その13 みずたまり2(みおろすひと












5月20日。本日の天気は晴れのち曇りで木沢さん万々歳だ。どうでもいいんですけど。

とついでに言っておくと、うちの学校は全生徒が絶対になにかしらの委員会に入らないといけない、後部活も。 もかく、なぜかはわからないけど。最近の僕はどうやら定時に学校を出られない呪いでもかかっているようだ。

そうじゃなきゃたまたま委員会の顧問に捕まって、たまたま誰でも良かった資料の整理を頼まれて、たまたま学校を出る時刻が遅くなったりはしないだろう。

しかもこれで3日連続。

いい加減鞄じゃあ済まないかもしれないと戦々恐々としてみたり。

僕の入っている委員会は文化委員というまあイベント毎中心に活動させられる委員会で、茉矢木が無理矢理僕を誘って入ることになったというわけだ。ちなみに紅葉は体育委員ね。

未だになんで入ったのかは謎だけど、おおかた余ったのに入れられたんだろう。

それで部活は…なんだったかなぁ?。

久しくどころかほとんど行ってないので、記憶にひっかからない。

なんてったって帰宅部が忙しいですからな、うむ。

確か紅葉と一緒だったけど、すっかり記憶の彼方に追いやられてしまっているようで、僕としてもどうでもいいのでほかっておいた。

あ、それと学校は違うけどももちゃんは家庭科部とか言うのに入っているらしい。

刃物を正しい方向で使っているももちゃんは非常に微笑ましいので、1度見学に行ってみるのもいいかもしれない。

いつか実行しようと計画を立てておこう。冗談だけど。

「っしょっと」

僕は、プリントの山を持ち直す。

後はこれを職員室に持っていけば終わりだけど、相当重いなぁ。昨日のお手伝いの方が楽だったよ。

別に何かが持ちたい訳でもないんだけど

でもまぁかつくんだったら、1度で全部持っていけるだろうけどね。今ここにかつくんはいないしなぁ、残念。

かつくんとみみさんも学校違うし、まあそれはしょうがないけどね。

あの2人は、ずば抜けてるけどバランスが偏ってるから。

「ふわぁ…ん…、欠伸がでてしまった」

眠い眠い。

今日はいつも以上に疲れたからなぁ。

ももちゃん張り切りすぎ。足の筋肉がちょっと引きつってるよ。

帰ったらマッサージでも頼まないとな。

そうでもしないと、明日の朝がさらにきついかも。

なんて思いながら、僕は少し目を擦りたくなったけど、両腕塞がってできなかったので、どうにか両足を使って出来ないか苦心したりはしてないけど。

それ以前に僕の耳に、「うわぁぁああああああああああああああああああ!」とかいう雄叫びってこういう声なのかなっていう声が聞こえてきて、思考をやめていた。

初めは演劇部が悲鳴の練習しているのかと思って、それにしては真に迫った演技の声だなと感心してみたりしながら職員室に向かおうとしたんだけど、そこで、ふと。

こめかみ辺りに。

予感というか、虫の知らせ的なのが。

奔った。

別にほかっといてもいいんだけど、理屈なしで確信を持って、僕が関係したことだなぁと頭に浮かんだので。

それで、プリントの山は、床に放置。

数枚こぼれたけど、気にしない。

僕は、声のしたほう、つまりは僕達の教室の下の階、普通教室廉の2階の廊下のほうへと向かっていく。

気持ち、小走りプラス1、くらいの勢いで。

1階から、階段を駆け上がる。

「……………………あー」

こりゃ、また。

廊下につくと、校舎に残っていた生徒達が数人集まっていた。

そして、この独特の雰囲気。

虫の知らせは絶好調健在だ。

廊下にいる生徒達は、そろってみな特別教室廉の方の窓の外を見ている。

つまりは中庭を。

もしかして有名人がとか思わずに僕も、窓ぎわに張り付いている男子生徒を押しのけて窓の外を見た。

2階の窓の外は、すぐ中庭になっている。

うちの学校は、前にもいったけど高低差が変なところに建っているので、普通教室廉の1階は、中庭側からだと地下みたいな感じになっているのだ。

だから、2階の廊下側の窓の外は、すぐ地面。

別に、そんなことはどうでもいいんだけど。

「……………………………………………………………………………なんだかなぁ」

と、僕は呟く。

どうにもこうにも、おもしろいことではないけど。

話題が尽きない今日この頃。

提供者はそろって。口なしだけど。

それ以前に、いろいろ困った展開に発展しそうな感じ。

何となく僕は、窓を開ける。

途端、吹き込んでくる風。

生ぬるい、僅かに初夏を感じさせるような、そんな風。

それを上半身で思いっ切り感じつつも、風情があるなぁと感想も忘れない。

そして、吹き抜ける風と共に漂ってくる。

微量の、鉄の、香り。

昨日も、嗅いだ、似たような、香り。

今までも、何度か嗅いだことがある。

もう、何度目になるかは、分からないけど。

僕に、僕らにまとわりつくような、香り。

正直、慣れてはきたけど、好きになれない。

そんな、匂い。

そして、僕は、それを、眺める。

再び。

真っ赤な、としか言うことが出来ない。

小規模な、水たまりが。

血だまりが。

この学校の敷地内に、発生、している。

その中心には。

再び、頭から血を流している、人間が、1つ。

前回よりも、破損度合いは、低め。

制服からして、たぶんコスプレでなければ、女生徒。

俯せに、地面にキスするような体制で、真っ直ぐに倒れている。

表情は、この位置からだと見えない。

そして、そこから。

少し、離れたところに、1人。

上履きのまま外に出ている男子生徒が、腰を、抜かしていた。

茉矢木武将。

狐のようなつり目を、さらに引きつらせて。

口を、半開きで、止まっている。

おそらくは、さっきの雄叫びの、張本人。

「ん?」

今度は、上からも、悲鳴が聞こえた。

見上げてみると、特別教室廉の方から、数人の生徒が、下を見下ろしている。

その中には、木沢梨沙も、口元を押さえて、こっちを見ている。

そして僕と、目がった。

でも僕は再び、視線を前に戻す。

開けた中庭。死体が1つ、落ちている。

そのまま視線を上げると、ふと、その正面にある、通路のすぐ側にある特別廉の教室が目に付いた。

カーテンは閉じおらず、でも窓の鍵はかかっている。

中の様子は、ここからだとよく分からない。

そんなことよりも僕は、ほかの事が気になって、2階の窓から、中庭に出る。

そして、歩いていく。

近ずくにつれ、強くなる、鉄の香り。

血の香り。

どうでもいいけど。

僕は、そんなものなんて気にせずに、歩いていく。

「こうくんっ」

僕を呼ぶ声が、後ろの、廊下の方から聞こえた。

振り向かなかったけど、たぶん。

美島菜月だろう。

あの、独特の発音は、そうだと思う。

なぜかは分からないけど、校舎に、残っていたようだ。

きっと、みみさんなら、確信を持って頷けるだろうけど。

僕はそこまで聴覚が鋭くない。

どうでもいい。

僕は、近づいていく。

そして、死体のすぐ側に立ち、それを見下ろす。

死体だ。これ以上なく、きっと。

僕は、話しかける。

終わったモノにではなく、続いているモノに。

「紅葉」

そう呼びながら、僕は、死体のすぐ側で立っている紅葉を見る。

その表情は、たいして、普段と変化はない。

「紅葉」

僕はもう1度呼ぶ。

「……」

紅葉は、答えない。

だけど、僕は、言う。

「大丈夫だよ」

「……」

紅葉は何も、答えない。

だけど、僕は、言う。

「                              」

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