その12 だらだら2
「さぁ来るのだこうくん」
「いやいや待てれい美島さん」
これだけで今の僕の置かれている状況が想像出来たら天才だ。まぁどういう才能かは分からないけど。
とりあえず僕は、美島に腕を持たれて引っ張られていた。
その隣には、木沢もいる。
ここに至るまでを簡単に説明すると。
「立ち上がるんだこうくん」「武装蜂起はほどほどにね。後僕は平和主義者だから」「私たちにはこうくんのような人間が必要だ」「実はぼくは宇宙人なんだ」「こうくんが必要だ」「すまないがそれは前世の名前なんだ」「現世に生まれ変わってくれてありがとう、こうくん」「ごめんなさい、人違いです」「嘘!。その右腕の痣は私たちの種族の証なんだ!」「これは先日アメフトの試合で…」みたいなことはなかったけど。僕も途中からなんだから分からなくなってきてたし。
まぁ正直に言えば、なんだか男手が必要だから手伝ってって強引に引っ張られているみたいな感じなんだが。
それにしてもさすが剣道部期待の星。なかなか、力が強いではないか。
「悪いねこうくん。なんだか巻き込んじゃって」
そう言って、引っ張られてる僕の肩がポンッと叩かれる。
「でも人手がいるんだということで、納得してくれ」
そう言って、茉矢木武将というなんだかいかにも強そうというか、絶対下の名前の方は呼び方間違えられるだろうと予想が出来るそいつは、目の細い狐系に顔を爽やかな、歯とか光りそうな笑顔を僕に向ける。
そしてそれに対抗して僕も頭とかを光らそうと思ったけど、僕の頭はまだ髪の毛の心配をしなくてもいいので無理だった。
とりあえず簡潔に茉矢木の事を説明するなら、僕の両手の指に入る物好きというか変わったやつとだけ言っておこう。
実際、変わってるしね。案外努力家なんだけど。
「分かったからまず手を離してくれ」
そう言って僕は視線と共に美島に訴える。
いい加減腕が痛いのだ。
「逃げたらだめだぞ」
そう念を押して、美島は僕の腕を離す。
そこで翻って逃げようかと思ったけど、どうやら僕は3人に囲まれているようで、逃亡は無理そうだった。
まぁ別に無理すれば出来ないこともないだろうけど、そこまでのやる気も、僕には存在しなかった。
平和主義だからね。日本人精神万歳。
どうでもいいか。
「それで?。僕は何をすればいいの?」
一様待ち人もいるから、あんまり時間をかけたくもない。
それにお腹も減ってるしね。
「えっとね、ちょっと美術部の用品を持っていくの手伝って欲しかったんだけなんだけど。ごめんねこうくん」
そう言って、申し訳なさそうに僕を見る木沢。
惜しい、そこで舌を出したらなお良かったのに。
駄目だなぁ、みんな。ももちゃんを見習わないと。冗談。
「そんなに重い物なの?。悪いけど僕はそんなに力持ちじゃないから大した戦力にはなれないけど」
紅葉かももちゃんぐらいが限界だ。みみさんは、…うむ。イエスと言っておかないと怒られそうなので、イエス。
「うんん」
だけど、木沢は首を振る。
「重いのもあるけど、どっちかっていうと数が多いんだよね」
えへへ、と頭を掻いて笑う木沢さん。
その笑い方にどうしても思春期男児の心を当てはめそうになってしまう。そして僕はと言えば思春期を通り越して心だけ成人してしまっているので特に効果なさそうだ。
自分でもよく分からないけど。
そして僕は、特別教室廉へと連れて行かれる。
もしかしてまた切った貼ったの文句でも付けられるのではないかと一瞬危惧いたけどそんなこともなく、とりあえず僕が連れてこられてのは特別廉2階の美術室、ではなくその下の1階と示された階段の横。普通教室廉から特別廉に渡ってくる通路のすぐ側。
他の教室とは違ってスライド式ではなく、普通にノブを捻って開け閉めするタイプのドアの前だ。何が普通なのかはわからないけど。
で、何となく僕はそのノブを捻った。
「あれ?」
開かなかった。
それから逆回転させても開かなかった。
当たり前だけど。
「こうくん、それ鍵掛かってるよ」
と茉矢木くんは相変わらず爽やかな笑みで僕に言う。
いや、まぁ気づいてたんですけど、なんとなく、ね。
ここで、開け大豆なんて言ったら僕の脳みそが大豆で出来ているのかと疑われるわけだ。
どうでもいいけど。好きです、豆みそ。
「じゃあどうやって開けるの?」
僕がそう聞くと、木沢が僕の隣に、つまりは扉の前に歩いてきた。
そして、う~んと背伸びをする。
悪いけど、いくら僕があんまり身長高いほうじゃないといっても、170はあると嘘をついて強がるつもりはない。
さすがにそれぐらいじゃあ僕の身長は抜けないよと思うけど、どうやら木沢の目的は違ったようだ。
精一杯背伸びしてなんだか支えてあげるような振りをしてセクハラをしたくなるような衝動に駆られたりしないけど、隣いる茉矢木くんは駆られているようだった。
背伸びした木沢は手を伸ばし、通気口と扉の間にある準備室と書かれたプレートの裏から何かを取り出した。そしてどうやらそれは鍵らしかった。
「じゃーん、えへへ。昔らからの伝統でね、準備室の鍵はずっと此処にあるの」
小さな伝統だ、という僕の感想。
「というかそれを僕に見せていいの?」
「ん?、いいんじゃないのかな?」
と首を傾げる木沢。
「適当だなぁ」
「えへへ。でも文化部の人はみんな知ってるよ」
「そうそう」
茉矢木は頷く。
ちなみに彼は木沢と同じ美術部らしい。昨日は無断で失礼しましたと謝っておこうかと思ったけど面倒だしやめた。
「薄っぺらい伝統だ」
「ちなみに私も知ってるぞ」
運動部の美島さんは得意げだ。
すでにフリーダムでした。伝統が泣いてるぞ、どうでもいいけど。
木沢が扉を開ける。
部屋のなかにはいくつかのロッカーがあり、どうやら文化部系の生徒達が各々の用具を仕舞っているようだ。
「それにしも、真っ暗だねぇ」
厚めのカーテンが閉まっているせいか、部屋は薄暗いというかあきらかに暗い。
「ああ。美術部使ってる絵の具とかでな、日の光が当たると変色しちゃう特殊なやつもあるからカーテンは常時閉めたままなんだ。…えーと」
茉矢木はそう言いながら、壁をの辺りを手探りで触っている。そして少しすると電気がついたので、どうやらスイッチを探していたらしい。
部屋の全貌が開かれた。
「…」
一言感想を言うなら、伝統は無いと言っておこう。
確かに壁際にある棚とか、僅かに開いたロッカーの間からはそれなりの道具や、保管してある作品などが見えるけど。
「まさに自由、だな」
「えへへ」
僕の感想に、木沢が笑う。
それもそうだろう。部屋の中はある意味すごかった。
というかすでに生徒の私室となっていた。
積み上げられたマンガにお菓子、しかも小さいながら冷蔵庫まである。しかも茉矢木が僕の様子を見て棚にあったダンボールを開いて見せてくれると、中からはテレビまで出てきた。隣にはゲームのハードまで置いてあるからお前達は学校に何をしに来てるんだと言いたくなったり。
「いい部屋だね」
「だろ」
と茉矢木くん。
「私もたまにお邪魔しているぞ」
と置いてある袋から慣れた様子で飴を取り出して舐める運動部の美島さん。あんたの部室は此処じゃねえだろ。
ともかく話が進みそうにないので進めてみる事にした。
「何を運べばいいの?」
「あ、うん。えっとね…」
部屋の隅に置いてあるダンボールを指さす木沢。
「あれ、なんだけど」
そう言って、そのダンボールのしばに寄って行き、蓋を開ける。その中にも、いくつかの箱があった。
「何これ?」
「美術部の備品。新しく購入したやつでさ。これが以外と重くってな。数もあるから人数いたほうが楽だし」
「ふーん」
「俺達はこれを美術室に持っていけばいいってわけ」
茉矢木は中にある箱を3つほど持ち上げ、扉の外に出ていく。
僕も同じように、2つほど持つ。
木沢は、少し大きめのを1つ持ち、美島にいたっては両手に2つづつバランスよく持っていた。そして、僕らはそのまま2階に向かい、美術室中に入っていく。
途中、屋上に向かう階段を見たが、誰も入れないように塞がれていた。
そして美術室に入った僕らは、持ってきた荷物を中にあった机の上に置き、もう2度ほど同じ行程を繰り返して、作業は終わる。
正直疲れた。
「今思ったんだけどさ」
「?、どうしたんこうくん?」
「他の美術部の連中に頼めばよかったんじゃないの?」
部員がこの2人だけということはないだろう。飾ってある作品や道具が、2人分にしては明らかに多すぎる。
だが茉矢木は、苦笑いで手を振っている。
「無理無理。これって当番制だからさ。面倒だし、わざわざ自分が当番じゃないときにやろうと思うやつなんていないって」
正直、そんな内情に僕を巻き込むなというのが本音だ。
あーあ、また怒ってそうだなぁ。
「美島は部活なかったの?」
「今日は休みだ。それにどうせ暇だったし、少しぐらい体を動かしておこうと思ってな」
「そうですか」
悪いが僕はそんなに健全じゃないので同意は出来ない。帰宅部だしね、ん?。何かを蹴ったような気がする。しゃがんでみると、何かの欠片だった。なんだゴミか。
どうでもよかったので、立ち上がる。
そして、木沢さんが生首を持っていました。
「…木沢さん、それなあに?」
「え、えーとね」
と、両手で薄緑色の昔のギリシャの人の首のような持っている木沢。
結構古い物なのか、所々欠けているし、何より薄いけど茶色っぽい染みまで付いていて不気味でしょうがない。というかこっちに顔を向けるな。
「部活で写生練習ようの銅像なんだけど、今私が借りててね。この間使ったまま美術室においてっちゃって」
「おいおい」
茉矢木は、口の端を引きつらせて言う。
「狩谷先生に見つからなくてよかったな。あの人、美術部の備品全部チェック入れてるから。木沢も借りたときも名簿に記入したんだろ?。しっかり管理しないと」
「うん。忘れっちゃっててね。えへへ」
と笑う木沢さんだけど、たしかに僕もそれは納得だ。
あの先生、すごいきびしいので有名だし、1年生の時のクラスでの掃除の後のチェックも嫌みな姑なみだったからなぁ。初めて見たよ、窓のさんを指でなぞる人。どうでもよかったけど、無理矢理掃除させられた記憶は忘れがたい。
木沢は、その首を結構重いのかしっかりと持って、準備室に向かい、それをおそらくは自分のロッカーであろう場所に入れる。その後準備室から出て鍵をかけ、ようやく僕のお役は御免になった。
そして、校門に向かいながら再び疑問に思う。
なぜ僕は、木沢と美島と一緒に昇降口にいるのであろう。(茉矢木は用事があると行ってどこかにいった。)
「あのぉ」
「どうしたこうくん?。早く行こう」
と、靴を履きながら僕を急かす美島。
「………………なんでお2人は僕の後ろに付いてきてるの?」
「せっかくだから一緒に帰ろうと思ってな。な、梨沙」
「えっ?、あ、うん。えへへ」
「いや、僕は別に…」
「さあさあ行くぞ」
ちょっと、背中押すなって。
僕は、無理矢理校門の方に押されていく。どうやら2人とは帰る方向は一緒らしいけど、うむ、困った。
校門につくと、紅葉が立っていた。僕の方を、目尻がこれでもかというほどつり上がった目で見てきたけど、その後ろにいる2人を見て、逸らす。
「ごめん、ちょっと遅れた」
「…」
無視された。
「あれ?隣のクラスの、薙、さん、だっけ?」
美島は、僕と紅葉の様子を交互に見て首を傾げる。
「もしかして、お邪魔だった?」
そして僕の方を窺う。とりあえず僕はそれに首を振っておいた。
「うんん、別に。それと一緒に帰ってるのは家が同じ方向で、編入の時期が一緒だったからなんだ」
と疑問を先読みして適当に誤魔化して説明する。
「あっ、そう言えば昨日もそうだったよね」
木沢さんは相づちをうつ。
うむ、出来るだけ自然に帰ってるつもりのだったんだけど、以外と見られているらしい。別にばれてもいいんだけど。
紅葉が歩き出したので、僕と美島と木沢も歩き出した。
「2人はいつも一緒に帰ってるの?」
「うん。私たち両方とも部活やってるから、時間合わせて一緒にね」
「私の方がいつも遅いから梨沙を待たせているけどな」
ふーん、なるほど。
「やっぱり仲がいいんだね」
「ふふっ。こうくんこそ、薙さんとは浅からぬ仲のようじゃないか?」
「さあね」
実際は浅からぬというよりは、…ふむ。
いい加減、聞いてみるか。
「それよりもさ」
「?」
「なんだ?」
「2人とも、僕に話があるんじゃないの?」
僕がそう言うと、2人は目を見開き、驚いたような表情をした。
分かりやすい肯定の態度でよろしい。
木沢が、口を開く。
「…どうして、そう思う、の?」
表情から、明るさが抜けていく。
「何となくだよ」
明らかに、不自然だったもんなぁ。
無理矢理僕と一緒に帰ろうとしたときとか。それにきっと、手伝わされたのも、このための布石だろうし。
「それで、何の話し?」
紅葉もなんだか不機嫌だし、喋らないし、家に着くまでぐらいなら聞いてもいいかなと思って聞いてみた。
2人は、顔を合わせる。心なしか、木沢の方が表情の陰りが強いような気がする。
「…こうくん、お願いがあるんだけど」
美島が僕に言う。
「出来れば今から言うことは、口外しないで欲しいんだ。」
「別にいいけど」
明日まで覚えているか、自信ないしね。どうでもいいから。
そして美島は、意を決したように僕に言う。
「梨沙、……ストーカーされてるみたいなんだ」
「…ほう」
としか言いようがないような。
木沢の方を向くと、若干下を向いて俯いている。
でも、ねぇ。
「…そんなことを僕に相談されても。警察に行けとしか」
「でも、警察は、」
「うん、無理だろうね」
実際に被害がない限り、警察は動かないだろうから。
それが、現実だから。
「そもそもなんでストーカーされてるって気づいたの?」
僕がそう聞くと、木沢は顔を少し上げる。でも、目線は合わせない。
「具体的には、言えないんだけど。…何気なくふっと後ろむくと、さっと誰かが物陰に隠れるの。最初は、偶然かなって、思ってたんだけど」
「なるほど。それが何回もあったと」
「うん…」
さらに木沢が言うには、夜何気なく窓を開けたときとか、明らかに誰かの視線感じるので辺りを見渡すと、歩いているときと同じように誰かが隠れるらしい。
それも毎日というわけでもないが、かなり頻繁に。
もちろん確認するのは怖くてしていない。
それと、跡を付けられるのは学校帰り多いということ。
これは僕らが学生だから当たり前のことなのだろうけど。学校に行ってる時間が一番多いしね。それに、時間が規則的だから。
結構、長い期間、木沢そのストーカーにつけられているらしい。
だけど、写真をとられたり、何かを盗まれたり、襲われたりと、直接的な事をされたわけでもないそうだ。。
「ふーん」
「ふーんってこうくん。梨沙は本気で悩んでるんだ。」
「そう。でも僕にはどうしようもないよ。内容が漠然とし過ぎていて、そのストーカーの存在さえはっきりしないし」
直接会えれば、何とでもなるけど。面倒だし。
「どういう意味?」
「いや。ただ木沢の意識のし過ぎってことはないだろうかと」
「梨沙の被害妄想だと言いたいのか?」
僅かに怒気をはらんだ声を出す美島。
背中に背負っている竹刀袋が異常に恐ろしく感じるよ。
「菜月ちゃん」
木沢が、美島を抑える。
「落ちついて、お願い」
「…すまない」
美島は大人しく引き下がる。
なんだか本人よりも怒っているような気がする。
「そもそもどうして僕に話そうと思ったの?」
「え、…うん」
木沢は表情の陰りを強くしながら言う。
そう言う顔もなかなか、とか言ったら本当に空気読めない人なんだろうな。
「今日、うちの学校で、人が死んだって聞いて、…それで、その」
「怖くなった、と」
「…うん」
「でもそれだと僕に話した理由とは直結しないよね?」
「それは、……うん」
木沢は再び俯く。
同時に、美島が僕の両腕を押さえるように迫ってきた。
一瞬ついに竹刀の登場か?、と心配したけど、違った。
美島は僕に、真摯に訴える。
その瞳に、僕を移して、美化したフィルターをかけて。
「頼む、こうくん。梨沙を、…梨沙を助けてくれっ」
美島は言う。
「あの時みたいに。…あの時、私たちを助けたみたいにっ!」
「ちょっと待った」
僕は美島の言葉にストップをかける。
「美島。何か勘違いしてるみたいだから言うよ。あの時、僕は君たちを助けたみたいになってたけど、あれはあくまでも結果的にそうなっただけ。僕は自分のことをどうにかするのに精一杯だったし、自分のことをどうにか出来たときに、本当にたまたま君たちが助かっていただけなんだよ。だから、期待されても困る」
「でもこうくんならっ」
僕の言葉に、さらに美島は追随する。
この子の頭の中の僕はどうなっているのか少し心配になってきた。
紅葉が立ち止まって、僕らを見ている。
「美島。僕は君達の期待に応えられないよ。それに僕は、期待されるほどの価値もない」
きっと、君の方がよっぽど社会からは必要にされるだろうよ。
僕みたいなやつにくられれば。
「頼むこうくんっ」
「菜月ちゃん、いいって。落ち着いて」
木沢が、再び美島を抑える。
なんだか本当に本人よりも隣人のほうが必死に見えてきたぞ。
「あ…すまない、梨沙。…それに、こうくんも」
自分がどんな状態なのかに気づいて、僅かに赤らむ美島。
木沢は、それに微笑みながら美島をなだめる。
「別にいいよ。謝るようなこともでないから」
「それでもすまない」
そう言って、美島は頭を下げる。
急に熱くなったりするところは相変わらずのようだった。別に嫌いでもないのでこのままでもいいが。
「美島は友達思いなんだね」
「え?」
と首を傾げる木沢。
それに合わせてポニーテールも揺れる。あー、引っ張りたい。
「私に方こそごめんね、菜月ちゃん。私の事なのになんだか菜月ちゃんにばっか喋らせちゃって」
「気にするな梨沙、大したことじゃない」
「うんん。ありがとう」
「礼は貰っておこう」
どうやら美島は落ち着いたようだ。
…ふーむ。
「とにかく。僕じゃ大した力になれないから、きっと」
「あ、ああ。本当にすまなかったこうくん。無理を言った」
「うん。……でも、まあ、」
あれだなぁ、うむ。
少し、違うところから、興味が、沸いた。
「何かあったら、話くらいは、聞いてあげるよ」
そして、僕がそう言うと。
2人の表情が、特に美島の方が、劇的に、変化した。
「そ、そうかっ。…うん、そうかそうか」
「へへー」
美島は楽しそうに頷き、木沢は笑っていた。僕はいぶかしんでいた。
「さすがはこうくん。話が分かる」
「うんうん。そうだね」
「まあ、話だけだけどね。…それじゃあ、僕らはこっちだから」
いつのまにか、いつもみんなと分かれる十字路に差し掛かっていた。
「うん、また明日だこうくん。それと薙さん、今日はなんだかすまなかった」
「あ、そうだよ。ごめんね薙さん。変な話し聞かせちゃって」
「別に」
と素っ気なく返す紅葉。
「本当にごめんね。それとこうくん、今日はありがと、それじゃあね」
そう言って、2人は僕らとは別の方角に向かっていく。
とりあえず僕はそれに、手だけ振り替えしておいた。
で、2人が見なくなってから紅葉に鞄で頭を殴られた。
「…痛い」
「今日も、随分遅かったわね」
「いや、ちょっと手伝ってて…」
「口答えするな!」
再び鞄アタック。というかやっぱり遅れたこと怒ってたのか。
2人がいなくなったので紅葉は全開だ。
「ごめんさい」
「最初から素直に謝れ」
「はい」
僕は頭を撫でながら頷く。
「……コウ」
少しして、紅葉が幾分か落ちついた声で僕を呼ぶ。
「なに?」
「関係、あるの?」
主語が無い言葉。
でも、僕にはそれが何を意味するかわかる。
「どうだろうね?。まだ、微妙なところ」
「…そう」
紅葉は、僕の答えに一言だけ呟いて、また、歩き出した。
もちろん僕は、それに付いていく。
そして歩きながら、さっきの会話を思い出す。
…………………うむ。
該当、あり。
だけど。
「どうでもいいか」
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