その17 ぼくのいきるいみ?










校門からで出た僕を迎えたのは、緩めの膝丈ぐらいのパンツに、こっちもサイズの緩めのティーシャツといったいつもの風呂上がりスタイルの紅葉だった。

ついでに素足にももちゃんのクロックスを履いている。

それと髪の毛が、若干、濡れている。

吐く息は荒く、たぶん此処まで、走ってきたんだろうなぁ。

それよりも僕が気にするのはというか、うむ。

たぶん紅葉は今、服の下に下着を付けていないだろうということだ。

紅葉はいつも、お風呂から出ると下着を着ないのです。

なのでとっても寒そうなのです、と。

僕がここまで考えたところで。

いきなり。

紅葉に。

左頬を、おもいっきり。

殴られた。

「………」

息を荒くしたままの紅葉は、肩を上下させながら。

いつもより不機嫌そうに、僕を睨む。

そんな紅葉に、僕は話しかける。

「迎えに来てくれたんだ、ありが」

とうを言う前に、今度は右頬を。

そして紅葉は振り抜いた手を、ゆっくりと、したに降ろした。

「コウ」

紅葉が、口を開く。

「終わったの?」

「うん」

紅葉の言葉に、僕は頷く。

「終わらせたの?」

「うん」

「殺したの?」

「うん」

「もう、これは、誰も死なない?」

「うん」

「誰も殺されない?」

「うん」

「なんで、こうなったの?」

紅葉は、無表情に、僕に聞く。

「どうして、死んだの?。」

「…」

「また、私のせい?」

「…」

「私が、振りまいたせい?」

「…」

「私が、ここにいるせい?」

「…」

「私が、存在しているせい?」

「…」

「私が、生まれたせい?」

「……」

「コウ、私は」

紅葉の言葉に、僕は答える。

いつものように、いつも通りに。

変わらず、何も考えず。

空っぽの僕は、空虚な言葉を口にする。

「いいんだよ、紅葉」

僕は言う。

「いいんだよ。いつでもいいんだ。迷わなくていい。迷う必要もない」

この言葉は、もう何度目か。

「紅葉が願ったら。紅葉が焦がれたら。紅葉が求めたら。紅葉が成りたいのなら」

僕が紡ぐのは。

「本当に、いつでもいいんだよ。紅葉がそう思ったのならいつでも」

繰り返し繰り返し。

「どこでも、どんな時でも、」

僕は、滑稽な言葉を、口にする。

「紅葉は、僕を殺せばいいんだ」

それは、別に僕の願いではない。

僕自身が願っている訳でもないし、もちろん望んでいるわけでもない。

でも僕は、きっとそれを受け入れる。

紅葉がそれを行うとき、僕はたぶん間違いなくきっと。

自信は、関係ないか。

「……」

「……」

見つめ合う2人とナレーション。

「……」

「……」

紅葉が、不機嫌そうに、僕を睨む。

「………寒い」

そして、そう言って、自分の二の腕当たりを軽くさする。

なので僕は男らしく、さらにはきざったらしい青春男児になってみることした。

「そんな薄着で外に出るからだよ」

そう言いながら僕は、上着を脱ぎ、紅葉の肩にかけたりする。

うむうむ。

なぜだろう?。

無性に頭を掻きむしりたくなった。

やっぱり慣れないことはしなほうがいいなと。

別に、後悔はないけど。

「ふん」

紅葉は鼻を鳴らして、僕の上着に袖を通す。

それを見ていたら今度は僕の方が少し寒くなってきた。

でもしょうがない、僕はこれでも紳士なのだ。

しょうもない冗談だけど。

「紅葉」

「なに?」

「帰ろうか」

僕の提案に、紅葉は憤慨した。

「当たり前だっ、こんな寒いところにいつまでもいれるか馬鹿っ!。コウのせいで霜焼けでも出来たらどうするんだこの愚図!」

「ごめんごめんごめんなさい」

素直に謝る僕。

「さっさと行くぞっ!」

そう言って、歩き出す紅葉。

その手に、僕の服の袖を掴んで。

なので僕は、引っ張れるように進み出す。

暗い外灯の道を、でも目懲らす必要はないんだけど。

特に何も話さず、道を歩く。

2人で並んで。

でも僕はずっと、紅葉を袖を持たれたままだけど。

歩きながら、少し僕は考える。

どうして、2人目の死体の場所に紅葉がいたのか。

それに対する答えは、まぁ、何となくなんですけど。

引き寄せられたんじゃないかなぁ、と僕は思う。

良くも悪くも、うーん、良くはないか。とにかく理屈も何もなくて、そんな感じなんだろうと決めておく。

そして、そのまましばらく歩いて、僕らの家に、到着。

玄関を開けて、静かに中に入る。

「どうする?、紅葉」

僕は玄関の鍵を閉めながら紅葉に聞く。

「今日は、もう寝る」

「そっか」

「うん」

僕は紅葉の答えに頷き、2階に上がる階段を転ばないように紅葉の後ろを付いていく。

2階に到着。

紅葉は僕の部屋の正面の部屋に入る。

僕も一緒に。

そして紅葉は、着ていた服を全て脱いで、一旦裸になって、それからいつもようにキャミソールを一枚だけ羽織る。

「……」

紅葉は、簡素な布団を捲り、中に入る。

「……コウ」

「うん」

紅葉に呼ばれたので、僕は紅葉の布団に腰掛ける。

すると、紅葉は布団の中から片手を出し、僕の方へとのばした。

そして、僕はそれに応え、絡めるように、その手を握る。

いつも通りの、夜の、習慣。

儀式のように続く、毎夜の出来事。

紅葉の手は、氷のように冷たくて、今にも溶けてしまいそうで。

僕は、そんな手を握りながら。

闇へと落ちていく紅葉を、見送ることにした。

「おやすみ、紅葉」

「おやすみ、コウ」

紅葉が、まぶたを閉じる。

まるで人形のように、動かなくなる。

生きた死者のような、死んだ生者のような。

そんな紅葉を見ながら。

しばらくの間、僕は紅葉の手を握り続けた。

せめて、いい夢が見られるようにと。

願う自分がいることを、夢見ながら。

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