化け物だから大丈夫

「アイズちゃん!!!」


アイズちゃんの体に無数の矢が刺さっている。

普通の人間ならあれだけ刺さっていたらまず間違いなく助からない。

私は必死にアイズちゃんのもとまで駆け寄ろうとしたが


「おい、そこの女。そこでおとなしくしていろ」


と一人の男が無造作に私の手を掴んできた。


「何するんですか!?邪魔しないでください!」

「こっちこそ邪魔すんなって言いたい。せっかくの獲物が逃げたらどうすんだお前」

「獲物?」

「見て分かんねぇか?俺らの『商品』を横取りすんなつってんだよ。おとなしくしてりゃて、痛ぇ!腕が!俺の腕が!!!」


どうでもいいヤツの話を聞いてる暇は無い。

ヤツの腕を力づくで折った。


「このクソアマぁ!」


無視してアイズちゃんの元へ駆け寄る。


「アイズちゃん!大丈夫アイズちゃん!今お医者さん呼ぶからね!大丈夫だから」

「トリシェー。突き飛ばしてごめんねー」


とアイズが私の心配してくる。

矢の一つはアイズちゃんの目に刺さっていて痛々しい。

それなのになんで私の心配なんてしてるの。


「てめぇら!いいからとっとと殺せ!」


さっきの男が周りに向かって吠える。

そしたらまた矢がいっぱいアイズちゃんに向かって飛んできた。

今度は私が守らないと!


「アイズちゃん私の後ろに!」


と言った瞬間、アイズちゃんが私を掴んで抱えこんだままうずくまった。

凄い力で掴んだまま離さない。

私は必死に暴れるが振りほどけない。

そんなことしたら矢が全部アイズちゃんに刺さる。


「最初からこうしておけばよかったねー」

「アイズちゃん!駄目!そんなことしたら...」

「トリシェが傷つくのは嫌だー」


どうしてこの娘は


「離してアイズちゃん!」

「嫌だー」

「離しなさい!アイズ!」


一瞬ビクッて体がこわばった気がしたがそれでも私を掴む力は逆に強くなった。


ドス

ドス

ドス

ドス


アイズちゃんの体に矢が刺さる振動が伝わってくる。


「どきなさい!どいて!どいてよ!」


私の顔にアイズちゃんの血がどんどんたれてくる。


「もうやめて…」


例の男の声が聞こえてくる。


「何やってんだ!矢が止まってるぞ!ったく、でもまぁいい加減死んだか?化け物ってのはしぶとくていけねぇ」


こいつだけは殺す。

何が何でも殺す。


「トリシェーそんな顔しないでー」

「アイズちゃん…」


アイズちゃんが血まみれになりながらも喋ってくる。


「僕は『化け物』だから大丈夫だからー」

「大丈夫なわけないでしょう!そんな傷だらけでって…嘘」


アイズちゃんの目に刺さっていた矢が徐々に抜けていく。


「ね、大丈夫ー」


アイズちゃんから流れてた血も止まっている。

そして目に空いてた穴も塞がってきた。


「おいおいおいおい。嘘だろ!?あんだけ矢をぶちこんだのにまだ動けんのかその化け物?聞いてた話と違うぜおい」


アイツ!


「ったくわりにあわねー仕事だぜ。おいお前らもっと矢を射ろ」


男が指示をだすが一向に矢が射られる気配が無い。

アイズちゃんもそれが分かってか私を離してどいてくれた。


「チッ、ピンピンしやがって。お前ら!サボってねーで矢を」

「てめぇが最後の一人だ。喜べ。全部吐くまで生きてられるぞ」


今の声は


「隊長!」

「すまん、周りのやつらを始末してたら手こずった」

「もっと早く来て助けなさい!」

「無茶言うなよ、助けに来たんだから許せ」

「どうせ私たちに買い物を任せて自分は娼婦に会いに来てたまたま現場に居合わせたくせに!」

「ちちち違うし」


図星か。


「ゴチャゴチャうるせーんだよてめぇら!」


とさっきの男が隊長に折れて無いほうの手で殴りかかろうとする。


ボキッ

隊長が腕を掴み思いっきりへし折った。


「いてぇええええ!!!」

「後のやつらはもう使い物にならんからお前が残っててちょうど良かった」

「ヒッ」

「なぁお前。うちの家族に手を出しといて無事にすむとは思ってないよな」


た、隊長の笑顔が怖い。


「とりあえずお前は後で拷問するとしてアイズ大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよー。オリバーありがとうー」


アイズちゃんの方を見ると血まみれではあるけど刺さっていた矢は全部抜けてる。

そして傷穴も塞がっている。

それを確認した隊長がボソッと呟く声が聞こえた。


「勇者の宝か...こりゃいよいよ与太話じゃなくなってきたな」






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