僕とみみじいとの暑い夏

サラン

第1話 なんてことのない17歳の夏休み

 二階自室の勉強机。ここに座って顔を上げると、窓に面してるから外の景色が良く見える。

 ここ数年猛暑が続いてるっていうのに僕の部屋のエアコンは壊れている。修理を頼んでいるらしいが、手配がつかないらしい、と母さんが言う。この話になると親父は、「俺達の子供の頃は冷房なんて子供部屋になんかなかった」と貧乏自慢をする。僕は思うんだけど、親父の子供の頃と今の夏じゃレベルが違うんじゃないだろうか。

 勇気を出して、今日こそはそう言い返してみようかと思うけど、僕は言葉を引っ込める。親父は子供の口答えを許さない。だからこんな時は黙って苦笑いを浮かべるに限る。親父の子供歴17年で学習した手法・・・。


 そんな暑い部屋の中ではさっきから扇風機がフル回転で僕の背後から生ぬるい風を送り続けている。

 もちろん、窓は全開だ。網戸越しに見えるのはウチの前にある小さな公園。

 この暑さで夏休みにも関わらず人がいない。

蝉がミンミン鳴る中で、幾つかある遊具はヒマそうだ。誰も歩いていない。世界は蝉と僕しか存在してないんじゃないかと錯覚する。


 暑さのせいか、僕の集中力のなさか、いやそれより、多分っていうか、きっと、やる気の無さが勝って、問題がさっきから一向に進まない。

小学校の時にはそこそこ成績の良かった僕は親父の自慢だった,らしい。(余り褒められた事ないから自覚ないけど。)そこで大学までエスカレーターで進める私立への中学受験を経験した。お蔭さまで第一志望に合格したけど、僕の栄光はそこがピークだった。

 みんなが羨む学校に入ったはいいけど、優秀な人間が集まる中学生活はちっとも楽しくなかった。勉強しなくても点が取れた小学生時代と比べ、頑張って勉強してみても僕の成績は散々だった。ビリから数える方が早かった。なんとか高校に進級できたけど、このままだと多分大学には進めたとしても、希望の学部にはいけそうになかった。って言っても僕にはやりたいこともなく、将来の夢なんて持ってなかったから、どうでもいい話だった。

 親父独りが僕の進路を心配していた。高校に入学しても赤点ばかりを取り、追試を受けなければならず、その通知が届くと僕はどやされていた。そんな生活はもうゴメンだったけど仕方ない。僕にはやる気も野心もないのだから。

余りの成績の伸び悩みに親父が怒って、塾に行くことになったけど、結局は本人のやる気なんだよな、と僕は思う。もちろん、口に出したら恐ろしい事になるので、黙って塾には行く事にした。こんな時、早く大人になりたいと思う。何一つ自由にならないのは窮屈極まりない。


 結局、問題集の1ページもクリアできないままバイドの時間になってしまった。台所で夕食の支度をする母さんに声をかけてから家を出た。母さんはこちらを見ようともせず、「いってらっしゃい」と言った。玄関で靴を履いてたら顔だけ出して、「帰りに電話して。なんかあったら買ってきて欲しいものあるかもしれないから。」と言ってすぐに消えた。


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