その11 ちゅうしょく2(たべそこねたぁ












「あー……、よく寝てしまった」

もー、これでもかと言うほどに。

「うんしょっ、と……っ、背中が固まって」

もうカチンカチンだ。

寝るもんじゃないね、屋上。というかコンクリートの上。

出来れば枕も欲しかったなぁ。その時は、やっぱりももちゃんの足がいいね、柔らかいし、やってもセクハラ扱いしないから。

紅葉は…、殴られそうだな。でも今度、頼んでみるのも一興か。

自分で腕枕は、肩が凝るから。

僕は肩を回しながら、起きあがる。

肩を暖めなければ、キャッチボールすら出来ない。僕の場合は、言葉のだけど。

とりあえず、うむ。

「チャイムがいい目覚ましになってくれたようだな」

あれって結構音大きいし、耳に響くから丁度よかった。

それにしても、あれ?。

「目の前グラグラ…、地震か?、うーむ……」

なぜか空まで揺れている。

なんだ、遂に世界の滅びか?、と疑ったけど。

それもそうか。

「………さびぃ」

僕は両手で擦り合わせる。

うわぁ。危なかったぜ。

体が真から冷えてる。

やばいやばい。

手と足の先の感覚がほとんどないよ。

もう少しで学校で凍死するところだったよ。

そんなのは洒落にならない。

屋上で死ぬと言ったら飛び降りと相場は決まっているのに、僕がそのルールを破るわけにはいかないのだ。

どうでもいいから、早く中に入ろっと。

僕は急いで屋上から校舎の中に入っていく。

階段降りる時は、まだ意識がフラフラしていたからで、手すりにこれでもかっていうほど掴まって、ゆっくり降りていく。

だけど。

「そういえば次は昼休みか」

まずい、かな?。

急がねば、また遅れると前回以上にご立腹になりかねない。

そう思い、僕は来たときの2倍くらいのペースで階段降り、廊下を走らない程度のスピードで歩いていき、とりあえずは、まず。

僕の、クラスについた。

そんな風に言うと、まるで僕の所持物みたいに聞こえるけどそんなこともなくどうでもいいか。

それより急ぐ僕。

教室に入り、一番奥の席に向かっていく。

「あっ」

だが、刺客が僕の前に現れた。

「こうくんおかえり。どこ行ってたの?」

木沢は、すでに弁当を食べながら、僕の方を向いている。

「いやちょっと、軽めの冬眠を」

「え?、さぼってたの?」

「いやいやまさか。僕がそんなことをするはずがないじゃないですか。ただちょっと授業中に意識を無くすことによって心身の回復を計っていただけで」

「それをサボリと言うのだろう」

美島は富士山柄の敷物に包まれていた弁当箱(柄が鶴)の中にある唐揚げを食べながら、僕のことを箸でさす。

「箸でさすなよ。」

「んぅ…、ホレ」

「指でさすなよ」

それじゃあ結局一緒だろ。

「わがままやつだな、こうくん」

「それなら美島は失礼なやつかな?」

「まぁ、それはおいといて」

話を軽く流された。

わざわざ手を使ったジェスチャー付きで。

「本当はなんで呼ばれたんだ?、こうくん」

美島は箸をくわえて僕に聞いてくる。

女の子なんだからさぁ。

やっぱり侍なのか。

どうでもいいけど。

とりあえず僕は首を振っておいた。

「別に。大したことじゃないよ」

僕がそう言うと、美島は少し身を乗り出して言う。

「大したことじゃなくて先生が授業中に生徒を呼ぶか」

まあ、確かにね。

言ってることは、よく分かるけど。

「僕にとっては、って意味だよ」

「なら教えてくれてもいいじゃないか。な、梨沙を聞きたいだろう」

「え?。あー、…うん、ちょっと、気になるかな」

「ほら、梨沙もさっさと言って楽になれと言っている」

「そこまで言ってないよっ菜月ちゃん!」

「さあさあ。早くいうんだこうくん」

と、美島は木沢の主張をスルーしつつ僕に詰め寄るけど。

うむ。

そんなに気にすることでもないだろうよ、別に。

何がそんなに気になるのやら。

「本当に大したことじゃないよ」

僕は続けて拒否の意向を示してみた。

「それでも気になる」

あっちも拒否してきた。

そしてこの野郎と僕は対峙し、永遠のライバルが現れた喜びに打ち震えたり何たりしたりはしないけど。

こっちには少々急がなきゃいけない訳があるのだ。

だけど。

「ねえ、こうくん」

そこで。

木沢が、僕に言ってきた。

「もしかして、今朝の飛び降り事件の事で呼ばれたの?」

「ん、…そうなのかこうくん?」

いささか真剣みの増えた表情で僕を見る木沢と美島。

男子からみれば羨ましい限りの状況なのだろうけど。

…うむ。

まぁ確かに、タイムリーな事なんだけどなぁ。

学校の雰囲気かすると、もうすでに話は広まりきっているようだし。

だから、2人が気になるのも分かるけど。

話すの、面倒だしなぁ。

そろそろ、紅葉の所に行かないと本気でマズイので。

僕は、取り出した弁当箱を持ち、こっちをじっと見てくる2人に軽く手を振る。

「大したことじゃないよ」

僕はそう言って、教室から出ていく。

美島か木沢か分からないけど、どっちが最後に僕を呼び止めたような気もするけど、そんな場合じゃないし。

僕はいつものように隣のクラスに向かい、後ろ側の扉を開ける。

「………………………」

ふむ。

空気が、いつもと違った。

そんな気がするだけだろうけど、重たいって言うか。

僕に集まってくる視線も、いつもより遙かに、圧力がある。

トゲがあるっていうか、それ以上に鋭い感じの。

まぁ別に、本当に僕に圧力がかかっている訳でもないの、僕は堂々といつも通りに紅葉の席へと向かっていく。

それに伴い僕を追っていく視線。

しかも、クラスのほぼ全員の視線が僕に集まっている。

みな、ほとんどが同じうな目つきだ。

人気者になったな僕も、アイドルデビューだよ。冗談半分で、後どうでもいいね。

で、とりあえず僕は紅葉の隣について、いつものように隣の席に弁当箱の包みをおいて、座る。

今日の弁当はももちゃん作だ。

うむ、非常に楽しみである。特にデザートが。

ももちゃんの作るの、僕の好みにあってるんだよなぁ。

と、僅かに現実逃避しつつ紅葉に話しかけてみた。

「ごめん。ちょっと遅れた」

「…」

無視された。

もう一回謝ることにした。

「ごめん。かなり遅れました」

「……」

ちらっと、と横目で僕をみる紅葉。

真っ黒な髪が、僅かに揺れる。

「愚図」

僕だけに聞こえるような声で、言われた。

…うん。まぁ普通ぐらいかな。

これならすぐに許してくれそうだ。

とりあえずもう一回謝っておこうかな。

「ごめ…」

で僕が言おうとすると、

「なんであんたがここにいるのっ!?」

と、言う声がした。

というかほとんど怒鳴り声だったけど。

もう、なんだよ。

せっかく謝ってる途中だったのに。

別に謝るのが好きな訳じゃないけど、嫌いでもない。

紅葉だしね。

とりあえずしきり直すことにした。

「えっと、紅葉。ごめん…」

「聞きなさいよ!!」

と言われ。

おもいっきり肩を掴まれたおっと危ない。

もう少しで箸をおとすところであった。

というかこのクラスでは人を呼び止めるときに肩を掴むのがはやってるのかな?。

果てしなく疑問のように見えてどうでもいいけど。

僕が無理矢理振り返らされると、目の前に1人の女生徒が立っていた。

髪の毛を美島みたいに高めに結って、でも彼女と違うのはそこから垂れてる髪の毛がカールしているということだ。

髪の色も、結構明るめ。

身長は、紅葉より少し高いくらいかな。

そんな生徒が、僕のことをおもいっきり目をつり上げて見ている。というか睨んでいるといったほうが正解か。

どっちでもいいけど。

「えっと、なんで…」

なんでしょう、と言おうとした僕。

だけど、それを大きく遮るように言われた。

「なんで人殺しこんなところにいるのっ!!」

そしてその女生徒は、バンッと、僕の使っている机を叩いた。

念のために言うけど僕の席じゃない。

紅葉の席だ。

「………」

なんで僕の足を踏んでるんだろう、紅葉。

それよりも、うむ。

人殺し、ねぇ…。

僕は、女生徒の言動に特に怯むこともなく、というかこの程度じゃあれだけど。

基本的に受け身ですからねぇ、僕。

ある程度は何を言われても動じないというか…うむ。

どうでもいいか。

「なんのこと?」

と僕はその女生徒に返す。

「っ!!」

その女生徒は、もう1度机を叩く。

だけど僕は、別にその机に思い入れがなかったので手が痛そうだなぁ、とだけ思ってみた。

たぶん机が壊れても…、合掌ぐらいするかもね。

気分によるけど。

それよりも紅葉が僕の足を踏む力がより強くなった。

女生徒は、僅かに息を荒げている。

んー…、ん?。

僕がふと見ると、紅葉は弁当を食べていた。

我関せずを決めたのか、ももちゃんの弁当が早く食べたかったのか。

きっと、後者であるだろうな、うむ。

僕もそうだし。

「…とぼけないでよ」

僕が紅葉を見ていたら、その女生徒は言う。

「私は見たんだからねっ!!」

「?」

何を、と言ったらまた机を叩きそうなので言わないけど。

…まさか、僕の弁当の中身をもうすでに見てしまったのか?。

そうだったらこれは弁当の中身のたかりと考えるべきなのか僕はどうでもよくなって考えるのもやめた。

それに、何を言いたいかは分かるから。

余計に、どうでもいいけど、ふーん…なるほど。

この子、なんだ。

「あんたがっ!…」

「僕が千種一哉くんと話してるのを見てたんでしょ?」

「えっ?」

「僕が千種一哉くんにいい、絡まれてるのを見ていたんでしょ?」

おっと危なねぇ。思わず言い寄られてるって言いそうになってしまった。

もしも僕がそんな性癖だったら、確かに自殺するかもな。

あくまで、今の僕の視点からの話だけど。どうでもいいし。

僕にそう言われ、少し後ろに下がった女生徒T。何となくTをつけてみた。

「っ…そうよっ!。あんたが特別廉で一哉と言い合ってたのを私は見たわ!!」

いやぁ、まあ確かに会話してたけど。

一方的に僕が言われてただけなような。

「それで?、なにが言いたいの?」

このクラスのやつは揃いも揃って遠回しだな。

「だからあんたが殺したんでしょっ!。一哉が飛び降り自殺なんてするわけがないっ!、あんたが殺したとしか考えられなのよ!」

その女生徒は、ヒステリックというか、叫ぶように言ってくる。

正直、そんな大声出さなくても聞こえてるよっていうのが僕の感想だけど、後、机がだんだん可愛そうになってきたよ。

冗談なんだけどね。あっ、机のほうが。

「この人殺しっ!!。なんであんたなんかがまたこのクラスに来てるの!?。さっさと警察に捕まりなさよっ!!」

…ふむ。

これだけ騒いでるのに、クラスの他のメンバーが介入してこないとなると、事前に僕が昨日千種くんと話していたことを言ってあったんだろうな。

別に隠すことでもないからね。知られても別に問題もないけど。

それに、ねぇ。

女の子って可愛いなぁ、ホント。

「何かいいなさよっ!!!、人殺し!!」

「いいよ」

と僕は答える。

「はぁっ!?」

僕の言葉に机を叩きながら応える女生徒。

出来ればそのまま机とだけコミュニケーションをとっていてくれると助かるけど、そうすれば僕はももちゃんのお弁当を食べられるわけだし。

あ、お弁当箱はちゃんと僕が持って死守してるから、こぼしちゃったらももちゃんに悪いしね。

僕としては、のんびり食べたいんだけど。

そのためには、とにかくこの子の怒りの矛先をどうにかしないといけないのかなぁ…。

「だからいいよ。何でも言ってあげる」

何でもかんでも好きなこと、包み隠していってあげるよ。

女の子だから特別だ。

「っ…なっ、なに、いって…」

「何でも言ってあげるって言ってるんだよ」

僕がそう言うと、少し、その女生徒の表情から、鋭さが消える。

「…あんた、何、言って…るの?」

そして変わりに、僅かな戸惑いが、入ってきた。

「君が言ったんだよ、何か言いなさいって。だから僕は答えたんだよ。いいよって。君の言って欲しいことをなんでも言ってあげるって。だからさ、ほら、早く言ってよ。君は僕に何が言って欲しいわけ?」

と彼女の目を真っ直ぐに見つつ僕は言った。

「っ…」

目を逸らす女生徒。

でもそのかわり、クラス中の視線が、僕らに集まっている。

「…………………」

「…………」

無言の僕ら。

普通は何か言うのを躊躇われる場面なんだろうけど、あえて僕は空気を読まないことにした。

だって昼休み、後10分もないんだもん。

「君さ」

「…何よ?」

半眼で、今にも僕を刺しそうな勢いで睨んでいる。

それに大して僕は爽やかな笑みを浮かべたりは出来ないけど、聞いてみた。

「名前、何て言うの?」

「はぁ?」

僅かに口を開けて、呆れたような顔をしている女生徒。

初めの勢いは、完全になくなっていた。

それはともかく、公衆の面前で堂々とナンパを敢行した僕はというと、その顔を真顔で見返していた。

「…高桐」

「ん?」

「高桐真梨子よ」

「そう。で、その高桐さんは僕から何を聞きたいわけ?」

気づくと、高桐と机とのコミュニケーションは失われていた。

けど机は文句1つ言わないので、新たな趣味にでも目覚めたのかも知れない。冗談ですけどね。何だか親近感が沸いたよ。

「…あんたが一哉を殺したの?」

少しの沈黙の後、高桐は僕に初めとは違って幾分落ち着いた様子で聞いてきた。

僕はそれに答える。

「何ともいえないよ」

「?。どういう意味?」

「だって、今此処で僕が一哉くんとやらの殺人の有無に対して否定しても。そんなもの証拠もなにもないだろ?。否定したって君が僕に向けている疑いが晴れるわけでもないし。だから何とも言えない。君が心の底から納得できるような答えを、僕は持っていないから」

と、長ったらしく詐称まみれの言葉を振りまいてみた。

実際は、曖昧に誤魔化しただけだけど。

それでもきっと、こういう子には。

「…」

僕の答えに、高桐は渋い顔をしている。

「…はぁ」

なんだかため息をつかれた。

呆れられてるのかな?。

「それじゃあ、あの時一哉とは何を話していたわけ?」

「ん?、見てたんじゃないの?」

僕のその疑問に対して、高桐は首を振る。

「見てたけど、ずっとじゃないのよ。私は、ちょっとそっちの方に用があって、たまたま見かけただけで、すぐに普通廉の方に戻ってきたから…」

と微妙に言葉尻を濁す高桐。

どうでもよくないけど、どうやら僕はお弁当食べられないようだ。時間的に。

残念。後ごめんね、ももちゃん。

「…んー、でもそれはなぁ。ちょっと答えられないね。プライバシー的に」

後僕の都合的に。

「どういう意味よ」

「彼のプライバシーに関することだからさ。ほいほい言いふらす訳にもねぇ。」

実際は、面倒なだけだけど。

それに、ね。

「何となく分かるんじゃない?。高桐さんって、このクラスの人でしょ?」

「…」

僕のその言葉に、高桐は一瞬眉を寄せ、だがすぐに僕の隣の席にいる人物を見た。

そして、何だか、苦々しくその表情は歪んだように見えた。

ふむ。適当に言っただけなのだが、どうやら周知の事実だったらしい。

モテモテだねぇ、紅葉。

「…お」

と、そこでようやくというか、昼休み終了の鐘がなった。

鐘と言っても、録音してスピーカーから放送したやつだけど。

僕は、紅葉と自分の分の弁当箱を持ち上げる。

「じゃ、僕は戻るね」

と紅葉に告げ、返事はないけど、そのまま出口に向かっていく。

来たときと同様、視線が僕を追っていく。

それを特に気にもせず、僕はドアを開けた。

「待って」

「うん?」

呼び止める声に、首だけで振り返る。

高桐真梨子が、こっちを向いていた。

「私は」

彼女は言う。

「あなたのせいで、一哉が死んだと思ってる」

「…」

無言の僕。

そして、高桐は最後に一言付け足す。

「それだけだから」

そう言って高桐は、たぶん自分の席に向かっていった。

「…うん。脳の皺に刻んでおくよ」

気が向いたらね。

僕はそう答えて、隣の教室から退室する。

「…僕のせい、か」

ふむふむ。

遠回ってるけど、ど真ん中かな。

なかなか良いところつくじゃない、高桐さん。

見直したよ。初対面だけどさ。

どうでもいいしね。

さて。

「次の授業、なんだったかなぁ?」

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