第11話 そうだ。一緒に住もう

「ねぇ~トリシェー」

「うん?何かな?アイズちゃん?」

「オリバー大丈夫?」

「大丈夫よ。だって彼は立派な人生を送ったもの。ここで朽ちはてても悔いはないはず」

「悔いありまくりだわ!勝手に殺すな!!」

「チッ、しくじったか」


私の気も知らず隊長があまりにも爽やかに帰ってくるもんだからつい殴っちゃんたんだ。

うん、私悪くない。

惜しむべきは後もう半歩前に踏み込んでいればヤツの命が取れたかもしれないことだ。

冒険者の耐久力を舐めていた。

次は確実にやる。


「トリシェー、顔怖いよー」

「大丈夫大丈夫。今度こそ確実に殺るから」

「殺るって何!?俺仮にも隊長よ!?お前ちゃんと寝てないだろう!正気に戻れ!」


はっ!

いかんいかん。

そうだ私は帰ってちゃんと風呂に入って酒を飲んでぐっすり寝て酒を飲むという使命があったんだ。


「すいません隊長。どうにも寝不足で。最後に残っていた隊長への恨みの感情のみが残っていたようです。以後気をつけてちゃんと隠しながら地味な嫌がらせに留めます」

「おい、隠せてないぞ。ていうか地味な嫌がらせとかやめろよ。俺が精神的に傷ついたら大変じゃないか」


これがあるから殺意が消えない。

今後も隊長の寝ている間に一本ずつ髪の毛を抜いていく作業を続けていくとしよう。


「そう怒るな。ちゃんと仕事をしてきたんだ。ちゃんと報酬も出してくれるそうだしアイズが人里に住むことも可能だそうだ」

「え、可能なんですか?」

「まぁ、やっぱり中心部ってわけにはいかないが、少し外れたところにその貴族が使ってた古屋敷があってな。ちっと増改築すれば夢のマイホームの出来上がりってわけよ」

「やけに気前いいですね。貴族のくせに」


そして話がうますぎる気がする。

そもそもどうしてアイズちゃんの調査を貴族なんかが依頼してきたのかが気になる。


「貴族だからいらないもんに対してはどうでもいいんだろう。よかったなアイズ」

「うん、ありがとう...」


と、アイズが少しうつむいた。

あれ?嬉しくないのかな?


「どうしたの?やっぱりここを離れるの嫌?」

「だって、トリシェ達と一緒じゃないんでしょう?」

「それは…」


さすがに一緒に住むとまでは…

今一緒に住んでる他の冒険者の仲間とも連絡取りにくくなるし、

それに毎日はちょっと辛いかなぁ...

はぁ…こう思う私ってなんて嫌な人間なんだろう。

相手はこんなにもこっちを信頼しているのに。


「大丈夫だ、喜べアイズ」

「うん?」

「トリシェも俺もそして俺らの他の仲間達も一緒に暮らす予定だ!その様子だといいよな!」

「な!?」

「うん!!そっちの方が嬉しいー」

「いやいやいやいや聞いてない聞いてない聞いてないですぞ」

「今言ったからな。ていうかお前も一応女なんだからキョドったときに出るその変な言葉やめて…」

「聞いてないんどぅえすけどー!!!!」

「トリシェは一緒に住むのいやー?」


そんな純粋な瞳をこっちに向けんでください。


「いや、その、嫌とかそういうことじゃなくて」

「よし決まりだ!いやー今回の貴族から追加依頼で俺らで面倒見るように言われてな。なぁにあいつらなら分かってくれるだろうしトリシェも賛成だしアイズも喜んでるしいいことずくめだ!」


バンバンと私の背中を叩く隊長に構う余裕等もない私は気力という気力がどんどん体から抜け出ていくのを感じた。

あー、帰りたい。

あ、今後は帰る場所ですら安心できない。

あー、よく分からないけど帰りたい。

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