憧れのマイホーム

どうも皆さん。

いろいろ疲れましたがトリシェです。

義兄が出来たり、ずっと会ってなかった比較的まとも?な方の姉と和解?再会?したり。

もうここ数日起きたことが衝撃的過ぎて頭がパンクしそうです。

というよりもパンクしています。

ですが、ようやく。

本当にようやく。

貴族の家から解放される時が来ました!。


「そんなすぐに帰ろうとしなくても。まだまだ積もる話もあるのに」

「いえ、そろそろ帰らないと仕事に支障が…」


私が隊長とアイズちゃんと一緒にとっとと帰ろうとすると姉さんに止められた。

ウルウルした目でこちらを見てくる。

だ、騙されないぞ。


「本当にもう行っちゃうの?」


ウルウル

ウルウル


「うっ…」


なんてこちらの良心をぶん殴る顔しやがる。


「定期的に、顔を出すようにしますので…」


姉のウルウルの目に負けた瞬間である。


「月一回は会ってくれる?」

「いや、さすがにそれは…」


ウルウル


「はい…」

「じゃあ、ここにサインして」

「はい…って、ん?」


なんだか流されてサインしたけどあれ?


「なんですかこれ?」

「私に少なくとも月一回、会いに来なければ行けないという契約書よ」

「ホワッツ?」

「ノークーリングオフよ」


いつの間にかウルウルの顔から良い笑顔になっている姉の手にはなんだか一杯契約事項が書いてある書類が一枚。


「これで、正式な依頼よね?隊長さん」


と姉が隊長にその書類を渡した。


「最後の方にトリシェの恋愛事情の報告義務も足しといて」

「了解しました。ウチのトリシェも立派な冒険者なので依頼を断ることは無いでしょう。さて、依頼料の方はのちほど私に…」

「隊長!てめぇ!!」


私を売ったな!

売りやがったな!

しかもしれっと書類改ざんしやがったな!


「何だよトリシェ。この書類にサインしたのはトリシェ自身だろ?確認しない方が悪い」

「う、うぐぅ...」

「しかも依頼内容は実の家族とファミリーでファミファミすればいいだけだろうが」

「ファミファミって何ですか?」

「しかも金まで貰えるんだぞ。何が不満なんだ?」

「不満も何も…」


まだちょっと気まずいのもあるけど、何より問題なのが姉に会うと必然的に


「うん?トリシェちゃんどうしたんだい?そんなに見つめて?義兄に惚れてしまったのかい?薄い本かい?薄い本みたいな展開を希望なのかい?」


この頭が痛くなることを言い出す新しく出来た貴族の義兄と会う羽目になる。


「見つめてないのでこっちを見ないでください、グスリフさん」

「嫌だなー、グスリフさんってそんな他人行儀な言い方。お・に・い・さ・んでいいんだよ」

「姉さん、仕方がなかったのかもしれないけど、どうしてコレの妻なんかになったんです?」

「あら、一応相思相愛よ私たち何より…」

「何より?」

「気が合うのよねー。大事じゃない?そういうところ。ね、あなた?」

「そうだね、レリナ」


あー...

なんだか二人から黒いオーラ的なサムシングが出ているよ。

お似合いだよ。うん。

私の胃が痛むことを除けば。


「トリシェ」


と今度こそ帰ろうとしたときにまた姉さんに止められた。


「何?姉さん改まって」

「今回、トリシェの元気そうな顔を見れて本当に良かったわ」

「姉さん...」

「またいつでもいらっしゃい」


と私を優しく見送ってくれた。

後ろで僕も僕もと言っている義兄を無視さえすれば私にも心配してくれる家族がいるって分かって、なんだろう...

帰りの馬車の中でこみ上げてくるものがあった。


「トリシェ、別に泣いてもいいんだぞ」

「泣いてません!」

「お前のブサイクな泣き顔なんて見飽きてるからな」

「だから泣いてませんってば...」


と珍しく隊長まで私のことを気にかけていた。

ゴシゴシと腕で目を拭いて気を取り直す。


「そういえばアイズちゃんは徒歩なんですよね?」

「ああ、徒歩でも軽くこの場所のスピードについてきてるぞ、歩幅がデカいのもあるかもしれんが」

「凄いですね」


大体のモンスターは馬には追い付けない。

人間よりは身体能力が上なのが多いが走ることに特化した馬に追いつける程ではないため、旅人や商人等は必ず町や村の外を移動するとき馬を使う。

特に大型のモンスターは力は強いが体重が増えるせいか動きも鈍くなるので馬さえあれば逃げ切れる。

と先日まではそう思ってたんだけど。


「デカくても追い付かれちゃう相手もいるんですね」

「本当いろいろ規格外だなアイズは」


今も私たちと並走して汗一つかいてないアイズちゃんを見て思う。

本当にこの娘は何なんだろう?

そうこういろいろ悩んでいるうちに馬車が止まった。


「うし、喜べトリシェ、アイズ。新しい我が家だぞ」

「「おおー」」


アイズちゃんと二人で見上げると、いやまぁ正確には私だけ見上げるとそこにはとっても寂れた大きな建物がありました。

確かにこの大きさならアイズちゃんも楽々入れるなー。良くこんな物件貰えたなー。

っていうか。


「寂れすぎてません?」

「贅沢言うな。一般の冒険者には絶対住むことが出来ないようなところなんだぞ。見ろよあの大きさを」

「窓は全部割れててカーテンは破けてる。あの大きなドアもさっきから閉まらないのか風でギィギィ言ってますし」

「些細な問題だな」

「屋根も所々穴が」

「夏は快適そうだな」

「庭になんか良く分からない骨が転がっているんですが」

「オブジェってやつだな、オシャレじゃないか」

「なんか、窓際に薄っすらと少女のような何かがこっちを見ている気がするんですけど」

「精霊かな?ラッキーだぞトリシェ、精霊は滅多にお目にかかれない幸運の存在だぞ」

「いや、ここ、幽霊屋敷ですよね」


どう見ても事故物件です。


「うわー、すごーい!」


アイズちゃんはなぜか喜んでいる。

アイズちゃん、違うよ?

これ普通の家とめっちゃ違うよ?

そんなキラキラした目で見るもんちゃうよ?


「さすが、アイズは話が分かるな!ちなみにアイズも入れるような特別大きな屋敷を所望したらこうなった。今、俺の仲間がアイズ用の出入り口と部屋を作っている最中だぞ!凄いだろ!」

「うん!楽しみー!」

「あのう、隊長、私急にまた姉に会いたくなったのでもう一回会ってきます」


うん。

今なら馬車もまだ帰ってないだろうし、あの義兄を我慢すれば快適な環境と寝床が確保できるはずだ。

そうだよ、まだなんだかんだ言って姉妹交流出来てないし、いつでも来いと言われたし。急がねば。


「アイズー、トリシェの部屋はどの辺がいいか本人と確認するので連れてきてー」

「はーい」


逃げる前にまたアイズちゃんに捕まりました。

アイズちゃん、妙に私を捕まえるスピードが速くなってきてません?


「おのれ隊長ー!!!」

「なあに、住めば都って言うじゃないか。あ、精霊さんこんにちは。血ダラダラ出てますけど大丈夫ですか?」

「それは精霊じゃないですって!」

「とにかく壊れてるところ修理するんだから手伝え、アイズもな」

「はーい、トリシェ行こうー?」

「うぅ...入りたくない」


さっきから精霊さん(?)が入り口の方からこっちをガン見してきてるし。

だがこんな場所でもアイズの初めて『ちゃんとした』家になるんだこの場所は。

私がちゃんとしないと。

私はアイズちゃんの手を離れ先に屋敷に入ることにした。

そして


「おかえりなさい、アイズちゃん」


とアイズちゃんに屋敷の中から声をかける。

アイズちゃんはちょっと驚いた後に


「ただいまー」


と涙を流しながら笑顔で答えてくれた。





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