花と心と浄化

「結局全部衛兵任せにしちゃいましたけど良かったんですか?」

「だったらお前が死体処理とか面倒くさい書類仕事とかやるか?」

「絶対嫌です」

「俺も嫌だ、そしてアイズも勿論…?」

「?いやー?」

「はい正解。後で焼き鳥を買ってあげよう」

「やったー」

「というわけで国税が給料の人たちに仕事を与えてあげるのも我々市民の義務でもあるのだよ」

「ですね!」


とりあえず衛兵に文句があるならバラリイポ家へと言って逃げてきたけど良いんだよね?

良いんだ。うん。

義兄様も頼られて嬉しかろう。

きっと周りがなんとかしてくれる優しい世界。


「さて、さっきのやつらから盗った金と売っぱらった武器とか矢は結構いい金になったしアイズ欲しいもんでもあるか?」

「欲しいものー?」

「おう、なんでもいいぞ。酒はダメだがな。トリシェみたいになるぞ」

「どういう意味だごら」

「うーん?んー」


アイズちゃんが頭を捻って考えている。

そういえばアイズちゃんの方から何か欲しいとか言い出したことって無いんじゃないかな?


「アイズちゃん、本当に何でもいいからね」

「えっとー、うーんじゃあお花欲しいー」

「花?」

「うん!青いお花ー」


アイズは満面の笑みで答えながらこちらに顔を近づけてきた。

慣れてきたとはいえドアップはちょっとまだキツイものがあるのは私が酷い人間だからだろうか。


「そうだな」


相変わらず心の声まで察して突っ込んでくるぞこの隊長。

でも今日いろいろ見て回ったはずなのに欲しいものが花なんだ。

本当この娘は欲が無いなー。

それとも単純に見て回ったものの中に本当に欲しいものが無かったのかな?


「花か。確かこの近くに花屋があったな。寄ってみるか」

「でも珍しいですね。隊長ならもっと自分のためにお金を使っちゃうと思ってました」

「俺を何だと思ってるんだ」

「風俗狂い」

「愛の探究者の間違いだろう?今回の金は文字通り体張ったアイズが稼いだようなもんだからアイズのもんだろう」

「明日はオークが降ってきますね」

「明日から焼肉食べ放題だな。感謝しろ」


オークは美味しく食べられます。

それはそれでありかなと思いながら花屋にたどり着いたんだけど。


「アイズちゃん、どれか好きなのある?」

「んー」


アイズちゃんが店の中をしゃがみ込んで覗き込む。

店番の人らしきものは両手に花を持ってさっきから「私は木私は木」とぶつぶつ言っている。

うん、何も変なところは無いね。


「青い花ありますかー」


とアイズちゃんが尋ねると木になりきれてない店番の人が


「私は木だけど青い花はそこの右に置いてあるので全部だよ」


頑張るなこいつ。


「オリバー、あそこの青い花三つ買ってー」

「あいよー。そこの木の店員さんこれ三つ」


なんとか無事に購入できた。

アイズちゃんは鉢植え込みのやつを欲しがったのでそれにした。


「アイズちゃんってお花好きだったんだ」

「んー?うん」


あれ?反応が鈍い?

そこはあれじゃない?

わぁ!この花チョー綺麗ー。マジウケるー。ってなるところじゃないの。


「そんなに好きじゃない系てきな?」

「どこの言葉だそれは」

「お花は好きだよー。ただこれは僕のじゃないのー」


あれ?

ますます分からんぞ?


「お母さんが好きだったお花なんだー」


あー。

なんかいろいろもうごめんなさい。

自分のことしか考えてないような人間でごめんなさい。

欲しいものを聞かれたら酒って即答してしまう我が身はもういろんな意味で汚れているのを自覚した。

向こうで隊長もいろいろダメージを受けている。

同じ穴のムジナだもんね。

そりゃこんな言葉聞いたら心が痛いよね。

悪魔が聖水ぶっかけられたようなもんだもんね。

なんで僕らはこんな腐った大人になってしまったんだろう。

あまりのピュアさに溶ける溶けてしまう。


「お母さん、青い花が好きだったからいつかまた会いに行くときに植えてあげるんだー」


ゴフッ

もう許してください。

お金を人のために使うという発想すらない私を許してください。

隊長がさっきからぶつぶつと


「胸がね、こうギュッと。ギュッとされるんだ。恋と更年期の狭間見たいな痛みが」


とよく分からない症状になってしまっている。

私も浄化されそうになるのを我慢しながら


「お母さんも喜ぶと思うよ」


となんとか笑って言えた。


「うん!」


屈託のない笑顔が私に精神的ボディブローを決めてくる。


「じゃ、じゃあ三つともお母さん用の花かな?一つはアイズちゃん用?」


これ以上聞いていたらまずい!なんとか話しを逸らして


「ううんー。もう一つはトリシェの分ー」

「へ?」

「そして最後の一つはオリバーの分ー」

「え?」

「二人のことが大好きだからプレゼントー」


ガハッ!

隊長と二人で倒れ込む。


「大丈夫ー?」


心配そうな声を出すアイズちゃん。

やめて!そんな純粋な瞳をこちらに向けないで!

ええ娘や。ほんまええ娘やで。


「トリシェ」

「はい」

「アイズのために何か買うぞ大至急」

「ラジャーです」


早いうちにお返しを考えないと我々の胃がもたない。


「それとなーアイズ。お母さんのお墓参りにも来週辺り行こう。その花をみせに」

「うん!」

「で、ものは相談なんだがアイズ」

「んー?」

「アイズ、もし父親のお墓があったら見に行きたいか?」


父親?

パパ?

ダディ?


「えええええ!!!アイズパパディー!?!?」

「混ざってる混ざってる」

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化け物の育て方 モンスターなカバハウス @monsterkabahouse

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