第12話 モンパニ、パニパニ

どうも皆さんトリシェです。

いやー、まいった。

ここまで来るの凄い大変でした。

なんせアイズちゃん連れて戻ってきたらもうそれはそれはパニック…にはならず一応今回の貴族が根回ししていたようで。

パニックにはなってない...パニックにはなっていたんだが


「どうだ凄いだろ?」

「ええ凄いですね、このアウェー感半端ないっすね」

「ああ...ここまで来ると新しい何かに目覚めてしまいそうだな」

「これ以上心の強い人という名の変態になるのはやめてください」

「おい待たれよ。これ以上ってどういうことだ?」


そうです。

いや、覚悟してたことよりはマシなんですよ?

石やら槍やらゴブリンやらが飛んでくるぐらいのことは覚悟してたんだからマシなんですよ。うん。

ただちょーっと皆の目が冷たいっちゅーか氷点下っちゅーか。

視線が刺さってるよ。私の乙女のハートに刺さってるよ。


「だからお前が乙女という幻想を捨てたらどうなんだ?」

「人の思考を読まないでください」


そしてアイズちゃんはというと


「わー!凄い凄い!人がいっぱいだよー!」


うん。キミはそのままのキミでいて。

視線を察しろとかいう無茶を覚えないキミでいて。

癒されるわー。

アイズちゃんは無邪気に新しい光景を楽しんでいてくれている。

ぶっちゃけこれがないとこの見えないバリアを突っ切る自信が私には無い。


「お、アイズ。あそこのヤキトリなんか最高に美味いから買っていくか?」

「うん!」


そして私一人だけがダメージを食らっている現実...

あれか?変態になればいいのか?快感?快感なのか?


「おっちゃん、ヤキトリ三つねー」

「…」


普段にこやかにしている気のいいおっさんも仏頂面している。

今にも包丁片手に襲ってきそうな目をしている。


「そんなに嫌なら店閉めればいいのに…ボソッ」

「なんか文句でも?」

「商品売れよ」

「うちにおたくの連れが食べたがるような商品は置いてませんがねー」

「ふーん...あっ、そう。そういうこと言うんだ。ヤキトリ食べたいって言ってるだけなのに。ふーん」


態度悪いなおっさん。

普通の人の対応なんだろうけどちょっとここまで変わるもんかね?


「あのー、ヤキトリって僕食べちゃダメなものだったー?ごめんなさいー」


アイズちゃんもおっさんが売りたがらないのを察したのかこんなことを言い出した。


「大丈夫大丈夫。ちょーっと俺がお話するから。コミュニケーションが足りてないようだからちょっと脅す…お互い納得行く答えに辿りつくよう努力するわ」

「さすが隊長」

「おい、俺は脅されたって化け物なんかには…」

「三件となりの奥さん、綺麗な人だったなー」

「!?」


おっさんが焦りだした。

不倫か。


「あー、今日は喉の調子がいいよ。大声でちゃうよ。近所迷惑なんてもはや関係ないからな!ちなみに俺、人の秘密を他人にばらすときは三割増しにして人生台無しにするのが好きな」

「お客様も人が悪い!三本でよろしいですか?もちろんそちらの方が初回ということで無料でサービスさせて頂きます!」

「三百本」

「え」

「聞こえなかったかなー?三百本って言ったんだけどなー。だめだよー客商売で聞き間違いとか。無料でサービス三百本だよな?」

「いやちょっと三百とか今日の仕込み分全部…」

「あんたの奥さん、今年二人目生まれるんだっけ?」

「サービスさせて頂きます…」

「今回はこれぐらいにしといてやるけど今度こういう舐めた接客しやがったら店なんて出せなくしてやるからな」


おっさんがうなだれている。

す、すげー!

流れるような手際でヤキトリ三百本もぎ取っていった!


「さすが隊長クズの鏡!」

「よせよ、そんな褒めるなよ。アイズもたらふくヤキトリ食えるぞ。そこのおっさんのサービスだとよ」


さっきまで申し訳なさそうだったアイズちゃんの目が分かりやすく輝きだした。


「食べていいのー?」

「おう、とりあえず今すぐ出来ないだろうからある分だけ食い放題だぜ」

「わーい、おじさんありがとうー!」

「チッ、ありがとうもくそもねぇよ」


アイズちゃんが大事なものを取るように自分の手のサイズにあってないヤキトリを一本手に取る。

恐る恐る口に含めたその瞬間、丸い瞳をさらに丸くさせて目を輝かせた。


「美味しい!凄く美味しいよ!」

「な!トリシェの手料理より美味いだろ」

「おい」

「うん!」

「おい」


正直すぎるのも考えものだと私は思う。


「あんだよ...そんな美味そうに食われたら悪く思えないじゃないか」

「何か言いました?」

「何でもねぇよ!とっととどっか行きやがれ!」

「後でちゃんと三百本分届けろよ」

「分かってるよちくしょう!」

「おじさんありがとうね!」


アイズちゃんが満面の笑みでヤキトリ屋のおっさんに話かける。

ぶっちゃけ顔が怖い。


「…おう」

「ツンデレ乙」

「うるせぇ!」


少しは分かってもらえたのだろうか?

だったらいいのになぁ...

皆が皆こういう風には行かないんだろうなぁ。

先が思いやられる。


「うし、じゃあそろそろ俺らの残りのチームメンバーとご対面と行こうか」

「うん!楽しみー」


そうだった。

他の面子はどう思っているんだろう?

そして

あの変態の巣窟にアイズちゃんを放りこんで果たして大丈夫なのかという不安が私を襲っていた。

英才教育された賜物が私だからな。

とりあえずまだ突き刺さる視線をあらゆる所で浴びながら私たちは目的地を目指した。

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