「鮮やか」を含む小説

「なあ、一ヶ月だけ、アルバイト、しない？」 後ろの席の少年は、ある日、突然、彼にそう声をかけた。 つまらない毎日。 変わらない毎日。 それが、少しずつ、変わっていく。 色味…

　青い提灯を片手に、異界を彷徨う兄弟がいた。 　メイとエン。二人が元の世からはぐれたのは、祭りの晩。生者と死人が混ざり合う宵に、人さらいに捕まった。 「金魚屋はあった？」 「…

「――他に求めることなど何もない、そう思っていた」 　席についた男は、この言葉を最後に黙り込んでしまった。 　血赤の瞳を諦念で染め、彼は背筋を伸ばして座っている。 　こちらの…

鮮やかな手口で美術品ばかりを狙う怪盗「カラス」―― 巷を騒がせる怪盗はいったいどんな日々を送っているのか。 × × × × ×怪盗カラス× × × × × 【ワタリ（男）】 …

音楽室で、友だちが腕を切っていた。 殺したい。息苦しい現実の中でフルートを吹きながら、二人は共に願った。 現に秘せられた、幻覚のような傷と音色の青春。中学三年生の夏。 ＊一般的に…

学校の古典教科書は、こま切れのエピソードしか教えてくれなかった。 だから、おもしろいと思えなかった。 清少納言、中宮定子、紫式部、藤原道長、一条天皇・・・ 今、ここに平安時代の人…

見たことのない花が遠方の父から贈られてきた。 その花は鮮やかではなかった。いっそ儚ささえ覚えるほど、薄く、淡く、可憐であった。 “サクラ”と呼ばれるその花が咲いているところに行こ…

「何があったのか？　わたしは　そっと静かに見守った。 　見かけはダンディ　いつも暗いグレーを纏っている。 　でも　ちらりと見える靴下は　鮮やかなオレンジ色」 　　　　　　　　　　…

母親に全てを無視されて、トイレの金具に、リボンを巻くように裸で繋がれていたスティーブン。違う部屋から時おり聞こえてくる赤ん坊の笑い声と、ママの優しい声を想像の中で自分のものにして…

　鮮やかなる者《ヴィヴィディア》の国、セルクリコが内乱で滅びた。 　人質として他国にいたパニー姫は、自分だけ生き延びたことを気に病んで笑顔を失う。 　そこへ牙を持つ凶相の男・アシ…

四月三十日の夜半、世界は突如出現した美しいもので囲まれた。宇宙の光を放つ水晶の塔、原初の深い青さを取り戻した海。建造物に巻き付き繁る深緑の木々、鮮やかな赤い溶岩を流す火山。 誰も…

　叔母に会うのは十五年ぶりだった。 　さっき数えてみたのだ。最後に会ったのはわたしが高校生のとき。父と一緒に、祖母の葬式のために帰省したとき。 　駅に迎えに行ったときは、目をみは…

ひらりひらり、蝶が舞う。 漆黒の中に、鮮やかな色味を忍ばせて。 高く自由に舞う蝶を、私は籠の中からただ見つめた。 時は大正。 新しい時代と古い時代が混沌と煌びやかに咲き乱れ…

世界は汚く美しい。 僕が不要な世界を、僕は今日も傍観する。 絵を描くのが好きな彼女。 夢を抱く彼。 世界に置いてかれた教師。 十人十色の世界は、今日も僕には眩しすぎるくらいに鮮や…

生まれてからずっと白黒の世界で生きてきた主人公。 いつか色が追加されることを信じていた。 色が１色増えるだけで、世界はこんなにも鮮やかになるの！？ ↓前回の投稿↓ 『いいね…

人間は愚か

　脱サラして農業をはじめたばかりの頃、ベテラン農家にトマトづくりのコツを聞きに行った。この人の作るトマトは、色鮮やかで実が詰まっている。味も極上だ。自分もそんなトマトが作れたらと…

　暇を持て余していたハンチのもとに、ニットが何かを持ってやってきた。 それはいわゆる絵本だったが、二人には未知の代物だった。絵本なのでページをめくれば、色味鮮やかなイラストが描…

ふっとすり抜けては微笑む 並べた言詞のバベルを 鮮やかに薙ぎ倒して 愛してみせて きみを表すためには言葉が足りない 歓迎しよう 抱きしめれば世界が変わる 見たこともない詩文があふ…