その6 ちゅうしょく(ももちゃんおいしー
お昼の時間です。
今も天気は曇っています。一日中曇っていそうです。
「…何となくナレーション風に思ってみました」
「なに?」
木沢が隣の席から反応する。
「うんん。何でもない」
「?」
不思議な顔する木沢さん。
良かったね、まだ曇ってるよ。
「何でもないよ」
「うん?」
またいつもの癖がでちまったぜ。
そろそろ危ない人と思われても危ないラインかもしれないな。
特に気にしてもないけど。
そんなことを思いながら、僕は鞄の中から弁当箱を取り出す。
効果音がついてたりもしないけど、手作りだ。
今日の作品はみみさん作。
ももちゃんのとは違って内容はカラフルでは無いものの、味の方はこっちのが味わいが深いのである。
見た目にこだわるか中身にこだわるかの差だな、うむ。
ももちゃんの弁当が不味いわけでは決してないのだが。
どっちゃでもいいけど。
僕は弁当箱を持って立ち上がる。
「あ、こうくん」
「?」
僕が立ち上がると、同じように弁当箱を出していた木沢に声をかけられた。
少し伏し目がちで、なぜか僕と目を合わせようとしない。
なので僕は意地で見つめたりしないけど。
眺めながら答えが来るのを待った。
「……………………」
「何?。」
なかなか続きがないので聞いてみた。
「あっ、えっと、あ、あのねっ」
「うん」
「そ、そのね」
「うむ」
「えええええ、えっとね。あれだよ、あれなんだよ」
どれなんだよ。
「聞いてるから落ち着いて言って」
「あ、うんっ。その…」
それから木沢は上目遣いで僕を見る。
うわぁ、これがクラスで有名な天然男子生徒キラーか。
思わず僕も胸がキュン…ってこともないけど。
どうでもいいけど早く言ってくれ。
「こうくんっ、その……たまには、私たちと一緒にお弁当食べないっ!?」
「うん?…、ああ。私たちって木沢と」
僕は僕の前にいる馬のしっ……ポニーテールを見る。
机の上には、うむ。
「唐草模様とはまた渋い」
「え?」
「いやいや。木沢と美島とってことだよね?」
「そういうことだ」
椅子に座ったままの美島が僕の方を向いていた。
ほう、しかも弁当箱はお重か。
これまた渋い。
それっぽすぎて言う気にもなれないけど。
「え、えっと、駄目、かな?」
木沢は、さらに少し首を傾げながら僕を見上げて聞いてくる。
「…うむ。
コンボはなんだ。
この天然男子生徒キラーめ。
そんな手には乗らないぞとか思ってないけど。
「で、どうなんだ?」
美島も同じように聞いてきたが、僕は首を振る。
「ごめん。またいつかご一緒さしてよ」
そして、とりあえず適当に形式的な事を言って断った。
たぶんありえないけど、無下に切り落とすこともないからね。
2人とも見目麗しいしね、どうでもいいけど。
「あ、うん。ごめんね、無理言って」
「うんん、別にいいよ」
「甲斐性のないやつめ」
「別によくないよ」
そして僕は、2人の視線に追われながら教室から出ていく。
目的地は3千里先ってこともなくて、お隣の教室。
学食か購買に行く生徒とかとすれ違いながら、僕は無意識というほどでもないけれど。
いつものように、習慣通りに歩いていく。
そして10秒もかからずに目的地に到着。
後ろの扉をガラガラという音とともに開けた。
「……………………………………………………………」
途端に集まる無数の視線。
奇異の視線がほとんどで、しかも歓迎しているものは1つもない。
どちらかと言うと嫌悪気味のものばかりだ。
別に此処だけじゃないけど、此処は特に酷い。
両手に治まる程度だからなぁ、あの2人は珍しいんだよ。どうでもいいけど。
理由は、それ以外の物がたくさんあるだろうから。
「…ん?」
視線を目的の方向へと向けると、見慣れない光景があった。
1人の明るめの茶髪の男子生徒が、窓ぎわ一番後ろの席の女子生徒に話しかけている。
雰囲気からして会話してるというよりは、男子生徒が一方的に話しかけているだけのようだが。
女子生徒の方は窓の外を眺めて、男子生徒の話を右から左にというよりは、存在を気にしてすらいないといったご様子。
2人とも僕の方を向いていないので、気づいていないみたいだ。
これはそっと近づいて驚かすべきであろうか。
そう思いながら僕は、教室に入ってドアを閉め、おっと。
予想以上に大きな音で閉めてしまったぜい。
その音に気づいたのか、男子生徒と女子生徒と他数名が僕の方を向いた。
そのほとんどはやはり、というか1つをのぞいて他全部は明らかに不歓迎な視線だ。
だから僕はその全ての視線に対してウインクをしたりはせずに、ただ1つのそれ以外に向かって歩いていく。
「やっほ」
そして僕は、片手を挙げてその女生徒に話しかけた。
ついでにいつもこの時間は空いている隣の席に腰掛ける。
「……ちっ」
あからさまに舌打ちされた。
したのは女子生徒じゃなくて、茶髪の少年の方だけど。
僕のことを思いっきり嫌そうな目で見てくる。
そんなに見つめないでくれよ、照れるだろ。
冗談だけど。
それからその男子生徒は、もう1度女子生徒の方を向く。
その表情は僕の時とは正反対に軽めの笑顔だ。
底が見えるぜ。
「じゃあ薙ちゃん、考えといてね」
「………」
薙ちゃんと呼ばれた女子生徒は、それに答えず、初めからずっと同じように外を眺め続けている。
男子生徒は、それで満足したのかどうかは知らないし興味ないけど、その女子生徒から離れていった。
「はい」
で、僕はとりあえず弁当箱の内1つをその女子生徒の机の上に置いた。
「……」
無言でそれを受け取る女子生徒。
特に挨拶もなく弁当を食べ始める僕ら。
心の中だけ、いたーだきます。
「…………………………………………………………………………………………」
「ねえ紅葉。」
何となく僕は紅葉に話しかけた。
「何?。」
僕の方を見ずに反応する紅葉。
話しながらも箸を動かす手は止めない。
「何の話ししてたの?」
「別に。どうでもいいこと」
「ふーん。どんな?」
「知らない。一緒に昼食食べないかとか、今度一緒に遊びに行かないかとか、携帯番号教えてくれないとか」
「へー」
なるほど.
そういう感じのか。
青春青春、だよね。
確かに紅葉、外見はかなりいいからなぁ。ぜひ着物を着て欲しいことよ。
なんて言っても悪代官ですからな。
まぁ、とにかく。
あの視線も舌打ちも、僕が邪魔だってことか。
随分とあからさまだったからなぁ、どうでもいいけど。
どうせ僕の行動は変わらないし。
「クラスメイトのお誘いに乗らなくてよかったの?」
「別に。興味もないし。そんなのわかってるでしょ」
「まあね」
「じゃあ聞くな」
「ごめん」
ふむ。
なんだかご機嫌斜めだな、いつも通りだけどいつもより少し悪い。
もしかするとまだ魚の骨の事怒ってるのかも知れない。
心の中で謝っておこう、ゴメン、今度はカタカナだよ。
「…………………………………………………………………………………」
なんだかいつもより視線率が高いなぁ。
特に教壇の近くに陣取ってる女子グループ。
何度も何度もチラチラ僕らを見てくる。
それが好意的ではないのは明らかだが、もうちょっと食事に集中しなさいと言いたくなる。そんなに見るなよ、照れないけどさ。
目つきが悪くなるぜ。
この教室の空気を悪くしている原因が言うのもあれだけど。
それを分かってて此処にいるんだからどうしようもないのだが。
どうでもいいしね。
さて。
「紅葉」
「何?」
憮然とした表情で反応する紅葉。
それに対して僕は極限の優しさを込めて言う。
「魚の骨、取ってあげようか?」
「………………………………………………………………………」
沈黙3秒。
「まかせとけ」
僕は紅葉の弁当箱を自分方へと持ってくる。
「8秒以内にやりなさい」
わぁー、短くなってる。
がんばろう。
そうして僕らはいつも通り、いつものように昼食を終えるのであった。
そうそう。
結果を言うなら、部分的に刺さったと言っておこう。
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