そういえば風の噂で聞いたんですが」

「なんです?。」

「どうやら事件、解決したみたいじゃないですか」

「ええ、ついさっき終わりましたよ」

「おめでとうございます」

「どうも。それも社交辞令ですか?」

「どうでしょうね」

「どうなんですかねえ」

「でも大活躍じゃないですか刑事さん、たった3日で事件を早期解決」

「かかった時間の分人が死にましたけど」

「しかも最後は、犯人の自殺によって事件を締めくくられてしまったと」

「大活躍ですねえ」

「大活躍ですよ」

「はっはっはっ、減らない口にチャックでもしたい気分ですよ」

「そいつわ困った。僕にはまだ幼なじみなあの子のお弁当を食べるという命題が」

「それはそれは。少々分けてもらえますかね?」

「失礼、もう腹の中でした」

「それは残念」

「社交辞令をどうも」

「いえいえ。あ、一言いいですか?」

「どうぞ」

「あなた、友達少ないでしょう」

「ええ、少数精鋭。美少女率高めです」

「羨ましいですねえ」

「そうでしょう。僕は両腕収まるぐらいが丁度いいんです」

「寂しいですねえ」

「そんなことはないですよ。もうお腹一杯ぐらいです」

「そうですか。・・・・・それにしてもどうしてでしょうねえ?」

「何がです?」

「あなたとお話しているとどうにもこうにも、脱力するというか気が抜けていくとでも言いますか」

「癒し系の素質あり、みたいな感じですか」

「いえ。どちらかといえば無気力作用系とでも言ったほうがいいかもしれませんねえ」

「何だか超能力者みたいすね、それ」

「あっははっ。・・・・・・そうですねえ、そろそろ帰るので最後にもう一言言っておきましょうか」

「では2度と会わなくてすむくらいどうぞ」

「僕達は、あなたが犯人だと思ってました」

「はっきりくっきり言いますね」

「くっきりはっきり言っても良い相手だと思ったもので」

「そうでしょうねぇ」

「ええ」

「その思いこみはどこから生まれたんでしょうか?」

「長年の経験とか勘とか、あと諸々の情報によって」

「随分曖昧ですね」

「君も充分そうですよ」

「それはそれは、ありがとうございます」

「別に褒めていません」

「社交辞令の真似事ですよ」

「そうですか。では、僕達はこれにて」

「はいはい、お元気で」

「そちらこそ。またどこかで」

「さようなら」

というような粘っこい感じでした。

そういえば結局、阿東さんの方は一言も喋らなかったなぁ。

どうでもいいけど。

なぜかあの人達はまたどこかでエンカウントしそうな予感がしてならない。

僕としてはその時までに必殺技の1つでも会得して唐木さんのコークスクリュースナイパーショットに対抗できるようにしないとな。もちろん冗談だけど。

ああ、後。

木沢梨沙が最後に残したモノ。

一つ目は凶器。ギリシャとかにいそうな生首ね。

んで、2つ目はっていうか、これはどうなんだろうな?。とにかく並べて揃えてあった一足の靴。

木沢さんは優秀だったからなぁ。靴もちゃんと揃えて置いてあったらしい。最後まで優等生の鏡を貫きましたとさ。

それから3つ目。

彼女が、今回の事件の全容とその他心の叫び的なものを書き連ねた文章。

いわゆる、遺書というものだ。

これを元に警察は色々調査し、結局遺書のままを結論として落ちついた。

動機については衝動的なものと書いてあったらしく、それ以外の理由を探すことも不可能だったので、これもそのまま。

そして、その中の最後の一文。

これだけは警察も、そして誰も、意味を理解するまでにいたらなかった。

彼女が残した、最後の1文。

ありがとう。

という一言。

これが誰に対するモノだったのか。

僕自身も、考えてもいないので分からない。

それに、どうでもいいから。

だからこの一文は、死体に口なしと言うとおりのごとく、彼女だけがその意味を胸に秘めてお空へと昇っていったわけだ。もしくは落ちていったか。

それと隠し情報というかそういうので、本当はこれが最後の1文じゃなかったのかもしれないということ。

ページの最後の最後に、ボールペンでぐりぐりっと塗りつぶされた箇所があったらしいが、別に興味もないし。

彼女はもう、終わってしまったんだから。

だから僕は、続いてる人に話しかけてみる。

「茉矢木くん」

「なに?」

茉矢木くんが、机から僕に興味を向ける。

「ごめんね」

邪魔しちゃって。

「…何のこと?」

茉矢木くんが、怪訝そうに表皮を変化させる。

「うんん、何でもないよ」

「…」

茉矢木くんは、僕の言葉に答えずに、そのまま自分の席へと向かっていく。

遠ざかるその背中に、僕は特に何も感じない。

木沢梨沙のストーカーは、そうして自分の席へとついた。

自分の意中の人間を失い、でもそれをあまり表へと出さずに。

そうそう。

僕があの時ついた嘘には、もう一つの目的があった。

それは、茉矢木武将が木沢梨沙に接触する場所を限定するということ。

たぶんだけど。

茉矢木くんは、木沢が2つ目の犯行をしている現場を見ていたんじゃないかと思う。

だけど彼女を庇って、代わりに次にその場に来た紅葉の時に悲鳴を演出した。

紅葉が、犯人だと思わせるために。嘘の証言までして。

そしてそれを、木沢が犯行をしたのを隠す意味も含めて。

木沢自身に、その協力を持ちかけようとした。

僕は、茉矢木くんがそういう意志を持っているかなぁとか思ったので、そうなったら色々面倒だし、お邪魔させていただくことにしたのだ。

そのために布石として、嘘を用意して。

悪意の拡散を、防ぐ意味も含めて。

「まぁ、今となっちゃあどうでもいいことなんだけどね」

と僕は回想1について締めくくる。

ついでに、今しがた登校してきたクラスメイトに対して、挨拶してみることにした。

「おはよう美島」

「おはようだ、こうくん」

美島菜月は、快活までいかなくとも笑いながら僕に返事をする。

そして、僕の隣の席を見て、一瞬表情に影がさして、それを僕に隠して、何故か急いで自分の席についた。

「今日は少し遅い登校だね」

「ふっふっふっ、私は重役出勤が似合う女の目指しているのだよこうくん」

「じゃあその地位を揺るがぬモノにするためにもう1時間ほど遅れて登校するといいよ」

「だけど私はこれでも武術を嗜む人間だ。規律規則というモノに対しては厳格に挑まなければいけない」

「なるほど、つまりこれからは赤点なんて2度ととらないと言うことだね。こうくん感心感心だ」

「あ、当たり前だ。これでも毎日何かを積み重ねるということに関してはお手の物だぞ」「そっかぁ。じゃあその指のたこが潰れるころには成績もあがってるといいね」

「それは嫌みなのか?」

「そんなつもりはないけど、美島にはそう聞こえてしまう理由でもあったのかな?」

「む、今日のこうくんはなんか意地悪だ」

「そう思えてしまう理由は美島にあるんじゃないかな?」

「今日のこうくんは何か嫌いだ」

「それじゃあ明日は好きになってもらえるように努力するよ」

「精進せい」

「出来る限りね」

そして、今日の僕は意地悪らしいので。

何となく、意地悪してみることにした。

「美島」

「ん、なんだこうくん?」

「まだ、悲しい?」

沈黙する美島。

そして、少しして、小さく頷く。

「うん。やっぱり、例え梨沙が何をやったんだとしても、友達だから」

「そう」

過去形じゃないんだ、まだ。

「死んでしまって、2度と会えないのは、きっと、…ずっと、悲しい、かな」

そう言って、僕の隣の席を見る美島。

その瞳に、憂いを灯して。

はーい、回想第2弾。

木沢が死んだと聞かされた日。

美島は、人目を憚らずに、教室で泣いていた。

誰が声をかけても修まらず、嗚咽をもらし、顔を放送ギリギリぐらいまでに歪め、真っ直ぐに泣いていた。

それは、木沢が死んだ理由を知った後でも。

美島は、木沢の席を見るたびに泣いていた。

そして、声をかけていた人が諦め、誰もが自然に泣きやむの待とうと我関せずを決めかけてたころ。

何となくなく僕は、目の前で揺れる美島のポニーテールを、引っ張ってみた。

特に理由もなく、前みたいに欲求的に。

すると美島は、「ひゅっ」だか「ひぇっ」だか声をあげて、僕の方を向く。

うーむ、泣きっ面に蜂をさしてしまったかと僕は身構えたりしないけど。

美島が、泣きながら、口を開く。

「なっ、なにぃ、するっぅ、こぅ、くんっ」

ずぃぃ、と鼻水をすする美島さん。

そんなもうギリギリ越えてんじゃね?、というお顔をしている美島に、僕は相変わらずの思いつきを口にしてみた。

「すごいね、美島は」

「ふぇっ?」

「友達のためにそこまで泣けるなんて」

僕には永久に出来そうにないことだ。

別に羨ましくもないけど。

涙腺の機能の仕方は、どうだったけなぁって感じだし。

ともかく、僕のそんな感想に、美島は真っ赤になってる目で僕を見る。

「ぁ、うぐ、あた、り、りっ…ひゅ、ぃ、ぁ、…あたりっ、まえ、」

だのくらったかーとか言いたくなったけどぐっと抑えた。

たまには空気を読んでみようとか気まぐれを働かせて。

美島はがんばって、嗚咽を制御しようとして失敗して、でも、言う。

「ともだちぃっ、なん、だからぁ…、だからっ、ぐ、ぅ、…いなく、なったらぁ、ぅ、ぅ…かなっ、しいよぉっ」

もう1度鼻をすする美島。

演技じゃない何かが、そこにあるのかな、と。

心のなかで詩的に言える自分がいたらいいなぁ、とかなんとか。

よし。せっかくだから、社交辞令的ななものでも言わないとな。

「羨ましいね、木沢は」

「ぅ、ぅん?」

「そんなに泣いてくれる友達がいて」

此処までしてくれたら、お空の上の木沢さんも本望だろう。

とか思ってたら。

木沢が、後ろのポニーテールと一緒に、大きく首を振った。

「なっ、なに、ぃ、いってるっ」

「うん?」

「こうくんがぁっ、もしっ、もしもっ、いなくなっても、…なってもぉっ」

美島は。

「わた、しはっ、わたしはぁっ…なく、よぉ」

そう、言った。

泣くにきまってるよ、と。

当たり前だよ、と。

当然の事のように、そう言った。

それは、僕にとって少し新鮮で。

せっかくなので、それの御礼の意味を込めたり込めた無かったり分からないけど。

僕は言う。

「そっかぁ。それじゃあ美島」

「ぅん」

「君に、僕の友達」

第1号の。

「栄誉賞を挙げるよ」

「ど、どういう、ことっ?」

「別に、深い意味は無いよ」

口から出任せみたいなかんじだし。

「ただ僕は」

でも言い始めてしまったので、最後まではいっておこう。

「出来るだけ美島が泣かないように努力しようかなぁ、てね」

「……ぅぐ」

あれぇ?。

なんでだろう?。

僕は思わず首を傾げたくなった。

気まぐれの言葉だし、いつもの空虚な言葉なんだけど。

ただの軽口のつもりだったんだけど。

美島は、思いっ切り首をがくがく前に振って。

「そ、そっか、…ぅ、ん、…、こぅくん、ありぃ、ありがっ、とぅ」

と、なぜかお礼まで言われ。

それで、美島は。

少しだけ。

笑った。

さっきよりも泣きながら、でもなぜか、ちょっと嬉しそうに。

うむうむ。

女の子は分からんねぇまったく。

はい、カット。そこまでね。

ともかく美島は、どうにかこうにか復帰したみたいだ。

今は電波に乗せてもまったく問題ない顔をしている。

「でもな、こうくん」

「ん?」

真面目より軽めな顔した美島は、木沢の席から目を離して、僕の方を向いて言う。

「すっごく悲しいけど、すっごく辛いけど。でも、すっごく寂しくはないんだ」

「なんで?」

僕の疑問に、木沢は含み笑いをする。

何がそんなに楽しいのか分からないくらいに。

楽しそうに。

そして。

「秘密だ」

そう言った。

「秘密ですか」

「そうだとも。何と言っても重役出勤の似合う女に成らなければいけないからな。ちょっとくらいミステリアスのほうがいいのさ」

「その前に赤点のミステリーが無くなるといいね」

「むむっ」

顔をしかめる美島。

僕はその顔を観賞しながら、ついでにお空を眺めてみる。

ふむふむ。

いい天気だ。良かったね。誰にって感じだけど。

ではでは、そろそろ朝のHR(ホームランじゃないぞ)が始まるので。

最後の回想、いってみよー。

日時的には昨日の、つまりは日曜日の午後5時半くらいか。

僕は学校で出された宿題を終え、2階から階段を使ってというか階段しかないんだけど。

ともかく1階に向かっていた。

今現在、この家の人工密度はいつもの5分の2ぐらい。

なぜなら、ももちゃんはみみさんと買い物に行ってて、かつくんはバイクの点検をしに行っているから。

なので今この家にいるの紅葉と僕だけなのです。

2人きりなのです、うむうむ。

強調して言ってみたけど特に何があるわけでもない。

「ん?」

一階に向かう僕の耳に、小気味の良い音が聞こえてきた。

うん?、えーと。

…あ、そうか。

今日は、そっか、日曜日だから、ほほぉ。

紅葉が夕飯を作る日か。

うむうむ。そうなのだ。

ももちゃんやみみさんはほとんど毎日のように料理を作るけど、実は紅葉も料理を作れる。

ただし、その頻度は1ヶ月に平均4回。

毎週日曜日の夕飯だけ。

理由としては単純に、紅葉が面倒くさがってるってのが1番だ。

まぁ別にそれで何か困ってる訳でもないし、ももちゃんやみみさんも料理自体が結構好きっぽいから特に問題もない。

「おっ」

一階につくと、リビングの方からいい匂いが漂ってきた。

さぁみんな、連想ゲームだぜ。

紅葉の得意料理はなーんだ?

ヒントも何も見たまんまでいいぜ。

…はーい、しゅーりょー。

答えーは、いえーじゃなかった。

超本格派の和食っすよ。

フグとかも捌きますよ、免許持ってないけど。

うむ。

でも最近の紅葉、不機嫌だったからなぁ。

この間なんて紅葉がとっておいた雪見大福かつくんが食べちゃって、そのとばっちりでなぜか僕が殴られたし。

下手したら全員ししゃも一本とかもありえるかもしれない。

まっ、その時はその時だけど。

僕はそんなことをうらうらと考えつつ、いつものように特に何も考えず、リビングに入っていく。

途端に強くなった何かしらの料理のにおい。

僕は生理的にそのにおいにつられつつ、キッチンで料理する紅葉に視線を向けた。

・・・・・・うぉっと。

一瞬心中を公にするのを忘れちまってたぜ、よく意味が分かんないけど。

僕の登場に気づいた紅葉が、おたまを持ったまま振り向く。

「まだ出来てない」

「そっか」

それじゃあ仕方がない。

どっちにしてもももちゃん達が帰ってくるまではおあずけだ。

それまではゆっくりするかな。

えとえと、新聞新聞じゃなくてリコモンリコモン。

…おっ、あったあった。

んじゃ、のんびり待ち痛っ。

「ててぇ」

後頭部に衝撃が。

今度は僕が振り返ると、なぜか床に英和辞典が落ちていた。

凶器はっけーん。

それで、視線を上にあげていく。

犯人はっけーん。

「痛いよ紅葉」

「手伝え」

「いや、それよりもこれみみさんの」

「口答えするな馬鹿」

「僕頭が」

「まだ何か投げられたいか愚図」

「ごめんなさい」

素直に謝る。

それで僕は、みみさんの辞書を拾って、元にある場所に戻して、紅葉の所に歩いてぇっ!。

危ない危ない。

今度はは国語辞典が、いや古語辞典がって種類はどうでもいいんだけど。

それ以前に危ない危ないとか言ってるけど実際はまた正面から当たっていた。

鼻が痛いなぁ。

「ぐずぐずするなのろま」

「はーい」

僕はまた辞書を拾って元の場所に戻して、小走りで紅葉のところに向かう。

そして、手を洗って、紅葉の隣に並んで。

ふむ、ししゃも一本ってことは無さそうだな。

お味噌の良い香りがする。

ご飯もあともう少しで炊けそうだ。

正直言って、僕いらないんじゃないかなぁ、とか思いつつ。

出来る範囲で手伝いをしようとして。

その前に。

言っておくかなぁ。

「紅葉」

「なに?」

「似合ってるね」

「うるさい黙れ」

「ごめんなさい」

「喋ってるなら手を動かせ愚図」

「はーい」

そんなこんなで手伝いを始める僕。

そして、出来上がった料理を少しして帰ってきたっももちゃんやみみさんやかつくんと机を囲んで食べましたとさ。

おいしかったっす。

ん?。

教室の前の扉が開いて、僕のクラスの担任が入ってくる。

うんうん。

先生も教室に入ってきたことなので。

ここらで締めとしましょうか。

それでは、最後に一言。


やっぱり和服はいいよねぇ。





おわり

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