現実は教育上良くない

「アイズちゃん、本当に大丈夫?」

「うん。大丈夫だよートリシェー」


さっきまでトリシェに矢が刺さっていた場所をもう一度確認する。

無い。

穴どころか傷が綺麗さっぱり無くなっている。


「本当に大丈夫?痛くない?」

「大丈夫だよー」


さっきからアイズちゃんにも確認してるけど大丈夫としか言わないし。

やっぱりあの一瞬で傷跡が全部治ったってことでいいんだろうか?

周りに落ちてる矢の数が半端じゃないんですが。

ちょっとしたバーゲンですよバーゲン。

これ武器屋とかで売ったらいい値段しないかなって待て私!

いいのか?

さんざんアイズちゃんを(大丈夫そうだとはいえ)さんざん傷つけたこの矢の数々をそんな金銭に変えて良いのか私!

でもいい金に、でもお金が!

ああもう!


「その不思議な踊りはなんだ?何を降臨させるつもりだ?」

「違います!自分の中の天使と悪魔が戦っているんです」


隊長が私の苦悶を理解してくれないまま襲ってきた連中を全員縄で縛っている。


「お前の中に天使なんかいるわけないだろう。悪魔の部分以外幻聴だ。ていうかアイズが大丈夫そうならこっち手伝え」

「私自身が天使ってことですね。ていうか隊長こそ大丈夫ですか?」

「何が?今男を縛ってて何にも楽しくないってことと部下が自分を天使とか言い出したって意味じゃ大丈夫じゃないが」

「いや、なんかゴキブリのごとく一匹見つけたら何のそのって感じでワサワサとお仲間が倒れてますけど全部隊長がやったんですよね?」

「なんかその表現嫌だな。ただいっぱいいて時間かかっちまった」


10人、いや20人以上いるかな?

この人やっぱり普通にしてればちゃんと強いんだと倒れている害虫(人)を見て再認識する。


「そういえばなんで隊長がここにいるんです?」

「…お前らが心配で」


露骨に目線を逸らしやがった。


「おい。吐け」

「お前の隊長を信じろ!」

「娼婦か」

「はい。トリシェ、真顔で俺の眼球に指をどんどん近づけるのはやめなさい。ねぇ聞いてる?」

「おい、お前ら!こんなことしてただで済むと思うなよ!」


と忘れていた。

例のむかつく男にして恐らく今回の首謀者である男。


「両腕折られて元気なやつだな」

「うるせぇ!てめぇらがやったんだろうが!」

「隊長、こいつどうします?」

「そうだなぁ。手っ取り早く情報を吐いてくれれば助かるんだが」

「誰が吐くか!」


とても元気なヤツでした。

両腕折れてて縛られててこれだけ吠えることが出来るのはある意味凄いと思う。


「よし、隊長。まだ足が二本残ってますし一人一本でどうです?」

「どっちの骨が折れたとき悲鳴が大きいかで賭けるか?」

「いいですねー。じゃあ私右で」

「さてどの角度で折るのがベストか」


私たちが男の明るい未来について語っていたら男の顔がどんどん青ざめていった。


「その今日一杯いっとく?見たいなノリで人の骨を折ろうとするなー!!」

「チッ、アイズの教育上血がいっぱい出る方法は取りたくねぇんだよ。分かれよ空気読めよ。これだから若いやつは。拷問されるときのマナーもなっちゃいねぇよ」

「まったくですね隊長。親のしつけ方が悪かったんですかね?」

「ねぇよ!拷問されるときのマナーなんかねぇよ!骨を折る行動も十分教育上よくねぇよ!」

「「はい、せーの」」

「喋る!何でも喋るからもうやめてくれ!」

「え?」

「だから喋るって」

「え?」

「聞こえてんだろうが!ちょっと俺の足から手離して話を聞いてください!」


男がギャーギャーわめいているが私には聞こえない。

都合の悪いことは聞こえないふりをするのが冒険者のマナー。


「そうじゃないでしょ『ポチ』」

「ぽ、ポチ?いや俺の名前はポチじゃなくて」

「ポチ。飼い主に歯向かうような真似をするんではありませんポチ。分かったらワンと言ってみなさいワンと」

「アホか。誰がそんなことするか。第一俺の名前は…」

「じゃあまず一本いっとこうか。はい、せーの」

「私はポチですワン」


ふー、つい調子に乗ってやり過ぎちゃった感は否めないがこれで素直に喋るようになるだろう。

あれ?アイズちゃんどこ行った?

あ、隊長の後ろにいる。


「アイズちゃん、どうしたの?やっぱりさっきの弓矢の人たち怖かった?大丈夫。私が懲らしめてる最中だから!」

「トリシェ、こわいー」

「え゛」

「ごめんなさいー、ワンワン」

「アイズちゃん!?アイズちゃんはやんなくていいんだよ!?」


近寄ろうとするとさらに隊長の後ろで丸まろうとした。

隠れきれてないよアイズちゃん。


「そりゃあんなやり方するから。なんだよポチって。引くわー」

「隊長だって途中まで参加してたでしょうが!」

「そういう責任転嫁は良くないぞトリシェ。最後のあれはな。一種のプレイだプレイ。そういうのに興味を持つお年頃なのは分かるがアイズの前では隠せよ。今度そういうのありのお店に連れてってやるから」

「違うよ!隊長こそアイズちゃんの前で少しは自重してください!」

「ではアイズ。判決は?」   

「トリシェ、こわいー」

「私が悪いです!」


正直やりすぎました。


「あの、俺帰っていいですかご主人様ワン」

「いいわけないだろうが。とっとと吐け。そしてご主人様はやめろ」

「チッ、分かったワン。なんでも聞くこと聞きやがれワン」

「ワンちょっと気にいってるだろお前」

「で、何が聞きたいんだワン?」

「依頼主と依頼内容」

「えっとそこの化け物をとりあえず捕まえて指定の場所に行って置いてくるって内容だったな。報酬が良かったんで受けた。あ、ワン」

「で、依頼主は?」

「…貴族だワン」


また貴族か。

まさか義兄じゃないだろうな。

でもこういうことするタイプにも見えなかったし。

別の貴族?


「で、名前は」

「や…おごぇ」

「おいとっとと名前を」


と隊長が言った瞬間。

男が口から血を吐いた。


「おい!大丈夫か!?おい!あ、ダメだこれ」


男は何度か痙攣した後動かなくなった。

あ、これ口封じに始末された系の人だ。

ポチよさらばだ。


「あーあ。トリシェ。ワンってずっと言わせるから」

「私のせい!?」

「トリシェ、こわいー」

「アイズちゃん!?違うよ!これに関しては絶対口封じ的なことされてたんで私は悪くないよ!」

「さて、とりあえずそこに落ちてる矢を全部拾って武器屋にでも売っぱらおう」

「隊長、やっぱり私がいろいろ汚れちゃったのは隊長のせいだと思うんですよ」

「英才教育の賜物だな。アイズー拾うの手伝え」

「はーい」


アイズちゃんをブスブス刺しまくっていた矢を本人に拾わせるのってどうなんだろう?

いや拾うけどね。

私も拾うけどね。

お金は大事です。


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