第9話 勇者はどんな存在か
「子宝だぁ?」
「そうそう」
子宝、子供は宝ってか。
どこのほのぼの家族の発想だよ。
「そういうのより、金と女が欲しい」
「兄さんはそうだろうけどね。でも今回はその子供がまさしく本当の意味での宝ものなのさ」
「人身売買か」
「冒険者やってるのになんでそんなロマンが無い発想が出るのさ兄さん」
「冒険者やってるからロマンが無くなるのさ弟さん」
食ってかなきゃいけない。
女にも貢がなきゃいけない。
ロマンを追ってる暇なんてナイナイ。
「兄さんはおかしいと思わない?実際に魔王を倒したとされる勇者がいたとして女の一人や二人いてもおかしくないでしょう?」
「そんな!不純よ不潔よ!」
「兄さんがもし同じ立場だったら?」
「いろんな女性をおいしく頂きます」
勇者になったらハーレムを作る。
これ男の夢の常識ね。
「他にも貴族との婚姻の話も出てたろうし、勇者がいろんな女性と関係を持ったのは確実なんだ。さすがに絵本にはそんな大人の情事は無かったけど」
「俺はあっても一向にかまわんがな、ビバ英才教育」
「だけどさ、あるべきはずのものが出てこないんだよ」
「無視ですか」
なんというスルー能力。
腕を上げたな。弟よ。
「勇者の子孫がどこにもいないんだ。偽者を名乗るやつらはいたけど、それも『どうやって』偽者だと判断できたのかも分かってない」
「避妊してたんじゃね?もしくは...男好き?」
そりゃ絵本では語れないですわな。
「勇者の血筋を手に入れるチャンスだよ?女性側がそんなこと許すわけがない。どんな手段を使ってでも子供を作ろうとしただろうね」
「こええ、女ってこええ」
「兄さんも気をつけなよ。ちょっと調べたけど兄さんが入れ込んでる娼婦もそうとう」
「あーあ、聞こえない」
都合の悪いことは聞こえなかったふり。
これ、汚い大人の常識ね。
「てなわけで勇者の子孫が今現在存在してないんだ。名乗り出る貴族もいない」
「なるほどな。希少性もあって子宝ってわけか?」
確かに使いようによっては金になる存在だ。
なんせ魔王を倒した伝説の勇者の子供だ。
高級ブランド店のフランチャイズがタダで手に入るみたいなもんか。
「勿論そういう風にも使えるだろうね」
「なんだよ。他にもあんのか?」
「兄さん、今考えるべきは何故勇者の子孫が存在しないかだ。無いものの運営方法を考えても仕方がないだろう?」
「そんなの、たまたまにたまたまが重なってたまたま的なたまたまが起こったんだろう。たまたま」
「そんなにたまたまは重ならない」
「たまたまが言いたかっただけだから気にするな」
「・・・」
空気が重いのは気のせいだと思いたい。
「そして子孫らしきものが無いまま勇者が失踪。同時期に所謂『化け物』の目撃情報が一気に増え始めたんだ」
「何か関係あるのか?」
「いろいろ言われてるのが勇者がいなくなって魔物が活発になり、変異種が表れた。もしくは新たな魔王の誕生説と言われてたけど、今じゃそんな目撃証言も無い。だけど」
だけど
「普通に考えたら勇者の子供が化け物になったんじゃないかと思ったのさ」
「・・・未だ見つからない勇者の子孫に化け物が勇者失踪と共に現れるからか。少々いやかなりぶっ飛んだ発想じゃないか?まず勇者の子供がなぜ化け物なんかになる?実は魔王だったとかか?」
魔王VS魔王。
勝った方が勇者そしてハーレム。
なんという弱肉強食。
「僕と近い発想してるね。さすが兄弟って所なのかな?」
「おいおいまさか本当に魔王って思ってるんじゃ」
「別に勇者が本当に魔王だったかどうかは問題じゃないんだけどね。この場合重要なのは勇者が魔王を倒せるほど協力な力を持っていたこと、この一点」
「そりゃ魔王倒せるほど強くなきゃただの一般人Aで話が終わるな」
魔王に挑んで倒されました。
世界は滅びました。
ちゃんちゃん。
「そんな魔王を倒せるほどの力を持ったやつが『普通の人間』であるわけが無い。そもそも勇者は人間なのかという疑問が残る。何せその気になれば魔王を倒せるということは安易にその魔王と同じことが出来ると同等の意味だと私は思うよ」
魔王を倒せる勇者が魔王になる資格を得る...か
なんとも奇妙な話だな。
弟の語りは続く。
「外見は人間と同じだったけど中身まで同じなんて保障はどこにも無い。切ったら血が流れるかも分からない。そんな魔王と同格の存在が子供を人間との間に作ったらどうなると思う?」
「・・・それが今回の依頼の発端か」
「察しが良くて助かるよ兄さん」
つまりこいつが言いたいのは、
山で見つけたアイズは勇者と人間の間に出来た子供の成長した姿ってことか。
「勇者みたいなふざけた存在がそもそも『人間の形』をしているのがそもそも異常なんだ。そんなふざけた存在の子供はそれこそふざけた存在になるのは当たり前だろう?」
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