muonacreous -香鳴裕人詩集Ⅰ&Ⅱ-

香鳴裕人

Ⅰ muonation

言葉が足りない



言葉が足りない

息づく色をなす旅路

潤色じゅんしょくのため息と切なさが踊れば

僕はまるで無力

きみがいかに美しいかを

表す言葉を知らない

手持ちのジャンク品ではあまりにも

あまりにも

触れられるだけの弱さを

歓迎すれど


言葉が足りない

有限の季節が幾億も重なった

岬で遺灰を撒いてみても

碧海へきかいのクリムソンレーキにさえ押し戻されて

飛び下りることすらかなわない

結局はきみに回帰するようになっている

そのことの愚かしさは

どれだけ僕が言葉を尽くしても

伝わるものではないだろう

パッチワークの果てに

ランダムな千鳥格子ちどりごうしの先に

たまに奇跡を見ることはあれど

まるで見当違いの一文では

きみの鼓動はとらえられない

たまに奇跡を見ることはあれど


無意識と自我で転がって

哲学と倫理が飛び跳ねて

視力検査の結果が気になって

50m走のタイムに一喜一憂する

きみと有意に飛び乗って

ふたりで摂理を蹴り飛ばし

呼吸困難を歓迎する愛しさで

1500m走を完走する自己愛で

きみをとらえようとしても

網目はどうにも粗すぎて

ふっとすり抜けては微笑む

どうにかして網目を埋める言葉を

見つけたくたって


僕が探す言葉の群れが

で巡るよ


夢に優雅されど狭隘きょうあいな欺瞞の冷

たさで黄泉路よみじをたぐり寄せて

担う肩に郷社ごうしゃの哀切を見て愛せ

ど再生の理に消える海豹あざらしは死

義捐ぎえんすら磊落らいらくの四季に携えた指

で弾く損壊の胸腺からイ短調

和紙で透かし見る来寇らいこうを過去で

縛り未来で湯がき現在で殺す


八千代やちよの慰みも与り知らぬこと


透明な仕草/散る白詰草しろつめくさ

来迎らいごうの宿意/朦朧もうろう諾意だくい

牢記ろうきの品格/ことごとくが扞格かんかく

どうにかして網目を埋める言葉を

見つけたくたって

ふっとすり抜けては微笑む

並べた言詞げんしのバベルを

鮮やかに薙ぎ倒して

愛してみせて


言葉が足りない

きみを表すためには

歓迎しよう

抱きしめれば世界が変わる

見たこともない詩文があふれる


言葉が足りない


陽光がさえずる中で聞くピアノではなく

ライカンスロープが斜面を下る

秘め事の音波の中で

降りしきるひょうを彩りにして

ふっとすり抜けては微笑む

並べた言詞のバベルを

鮮やかに薙ぎ倒して

愛なんて要らないとたおやかに吼えてから

僕の慕情ごと

くびり殺して

抱きしめて

言葉が足りない



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