12.5 まっさらなせかいにぽつんとひとつ











気持ちが高ぶる。

緊張によって心臓が高鳴るのではなく、明らかな興奮をもって鼓膜に響くほどに強く拍っている。

自分はきっと今アドネラリンが溢れかえっていることだろうことが簡単に分かる。

ん?、アドネラリンであってるよね?。

理系はあんまり得意ではないから、その辺はよくわからない。

そんなこと今はどうでもいいわけだし。

なんていっても、頭で考える前に手が勝手に動く。

腰を連動させ、肩から肘にかけての連動率がこれまでになくスムーズだ。

こうなってくると、さすがに自分が馴れてきたんだと実感が沸く。

興奮が他のすべての感情を圧殺してくれているおかげで、まるでぬるま湯に浸かっているように頭の芯がぶれている。

全身の筋肉を使っているせいか、関係のない筋肉がゆるむ。

頬のにやけが隠せない。

こんな下品な顔はあんまりしたくないんだけど。

今はそんなことは気にせずに、体を動かす時なのだ。

両手を上手く躍動させ、渾身の一撃。

………って、簡単にはいかない。

多少馴れてはきたけど、それでもやはりまだまだ未熟だ。

一発が、どうしても強くない。

それは、数を重ねればカバー出来ることなんだけど。

むかしから、体力には結構自信があろうから、特に問題はない。

声援は、あるわけないから、自分で送っておくことにする。

そこでふと、自分の前にあるものが少し跳ねた気がしたが、気のせいだろう。

こんなもの。

こんな無価値で、無意味なものは。

所詮、この世界にとってはゴミだ。

どこにも必要性を感じられない。

存在するだけで無駄なもの。

自分と同じように。

普遍的な日常を毎日繰り返すだけの、そんな、もの。

だけど。

自分は見つけてしまった。

その存在を。

その人間を。

あの人だけは、違う。

こんなものばかりの世界で唯一。

自分が初めて、価値がるものだと認められた人。

存在する意味があるものだと、分かった人。

きっと一生さがしても、あの人以上の人はもう見つけられない。

確実に。

あの人が欲しい。

自分のものにしてしまいたいぐらいに。

それは、無理だと分かっているけど。

せめて、隣を歩ける程度になりたい。

肩を並べて歩きたい。

それはきっと、すばらしいことであろうから。

その先の未来は、明るいか暗いか分からないけど。

きっと有意義なものになるだろうから。

間違いなく、そうなるだろうから。

そのためには、これが、ちょっと邪魔だ。

さっさとご退場願おう。

2度と、自分と同じ世界に現れないように。

徹底的に。

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