第7話 隊長にもいろいろある

俺の名前はオリバー。

しがない冒険者ってやつだ。

何年か前にガキを一人拾ったがいろいろ鍛えてやったら使い物になったからよしとしよう。

その元ガキのトリシェなんだが今凄いブサイクな顔をしている。


「何を怒ってるんだお前は」

「別にー?怒ってませんよ。私に黙って貴族の依頼を受けたことやこれから貴族と会いに行ってよろしくしてくることとか気にしてませんよ。マジで。マジマジ」


この凄まじくブサイクになってる顔を見せてやりたい。

このまったく可愛げが残っていない部下は元貴族で家族とひと悶着あったらしい。

そのせいか必要以上に貴族を毛嫌いし、貴族絡みの依頼は受けたがらない。

だから毎回依頼主が貴族のときは黙っている。

毎回そうしていたらいい加減気づきそうなもんだがこの愛すべき馬鹿は気づかないのでその変は苦労していない。

だが、今回は事情が事情だけに、アイツに話にいかねばならん。



「悪かったって。どうせ誰が依頼主でも変わらんだろう」

「変わりますよ。減るんですよ!いろいろと」

「胸がか!?」

「ちげーよ。平然とセクハラしてんじゃねーよおっさん。SAN値が減るんですよ」

「なんだその程度か、大丈夫お前にそんな値は存在しない」

「なん...だと」

「だからいい加減この腕を放せ。お前の筋力は人を殺せるレベルなのを忘れてはいけない」


実際問題俺の腕がミシミシ言っている。

人体が出していい音ではないと気づいて欲しい。

何をどう間違えたのかトリシェは俺より、力が強くなっていた。

戦闘経験等はまだ浅いがパワーが馬鹿にならない。

前にオークを素手で倒したときは驚愕した。

お前、その力どっから出てるのよ。


「離したら隊長私置いて行くでしょ」

「そう言っている」

「だったら離しません。一生離さないわ」


一切愛が無いのにヤンデレ発言をしてきた。


「怖いわ!やめろ。必死なのは分かるがやめろ!」


置いていかれて野宿を化け物のアイズと過ごすのが嫌なんだろう。

俺だって嫌だ。

だからこそ置いて行くのだ。

分かれ、部下なら。


「お前じゃ貴族と話せないだろう」

「くっ!貴族め!どこまで私の邪魔をすれば気が済むんだ!」


とやっとしぶしぶ腕を離してくれた。

危なかった。

後1分もしたら確実に俺の腕が折れていた。

腕に残った手のあとがまるで呪いのように刻まれていた。

この先当分の間男が出来なさそうな部下に少しだけ鍛えすぎたことを後悔したのは秘密である。

あいつが結婚したいとか言い出したら誰かを責任を持って生贄に捧げなきゃいけなくなるからだ。

俺は嫌だ。遊んでいたい。


「本当に帰ってきてくださいよ!明日には帰ってきてくださいよ!!」

「分かった。分かったって」

「戻らないと隊長が懇意にしている娼婦の女性に羽振りの良い男を片っ端から紹介しますからね」

「すぐに戻ります」


そんなことをされては俺の愛しのリラちゃんが相手をしてくれなくなるだろうが!

なんて恐ろしいことを言うやつなのだ。


「はぁ、昔は可愛くオリバー、オリバーって追いかけてくれてたのに。どうしてこんな子に育ってしまったのでしょう。お母さん悲しい」

「今でも可愛いでしょうが」

「とりあえず、出来るだけ早く戻るから大人しく待ってな」

「可愛いだろうが。おい、無視すんな!おーい!本当に行っちゃうんですか!?」


可愛い可愛い部下を置いて俺は先に町に戻る。

依頼主の貴族様に会うために。

気が進まなねぇな...


さっそく戻った俺はギルドを通さず貴族様に直接会いに行く。

勿論普段はそんなことはご法度だが今回は事態が事態だ。

文句は言わせん。

そして町の中心にある貴族の家に足を運ばせる。

相変わらず無駄にでっかい屋敷を構えているなー。

と思ったら目の前の門のところで止められた。


「おい、そこの貴様、ここはバラリイポ家のお屋敷だぞ。お前みたいな身分のものが来ていいところではない」

「ああ、とりあえずオリバーが来たと伝えてくれればいい」

「貴様みたいな見るからに冒険者くずれの人間の言葉など聞かぬわ。帰れ!」

「じゃあ、ここの門番のリーダーいるだろう?シランの旦那を呼んできてくれねぇか?」

「ふん、どうしてもというならほれ」


門番らしき男が手を出してきた。


「あん?」

「分かるだろうが、出すもん出したら考えてやらんでもない」

「・・・」


いつからこの屋敷で働くやつはこんなに腐ったのかね?

俺は男の腕をとり


「そうそう、分かればいいって、ぐあ!」


軽く捻りあげる。

最初っからこうすればよかった。


「貴様!」

「ほれ喚け喚け」

「どうなっても知らんぞ。曲者だ!曲者が出たぞ!」


門番がドヤ顔でほえている。

面倒くさい。


「曲者は何処にいるって、オリバー様!?」


集まってきた警備のやつらの中に目的の人物がいた。


「ようシラン。あいつに俺が会いたがってるって伝えて貰えるか?」

「勿論でございます。すぐにご案内致します」

「はっ?ちょっシラン隊長?こいつ曲者ですよ」

「この馬鹿を牢に入れとけ」


他の警備のやつらがさっきの門番を連れて行った。


「最近雇ってるやつの質が落ちたんじゃねぇか?」

「申し訳ございません、厳重な処罰を致しますゆえ」


屋敷の中に案内され、今日の目的の人物がそこで待っていた。


「やぁ、騒がしいと思ったら、久しぶり兄さん」

「おう、元気してたか弟さん」

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