第15話 貴族が嫌い

絶賛土下座中です。

なぜかって?

まぁ、貴族の男をKOしたらこうなるよね。

警備の人に囲まれております。

めっちゃ剣抜いてます。

あの後すぐに警備隊の人たちがやってきて倒れた貴族の男。

実行犯らしき私、隊長、そしてアイズちゃん。

アイズちゃんのインパクトもあったんだろうけど、

まぁ、自分達の雇い主が倒れてたらそりゃ剣抜くよね。抜いちゃうよね。

誰だってそうする。私だってそうする。

というわけでとりあえず、頭を地面に叩きつけて速攻で土下座。


「申し訳ございませんでしたー!!」


昔読んだ『偉い人に迷惑をかけた場合の謝り方、これで社畜生活も安泰』にも書いてあったけどとりあえず言い訳せずに謝ることが大切だって。

この1/1000000000000000000秒の世界で繰り出した高速の土下座ならばどんなに怒っててもついつい許しちゃうんじゃ...


チラッと顔を上げてみると


「遺言はそれだけか」


という返事が返ってきました。

うん、だよね。


「隊長!隊長なんとかしてくださいよ隊長!」


やっぱ最後に頼れるのは隊長だけって、いない!

あのおっさん逃げやがったな!


「大人しくしろ!」


警備隊の人達がどんどん近寄ってくる。

やば、本当にまずいかも。

そして警備隊の一人がとうとう私に届きそうな位置まで来た瞬間。


「トリシェをイジメちゃだめー」


アイズちゃんがそいつの剣を二つの指でいとも簡単に折り曲げた。


「あ、アイズちゃんありがとって…え?」


折り曲げた?

剣ってあんなに簡単に曲がるものだっけ?

一瞬全員が硬直した。

剣を曲げられた男が剣とアイズちゃんを交互に見る、そして。


「ひっ!」


思わず漏れてしまったであろう悲鳴を上げる。

恐怖が周りに伝染するとも知らずに。


「ば、化け物!」

「全員でかかれ!でないと食われるぞ!」

「死にたくない!嫌だ!死にたくない!」

「聞いてないぞこんなの!」


違うアイズちゃんはそんな子じゃ。

ただ私を守ろうとして。


「化け物をぶっ殺せ!」


やめて

お願いだから。


「止めなさい!」


私は叫びながら剣を抜き、アイズちゃんの前に出る。

アイズちゃんを守らないと。

だから嫌なんだ。

貴族と関わるのは。

本当、嫌なことばっかり起きる。


「皆様、静粛に」


皆の動きが止まる。

静かになり一つの声がとても綺麗に通る。


「お客様に剣を向けるなど言語道断。てめぇら何してんだごらぁ!」


とてもガラの悪い声が。


「ひっ!シ、シラン隊長!」


さっきまでアイズちゃんに恐怖してた連中が全員背筋をピンと伸ばして震えてる。

この人が警備隊の隊長? にしちゃカタギには見えない人相してるんだが。

一応助かったのかな?


「よ、間に合って良かった良かった」

「あ、隊長」


今度はうちの隊長が戻ってきた。


「あの非常時に逃げました?」

「失敬な、ヤバいことになりそうだったんで警備隊の責任者のやつを呼んできたんだ」

「でも逃げましたよね」

「うん」


正直な彼にはボディブローをプレゼント。

今ならなんとラリアットもついてきちゃう!


「ぐはっ、ちょ、待て俺よりそこにいる気絶したフリの貴族の馬鹿に文句言うべきだろ!」

「えっ?」


さらに延髄蹴りを食らわせようとしたら今すごいこと言わなかったかこいつ。


「あーあ、ネタばらしは良くないな、良くないよ。よっこいしょっと」


そして気絶してたはずの人物が起き上がってきた。


「ま、面白いものも見れたしいっか」


ピクッ、面白いもの?


「では改めまして、ようこそ、トリシェちゃん。グスリフ・パラリイポです。よろしく」


向こうが手を差し出してくる。

そうかい、そうかい。

寝たふりねぇ。

私はその手を掴み、ヤツをぐいっと引っ張った。


「うお!?」


体制をくずしたそいつに、少し屈み、狙いを定めて


「ぐふっ!」


改めて本気で貴族様の顎に頭突きをくらわした。

倒れるソイツを見ながら思う。

だから嫌なんだ貴族って。




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