第16話 ウィー ア ファーミリー

「いやー、中々痺れる一撃だったよ」

「どうだ、うちのトリシェは?やるもんだろ?」

「噂以上だね。本当の意味で全身が痺れる経験は貴重だったよ。脳震盪のうしんとうかな? あはは、いまだに指の感覚が無いよ。これ大丈夫だよね?」

「ダメじゃないか?」

「そうか、いざとなったら切り落として義手でもつけるか」


えっと。その。

あの後イラっとしてやっちゃったぜ!てへ。って感じで貴族様を改めてノックアウトさせたんだけど、警備隊の人に捕まるとおもいきや責任者らしき人に客間に案内された。

貴族はというとその責任者の人に荷物のように肩に担がれて客間のでっかい椅子に乱暴にボトッと落とされた。

仮にも雇い主にどうなんだとは思うが何も言えず、貴族が復活するまで待った。

待ってる間、隊長はというと貴族の眉間にボールペンらしきものでナマステと縦に書き込んでいた。

なぜにナマステ?

アイズちゃんは屋敷内に入れないので外で待機しているっていうか客間が二階にあるので窓から覗き込む形になっている。

大きいお目目にクローズアップで凝視されているのですごく居心地が悪いのは秘密です。

そして復活した貴族と隊長が仲良く談笑しだす。


「ところで足の感覚も無くなって来てるんだけど俺本当に大丈夫?」

「ダメじゃないか?」

「そうか、両手両足が義手、義足か。ちょっとカッコいいかもしれない」

「あ、あのう…」


さすがにマズいことをしたと自覚はしているので今のうちに誤っておかないと。


「先ほどは貴族様に大変なご無礼を、ムカついたのを我慢したんですが手足ではなく、頭が動いでしまい」

「それ謝ってなくね?」


黙れ隊長!

ちょっと貴族に対するムカつきとこいつに対するムカつきを大人の...魅惑的な女の対応で我慢してるんだから邪魔するな!


「魅惑的な女の対応ってのはお前のことじゃないよな?」


人の心を読むんじゃない!そして疑問に思うんじゃない!


「あははは!いやぁ、いいよ謝らなくて。確かに酷いことをした〝気″はするし」


イラッ

やっぱりこいつ嫌いだわー。

貴族だからというより、こいつ個人が大嫌いだわー。


「そうですか、では顔合わせもしたことだし帰ります。行きますよ隊長」

「ん?いやいやまだ肝心な話は何も…」

「もういいでしょう、アイズちゃんも外で待たせてるんだし、早く」


ここから出来るだけ早くアデューして酒飲みたい。いや、浴びたい。

酒を浴びたい。酒に溺れたい。

いい加減ストレスがマッハを超えた高速の世界へようこそしそう。

いかん、イライラしすぎて考え方がおかしくなってきている気がする。


「ちょっと待ちなよ、トリシェ・『デメラタ』ちゃん」


ピタッ

出口に向かってはいたがさすがにそれは聞き逃せなかった。


「なぜ、私の貴族時代の家名を知っているんです?冒険者になってからは捨てた名ですが」


私の声は震えていないだろうか。

怖いのだろうか、怒っているのだろうか。

私にもよくわからない感情を抑えて質問すると中々に冷たい声が出てきた。

まったく可愛くない声、冒険者らしいっちゃらしいけど泣けてくる。


「怖い怖い、そんな人を殺すような声だしちゃダメだよ。それも『家族』に向かってさ」

「何を言って…」


コンコン


客間をノックする音が聞こえた。


「丁度良かった、入ってきなよ」


そう声をかけられ、ドアが開けられる。


「久しぶりね、トリシェ」


忘れたと思ってた。

懐かしいけど、消したい過去の一人がそこに立っていた。


「姉さん...」


私の10人兄弟の一人。

もう会わないと思っていた。

姉の


「レリナ・デメラタ、そうキミのお姉さんだよ」


どうして?

もう会わないと思っていたのに。


「あら嫌だわ、旦那様。デメラタは旧姓でしょ?」


旧姓?


「そうだね、今はレリナ・パラリイポ。俺の奥さんだよ」

「はぁああああああああ!?」


え?確かに驚いたけど、いろいろ聞きたいことが出来たけど。何か肝心なことを見落としてるような


「さて、晩餐の用意もしてあるんだ。勿論アイズちゃんだっけ?の分も用意してるよ。積もる話もお互いあると思うしどうする? 俺の『義妹』さん?」


としてやったり的な気持ち悪い笑顔を浮かべてきた。

義妹。義妹?ぎまい?GIMAI?

てことは


「コイツが私の義兄ィ!?嫌だぁああああ!!」

「貴族に対してかなりの無礼な発言をするぐらい喜んでくれてるようで嬉しいよ、マイシスター」

「ところでお前、ずっと額にナマステって書いてあるからいろいろ台無しだぞ」

「え、ちょっ、待って。すごいドヤ顔してたよね?俺今?レリナ?嘘だよね?ね?」

「ナマステと書かれたお顔も素敵ですわ」

「そうか、ならもう一回最初っからやり直すか。義妹よ、アイアム・ヨア・ブラザー」


私は地面にくずれ落ちた。

アイズちゃんの瞳だけが私を心配そうな(多分)瞳で私を窓から見ていた。


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