その17.5 このせかいにひろがるふうけい(高めの視点で
準備は出来た。
躊躇いも、悔いも、何一つない。
第一目標は無理だったけど。
第2希望が叶ったので良しとする。
行き当たりばったりで、無秩序でしょうがない行為だったけど。
人の命を奪うという、大それた行為だったけど。
終わってみれば、あっけない。
行為を行っている最中にあったあの高揚感も、胸の高鳴りも。
今はこんなにも静かで、何もない。
すっぽりと抜けてしまったようだ。
まるで受験を終えた次の日のような、ん?、例えが軽いか?。
別にいいか、そんなこと。
今、自分の、私の心の中にあるのは。
小さな、喪失感と。
芽生え始めた、罪悪感。
喪失感の方は、まぁ、何と言いますか。
失恋と定義していいでしょう、と私は思いますです。
えへ。
人生初めての失恋。
でもなぜか、初めから結果が分かっていたような気がして、それほどショックではない。
自分では、彼の特別になれないと心のどこかで理解していたから、少しの喪失感だけで、済んだ。
でも、なぜだろう?。
行為を終え。
彼に暴かれ、説かされた時から。
それまであった奇妙な高揚感が、まるで、やったことはないがドラッグでも服用しているかのような心の状態が、急速に平常へと回帰していく。
精神が、本来の機能を取り戻している。
初めの行為を行った時に現れた、…いや。
彼と、彼女が一緒にいるのを見たときからあった、精神の麻痺状態。
今考えると、どうして自分はあんなことが出来たのか。
それが、少し不思議だ。
やってしまったことなのだから、全部今更なんだけど。
今更なんだけど、殺してしまった彼と、彼女には申し訳なく思う。
確かに自分は、今の生活が、世界がつまらなかった。
それを認識した瞬間から、自分の価値観が総入れ換えを行い、それにともない、自分が価値があると思えるモノが、9割ほど、消失した。
きっかけは、今ではもう思い出せないけど。
思い出せないけど、彼は、突出していた。
だから自分が、彼に並ぶためのきっかけが欲しかった。
あの時、あの場所で彼に出会ってから。
今でも、まだ少し、それが心残りだ。
出来れば、もう少しぐらい彼といたいけど。
それは、もう無理。
芽生え始めた罪悪感が。
確実に、自分の心を侵し始めている。
襲い来る自責の念から、逃れることは出来ない。
だって、自分の心なんだから。
これからも一生、付き合わなくちゃいけないはずなんだけど。
やっぱり、無理だ。
どうしようもなく。
今だって、両足も、両手も震えている。
今にも壊れそうな自分が、認識出来る。
……そうか、自分はこんなにも脆いのか。
16年とちょっと生きてきて、ようやくそれが分かった。
今更、だけど。
そこで、ふと視線が前を向いた。
今、自分の眼前に広がる風景は、とても広い。
風が吹きつけ、自分の体を撫でるのも、心地よい。
世界を俯瞰から眺めている自分が、本当によく認識出来る。
自分が、どれだけちっぽけな存在なのかも。
目を瞑る。
思い返すように。
今までのことを全て。
それで、その結果の感想を言うなら。
締めを彼にやってもらったのは、満足行く結果だ。
第2希望だけど、まったく問題ない。
むしろありがたい。
そんな彼に一言。
ありがとう。
……えへへ。
私は笑顔を作ってみて、失敗して。
そろそろ、自分が完全に駄目になってきているのを認識して。
それから。
目を瞑ったまま。
俯瞰から、飛び立つことにした。
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