第17話 アイアムヨアシスター

どうも皆さん、トリシェです。

久しぶりに会いたくない、そして会いたくないお姉さんに会ってしまったと思ったら義兄が増えていた、何がなんだか分からないトリシェです。


「どうしよう、レリナ。可愛い我が妹が引いている風に見える。もしかして今俺はすべっているのかな?」

「大丈夫よ、あなた。誰がどう見てもすべっているわ。人として」

「人としてすべるってそもそもどういうことなのか具体的に説明してくれないかな。我が妻よ」

「大丈夫よ、あなた。あなたの存在そのものよ」

「存在が全否定された気がするんだけど」

「大丈夫よ、あなた。その通りよ」

「いや、何も大丈夫じゃないよ。我が妻よ」


頭が痛い。

昔からどこか人を小馬鹿にした性格をしていた姉さんのレリナ。

性格は長年たっても変わらないいい証明だね!泣けてくるね!

だけどそれにプラスアルファの謎の物体(義兄X)が混ざって凄く頭が痛くなる会話をしている。


「これが、私の義兄。これが・・・こんなのが」


ポン。

隊長がそっと私の肩に優しく手を乗せ、まっすぐこちらを見て言った。


「諦めろ」


その目は凄く澄んでいた。


「嫌だー!!!こんな良く分からない生き物と親戚になるの嫌だー!!!」

「親戚ではないぞ、我が妹よ。お兄ちゃんだぞ♪」

「そして私がお姉ちゃんだぞ♪トリシェ」


くっそ。

こいつらくっそ。

お似合いにもほどがある。


「というか姉さんはなんでここに、結婚?いつのまに」

「そりゃ、トリシェが家出してから何年たったと思っているの?長姉の私が他に嫁に行かないわけにはいかないでしょう?」

「そりゃ、そうなんでしょうけど」

「それとも私とこんなところで会うのが嫌だったというのが本音かしら?」

「うぐっ…」


はい、その通りです。


「何よ、その嘘をつこうとして失敗して誤魔化そうとしたブサイクな顔は」

「他すべてが事実だとしてもブサイクは余計では?」


私だってそこまで変な顔しては


「ブサイクだね」

「ブサイクだな」


おいそこのダメンズ。


「トリシェの顔面白ーい」


と外からアイズの声が。

あ、アイズまで。


「まぁ、あなたが私を嫌うのは無理ないわ。実家でのこと。私があなたにしてきたことを思えば当然だと思います。パシリとかパシリとかパシリとか」


昔のあたしどんだけパシらされてたんだよ...

今思いだしても空しくなる。


「でもね。他の兄弟達と違って私はあなたのこと可愛い妹だと思って、いや、今でも思っていることは分かって欲しいの」


そんなハンカチ片手によよよ、とか言われて泣き真似されても


「確かに他の兄弟や親と比べたら、まだマシな方だとは思うけど。それでも…」


それでも私が結婚させられそうになったとき、誰も守ってくれなかった。


「言っとくけど、あなたが家出出来たのは私と私の今の旦那様のおかげよ?」

「はい?」

「12歳の子供が逃げようとして本当に貴族の屋敷から逃げれると思ってるの?」

「え」


そういえばあの日妙に誰も出口にいないなーとは思ってたけど。

てっきり私の類まれなるセンスのおかげだと思っていたのに。


「私が嫁になる代わりにトリシェを助けてくれるって条件であのとき手伝ってもらってたのが今の旦那様ことグスリフよ」


そのグスリフはというとすごいドヤ顔でこちらを見ていた。

くねくねしていてかなりうざい。


「とにかくデメラタ家って給料渋ってたみたいだから警備の兵士とか執事とかは全部金で解決出来たよ!優しい世界」


(元)うちの家のセキュリティはガバガバでした。

そしてそんな汚い手で私助かったのか。


「ぶっちゃけ結婚を条件に手伝いを要求する男ってマジキモいと思ったけど金は持ってたから、ま、いっかなと」

「あれ、ここは俺が凄く頑張ってキミを落とした美談にするって事前の打ち合わせで言ってなかったっけ?」

「アドリブも大事ですわ。旦那様」

「そうか、確かに舞台は生き物とも言うからね」


なんかいろいろ頭の処理が追い付かないんだけど。


「とにかく、トリシェのお姉さんがパシリはしたけどトリシェのことはちゃんと家族として可愛がっていた。28も年上のおっさんとトリシェの結婚を阻止するためにこんなヤバいやつと結婚した。そしてアイズの件でちょうどいい機会だから元気な顔が見たいので連れてきてと俺に依頼してきた。把握出来たか?」


頭から煙が出ているのを見て理解してないことを理解してくれた隊長が説明してくれた。


「あー なるほどって、あれ?依頼?」

「いやー、兄弟仲が良いにこしたことは無いからな。一肌脱がせてもらったぜ」

「今、依頼って言いました?言ったよな?おい、目を逸らすな隊長」

「も、ものの例えってやつだ。頼まれたから引き受けただけだ」

「まさか、人のことを金で売ったわけじゃないですよね」

「失敬な、俺がそんな男に見えるのか!」

「あ、隊長さん。ご苦労様です。これ約束していた報酬です」


と姉さんがお金の入った袋を渡して来ました。

隊長が小さく、やべっと漏らしたので有罪確定です。

私は隊長の顔を右手で掴み持ち上げた。


「おー」


アイズちゃんの歓声が外から聞こえる。


「トリシェ、話せば分かる。ラブアンドピースだ。その手を放してください。ねぇ、俺今浮いてるよね?片手で大の男を頭の部分だけで持ち上げてるのはいろいろマズいと思うんだ。ちょっと頭蓋骨がミシミシ言う音が自分の体内から聞こえてくるのが怖すぎるんだが。待って、これヤバい奴じゃね?トリシェ?聞いてるか?あ、やばい、これやばい。逝く、逝っちゃう~」


動かなくなったあたりで隊長を地面に投げ捨てる。

勝利というものはなんて空しいものなんだろう。

今はとりあえず。


「姉さん」

「なあに、トリシェ」


色々、良い思い出が無い人だけど。

だけど。

もうちょっとだけ『家族』というものを信じてみようと思う。


「あの時、助けてくれてありがとう」

「どういたしまして」

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