化け物の育て方

モンスターなカバハウス

第1話 出会い

「隊長、もう帰りましょうよ~」

「アホか、今から戻っても野宿は変わらんぞ」

「そんなああああ」


今私は仕事の一環として山に調査に来ている。

山ですよ。山。

誰が好き好んで登るんですかこんな所。

そりゃ冒険者は頼まれればなんでもやらなきゃあかんのが辛いとこなんです。

なんで冒険者なんかになってんだっけ私?


ーーーーーーーーーーー


私、トリシェ・デメラタは元々貴族である。

これでもこの国、グンリモデ王国に古くからある由緒正しき家の生まれなのだ。

そう生まれだけは。

何を思ってか私の両親は子供をたくさん生んだ。

合計で10人兄弟だ。頑張り過ぎだろ。

そして私が兄弟の中で一番年下だ。そして女だ。

そうなると当然上の兄、姉達から


「トリシェ、これ変わりにやっといて」

「トリシェ、掃除」

「トリシェ、お座り」


最後のは特に間違っている気がするけど要するに私の居場所はどこにも無かった。

両親も両親で


「他の兄弟達と遊んでらっしゃい」

「使用人に言え」


と言って完璧育児放棄していた。

私が無事に育ったのは使用人達がなんとか事務的に育ててくれたからだろう。

何よりショックだったのが子共ながらに両親に抱きつこうとしたら


「あー、もうそういうのは他の子達で疲れたから私には寄らないで、パパにやってもらいなさい」

「お前は他の子と違って顔が良くないだろ。正直可愛いがれる気がしない」


確かに兄弟は全員美形。両親も美形。

私だけ平凡。

でもさすがに子供ながら、いや子供だったからこそ凄い凹んだ。

学業も兄弟達の方が優秀。

ただ一つだけ兄弟達に勝てる分野があった。

それは体力。

嬉しくない。

パシリにされたり、無茶な要求をされたりしていた私は強制労働生活の中で貴族ではありえないぐらいの体力がついていった。

唯でさえ顔が負けているのにこういうところだけ勝ってしまった私。

年齢を重ねるごとに周囲の目が冷たくなっていく。

そして私が12歳になったとき婚姻の話を両親から切り出された。


「お前に良い縁談の話が来ている。相手は今年四十になるヤツイヤン家の現当主だ。こちらで荷物等も全部纏めておいた。明日迎えが来る。元気でな」

「こんな良い話はあなたじゃ一生待っても無理でしょうからこちらで決めておきました。くれぐれも我が家の恥にならないように振舞いなさい」


どういうことでしょうか?

あまりにもあまりな対応に頭の中が真っ白になった。

本来、婚約は15歳からだったはずでは?

ていうか四十のおっさんが相手って。

おかしいな?いつ法律が変わったのだろう?

これはさすがにまずいとシックスセンス的なサムシングが告げてきたのだ。

その日の夜、私は家を逃げ出した。

ひゃっほーい。私は自由だ!


~3時間後~


腹が減りました。

ここは何処でございましょう。

乗りと勢いだけではどうにもならなくなっていた。

若さだけではどうにもカバーできない現実が待っていた。

あーあ、ここで死にのか。

もしくは連れ戻されて四十のおっさんにピーしてピーてきなピーやねん的なことをされるのか。


「おい、そこの小僧、んなとこで寝てると風邪引くぞ」

「うぐぅえ!?」


びっくりして変な声が出た。

だ、誰?


「なんだ、その声は。別にとって食いやしねーよ。どうしたこんなとこで」

「あ、その...」


ぐきゅるるるる~


「・・・」

「・・・」


恥ずかしい。

これは恥ずかしい。

何も言えずに立ち尽くしてると


「腹減ってんなら食わしてやるけど、一緒に来るか?」

「何このおじさん、超天使」

「誰が天使だ。つーか誰がおじさんだごら。まだ18だぞ」

「え、見えない」


これが私の現在の隊長、オリバーとの出会いだった。

最初は私も家に帰るように言われたが事情を話したら黙ってそばに置いてくれた。

働かざるもの食うべからずとのことだったので、体力だけはあった私はオリバーの仕事を手伝うことに決めた。

職業冒険者

冒険者の仕事はなんでも屋、魔物退治から貴族の護衛(と言う名の肉壁)と様々。

依頼をギルドから受け、金を稼ぐために集まったならずもの達。

個人で仕事する人もいればパーティーで何名かでこなす奴もいる。

オリバーはパーティーのリーダーで隊長と呼ばれていた。

私が最初に来たときは


「隊長が子供を攫ってきた!」

「とうとうやらかしたか」

「このロリコンめ!」

「なんて業の深い...だがそれがいい!」


と歓迎(?)されたのはいい思い出。

ちなみにオリバーは


「え?お前女だったのか?」


と違うところに驚いていた。

とにかく濃いメンバーではあったがすぐに仲良くなり、私も毒されていった。

おかげで今は男も泣いて逃げ出すほどのガサツっぷり。

冒険者としての名前もそこそこ売れてきた。

女を捨てた変わりに得たものだ。

うん、私は泣いていい。

そして冒頭に戻るわけだが


「なんで、山の仕事なんか受けたんですか隊長!もっと楽に寝てるだけでお金が入る仕事やりましょうよ」

「んな仕事があったら俺個人で受けてお前に別の仕事回してる」

「酷いわー。部下をなんだと思ってんだこいつ」

「労働力」

「言い切った!今言い切りやがった!」

「いいだろうが、他のメンツにはもっと大変な仕事回してんだから、今回のは割りと簡単なほうだぞ」

「なんでしたっけ?森の中に化け物が存在する可能性あり、山の中をくまなく調査し真意のほどを解明せよ?でしたっけ?」

「そう、つまり、山の中歩いてるだけで金が入るんだ。楽な仕事だろ」

「あー、か弱いあたしには無理だわー、マジ無理無理だわー」

「その太ましい腕と足を見てから言え」

「ひどっ!これ全部筋肉ですもん!」

「シッ」


隊長が静かにするように合図してきてそれに従う。


何かがいる。


腰の剣に手をかけ、いつでも抜けるように準備をしておく。

木々の中から何かが出てくる。

緊張して待っていたら兎が出てきた。


なんだ兎かと思った次の瞬間

木々の中から別の何かの大きい手が出てきて兎を鷲掴みにした。

なんだこれは!


「とれた、とれたよ。お母さん喜んでくれるかな」


手が出てきた方向から声がする。

その先から立ち上がったのだろうか手の持ち主が姿を表した。

でかい。

そしてとにかく異様だった。

なんだあれは?

人間の形を保ってはいるもののおよそ人間ではありえない。

パニックになりつつ隊長に小声で話しかける


「なんですかあれ!本当になんですかあれ!」

「シッ!気づかれたらまずい。黙っとけ」


でも無理だって。

あんな化け物見たこと無い。

怖い魔物を見たこともある。大きいやつを皆で協力して倒したこともある。

でもなまじ人間の形『だけ』保っている形状がとても不気味で、手と足と顔がでかいのに胴体、腕、太ももなどがえらく細いのだ。

強くなったつもりでいたけど。

どうしても歯がガチガチと鳴るのを止められなかった。


「誰かそこにいるのー?」

「まずい!?気づかれたか!?」


音でばれたのかその化け物がこちらを向く。


「隊長、逃げましょう!」

「お前だけでも逃げろ!」

「無理ですよ!」


だって足が動かない...

化け物がだんだん近づいてきて


「こんにちは」


と化け物が挨拶してきた。


「うぐぅえ!?」


普通に挨拶してきたそれに、私は変な声を出してしまった。

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