その10.5 おひるねゆめものがたり
で、現在の僕は4時間目の授業をさぼっていた。
あの刑事さん2人の取り調べに近い質疑応答から開放された僕は、なんだかそのまま授業にでるのも面倒になってしまい、何となく普通教室廉の屋上に来ていた。
「うーん」
と伸びをする僕。
屋上から見える景色は開けていて、確かに開放的な気分になるけど。
外は結構風が強いし、それに以外とまだ肌寒かった。
正直、外に出てすぐに屋内に戻りたくなったが、それだと何故か負けた気もするので、無理矢理外で強がってるのが僕の現状だ。
「ん?」
なんだろう?。
そんな僕の視界に、ふといくつかの人影が映った。
場所は、反対側の校舎。
特別教室廉の屋上だ。
そこに、数人の人間が、よくは見えないが写真を取ったりしながら、調べているように見える。
おそらく、というかきっと、今回の事件を調べに来た警察だろう。
人数は5・6人ほどで、さっき僕が見た刑事さん達は見えない。
僕は、どうせ先生達に聞き込みでもしているのだろうと予測する。。
「どうでもいいけどね」
少し雲行きは怪しかったけど、あれなら大して問題にもならないだろうし、うむ。
たとえ死んだのが彼だったしても、それに僕はどうでもいいことだし。
今回は、たまたまだ。
本当にたまたま、起こった出来事。
それに、きっと。
「………………ふぅ」
うむ。
「ありえねぇー」
そう言って僕は、屋上に倒れ込んだ。
おぉ、空は今日も快晴だ。残念だね木沢さん、君のいい天気は今週いっぱい期待できそうにもないよ。
別に僕は曇りでもいいんだけどね、天気に好き嫌いはないし。あ、でもみみさんは雨が嫌いだって言ってたな。確か髪の毛が重くなっちゃうからだっけ?。
どうでもいいか。
え、っと。なんだっけ?。
「………あ、そうだそうだ。ありえねぇー。」
なぜかもう1度言ってみた。
「飛び降り自殺の、可能性、かぁ…」
ないよなぁ。
何馬鹿なこと考えてるんだろ、僕は。
ついに脳みそ逝っちゃったのかもしれないな。
僕に関係ないだって。
「笑っちゃうよ、まったく」
前向き思考、ここに極まったってところか。
「…最近平和だったからなぁ、そのせいかも。」
だって、ねぇ。
彼は、千種一哉くんは、関わっちゃったんだから。
自分から、しかも進んで。
「自業自得、って言うのは可愛そうかな?」
でも、しょうがないのだ。
そういうものなのだから。
「どうでもいいけど」
別に、僕が気にかけるような事でもないしね。
ただし、1つだけ言えることがある。
根拠を言えと言われても、説明するのは無理だけど。
僕自身、完璧な確信を持っているわけでもないし、論理的な筋道もほとんどないけど。
1つだけ、自信を持って言えることがある。
今回の事件。
飛び降りにしろ何にしろ。
きっと。
「自殺じゃ、ないよねぇ」
それが、積み重ねてきた経験とか刑事さんから聞いた話を元にしたわけではなく。
ただ、僕の心が、導き出した、答えだった。
そして僕は、青い空を、塞ぐように。
目に、蓋をした。
よく分からない夢をみた。
普段から、まともな夢を見たことはないけど。
何が元になっているのか、分からなくて、不確定で。
それ以前に、自分自身が、その夢を見ている気がしなくて。
いつもどこか、客観的で、まるで、自分の夢を観賞席で見ているような。
俯瞰にいるような。
実感のない、夢。
まあ夢だから、当たり前のことだろうけど。
むしろ実感のある夢というのも、おもしろそうだけど。
それは、どうでもいい。
どうでもいいのに、惑わせる。
どうしてか、自分が思ってもいないような事を、夢で、見る。
あり得ない、自分自身とはかけ離れたことを、夢に、見る。
特に、初対面の人と会ったときは、それが、酷い。
混ざり合って、潰しあって。
意味が分からないモノが、構成される。
映画のように、上映される。
起があって、承もあって、転は変で、結は無い。
いつも、そんな夢で。
今まで見てきた夢は全部、何1つとして同じモノはないのに。
それだけが、変わらない。
結だけが、終わりだけが、存在しない。
カーテンコールが鳴る前に、終わってしまう。
別に、そんなこと、どうでもいいのだけれど。
終わりなど無くても、変わらないのだけれど。
不安定。
自分の意識のどこかが、身勝手に。
思ってさえいないのに、勝手に嘆いている。
どう考えても、それは、僕の意識ではないのに。
自分の心が、勝手に、新たな意識を、作り出す。
そして、いつもそれに、飲み込まれそうになる。
自分自身が、塗り替えられそうになる。
その感情の暴流に、流されそうになる。
でもそれは、当たり前のことで。
必然として、起こりうるべきことだと、分かっている。
流れる水は、そこに、穴があれば、入り込む間があれば、入ってくる。
自分の空虚な中に、空っぽの、中身を埋めるために。
凄まじい勢いで、埋め尽くそうとしてくる。
それで、いつも。
勢いに押されて。
自分は。
受け入れてしまいそうになる。
許容してしまいそうになる。
それが一番単純で、一番利口で、一番楽な方法だから。
その偏った価値観の濁流に呑み込まれ、埋め尽くされてしまうことが。
最も、自分に最適な。
修復、改築、再構築の、方法だから。
空っぽで、歪なこれを。
叩き直し、引き延ばし、造り直す。
最も簡単な、はりぼての作り方だから。
ああ、流されたい。
そして、押し込まれて、矯正されて。
生まれ変わりたい。
造り直されたい。
膨大な感情の波に当てられ、僕の真っ白で、真っ黒な意識が。
染められていく。
影響を受けて。
外で見ている僕自身でさえ。
それでもいいか、なんて、思ってしまう。
どうせ、何も無いんだから。
どうせ、空っぽの器なんだから。
蓋なんて、いつも開きっぱなしで。
そのくせ器は、脆くて。
歪んだ形を、しているだけなんだから。
それでいいじゃないか、なんて、思ってしまう。
自分の価値観だって、あってないようなモノなんだから。
今さら、どうなってもかまわない。
だったら、いいじゃないか。
もう、あれで、いいじゃないか。
満足じゃないけれど、不満も特にないのだから。
受け入れてしまおう、そう、いつも思う。
だけど、どうしてだろう?。
いつもそう思い、でも、この瞬間。
この刹那、思い浮かぶ、光景。
この光景だけは、夢に出てくるもので、結じゃないけど、変わらない。
いつまでたっても、変わらない。
夢の中で、さらに思い浮かぶ、光景。
「 これを、おまえにあげる」
僕に差し出される、何か。
「どうせおまえも、すぐに死ぬ」
その人は、死のうとしていた。心を、終わらせようとしていた。
「だから、終わるその時までは、それを、持っていなさい」
何もなかった僕は、何もなかったが故に、それが、強く分かった。
「そして死ぬ時は恨みなさい。地獄に落とすつもりで、死んでも苦しめと、恨みなさい」
原初となる器を貰った僕は、頷くことも、答えることもせずに、見る。
「恨んで恨んで恨みぬいて、最後の最後に、後悔しなさい。それを受け取ったことを」
急激に、構成をはじめる器。そして、僕はそのデザインを選んだ。
「それは、呪い。お前にかけた、死の呪い。死ぬまで解けない負の呪い」
その人をからもらった僕は、その人の望む姿をとることにした。
「そして最後は、私を見て、死になさい」
そう呟いた、その人の姿を見ながら、僕は、初めての、言葉を、返した。
「 」
頭を流れたその記憶を。
その光景が浮かんだ瞬間。
今まで押し寄せていた全てが、失せていく。
その理由としては、単純で。
さらには痛快なくらい、明確で。
それは。
ただ単に、僕が。
そんなもの、どうでもよくなってしまったからだ。
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