第20話 花火とうまい棒とハンバーグ
再び、ばあちゃんのご機嫌うかがいにみみじぃと出かけた。
僕の上着のシャツの胸ポケットに入ったみみじぃは鼻歌を歌っている。
「ご機嫌だねぇ、ずいぶんと。」
「のりさんは元気かのぅ。」
あ、のりさんとはうちのばあちゃんの名前。対して、ばあちゃんはみみじぃの事を
「みみじぃさん」と呼んでいる。すっかり二人は仲良しだ。まぁ、引き合わせた僕としては二人が楽しそうにしているのをみると素直にとっても嬉しい。誰にも言えない3人の秘密だけどね。
ばあちゃんは僕が来ることを覚えているようになって、毎回じゃないけど自分の部屋を開けて顔を出して待っていたりするようになった。ばあちゃんのボケ防止にもみみじぃが役立っているかもしれない・・・。
途中バイト先でもあるコンビニでアイスとジュース(マミー含むだけど)とお菓子を買った。バイト先では山田さんと僕の知らない大学生っぽい背が高く痩せた男性がレジに立っていた。支払いをしていたら山田さんが、
「吉田君、彼、最近入った柏木君ていうんだ。初めてでしょ、会うの。」
と、言って紹介された。僕の事は
「柏木君、こちらは吉田君っていって、去年からバイトしてくれてる高校生なんだ。夜入る事が多いから時々会うかもしれないんでよろしくね。」
と、紹介した。
お互い、彼も多分人見知りなのだろうか、笑顔もないまま軽く会釈し「よろしくお願いします。」と薄ーい挨拶を交わした。柏木さんは近くで良く見るとかなりのハンサムで切れ長の目が涼気で、黒くウェーブした髪は長めで、ジャンルをあげるならインディーズだけど一部の若者に人気のあるミュージシャン?ってな感じだった。雰囲気のあるこれまた同性の僕からみてもかなーりモテそうな男だった。
挨拶して、軽く敗北感を感じ、店を後にした。僕でも姿かたちを誰かと比べて優劣を考えることはある・・・。
ばあちゃんはその日寝ていた。テレビは点けっぱなし。いつもと同じで大音量だった。僕はリモコンを探し、音量を急いで下げた。
みみじぃは僕のポケットからいち早く飛び出し、ベットをトコトコと歩きながらばあちゃんに近づいた。
顔のそばに近づいて、真剣なまなざしだった。そして振り向き僕に
「大丈夫じゃ。生きてる。」
と、言った。笑ってしまった。
「そんな簡単に死なないよ、うちのばあちゃんは。」
僕はそう言ってカーペットの敷かれた床に腰を下ろした。
「ま、そうじゃな。」
みみじぃも笑ってそう言って、ばあちゃんの顔の横から僕の横に移動し腰を下ろした。
僕達は買ってきた飲み物をそれぞれ飲んだ。
僕はコーラをみみじぃはマミーを。
ばあちゃん家では、みみじぃ専用のコップがある。プラスチックできてるんだけど、ままごとの道具なのか子供の遊び道具だったものらしい。黄色い、手のついたマグカップでちょっと彼には大きいけどそれにマミーを入れて飲むのがみみじぃの最近のお気に入りだ。
勝手にテレビのチャンネルを変えながら、買ってきたお菓子やジュースを飲んでくつろいでたらばあちゃんがしばらくして起きた。
「あ、あらあら、知ちゃん来てたの?あら、みみじぃさんまでいらっしゃい。ごめんなさいね、失礼しちゃったわ。」
ばあちゃんは寝ていたことを無礼だと感じたのか僕達に詫びた。
「いやいや、そんなことありません。お気になさらず。」
みみじぃが言い、僕も
「そうだよ、ばあちゃん、僕達はここで勝手に食べて飲んでたよ。ね、みみじぃ。」
と、言った。みみじぃも「そうそう」と首を大袈裟に縦に振りばあちゃんにアピールする。
みみじぃは花火大会の話をばあちゃんにしていた。今日ばあちゃんに会ったら最初に話そうと思っていたらしく、いかに壮大で素晴らしかったかを力説している。もし、みみじぃのこの話をあの日花火をあげてた花火師の人達が聞いたら、どんなに励みになるだろうって位に。ところが、ばあちゃんは花火大会があったことを知らなかったらしい。音すると思うけど、この家も・・・。
ばあちゃんが花火を見た事ないみたいに、事細かに自分が見た花火について説明するみみじぃは必死だった。あの日は見てないけど、ばあちゃん死ぬほど見てるはず。だけど、ばあちゃんも「あら、そうですか。見たかったわー。」とみみじぃの話を楽しそうに聞いている。
いつまで花火の話をしてんだろうか・・・。テレビでは、ばあちゃんが好きなグルメ情報番組をやっていた。
「あ、ばあちゃん、美味しそうなのが出てるよ。」
いつまでも続きそうなみみじぃの花火報告会をそろそろ切り上げさせようと僕は言った。
僕の声に二人はテレビを見た。
「あら、本当。みみじぃさんは何がお好きなの?」
ばあちゃんが聞いた。
花火の話がもっと話したかったのかのかもしれないけど、みみじぃもばあちゃんに聞かれて、「えっ。」と考えている。
「うまい棒のコーンポタージュ味が好きですね。」
って、それスナック菓子だけど!僕は心で突っ込む。
ばあちゃんは「キョトン」だった。知ってるはずはない。
「知らないでしょ、ばあちゃん。」
「初めて聞いたわ。うまい、なんですか?」
「棒です。」
みみじぃはうやうやしく答える。そんな感じの食べ物じゃないよ!
「美味しいんですか?」
「わしが思うにこの世界で3本の指に入ると思われます。」
いやいやいや・・・。みみじぃ、世界を知らなさすぎ。
「食べてみたいわ。そんなにみみじぃさんがおっしゃるなら。」
「お前、のりさんにアレをご馳走した事ないのかっ。わしにはいいからその分をのりさんにお届けしなさい。」
「え?あぁ。そうだね。」
みみじぃのなかでうまい棒って一体、どんな存在なんだろうか・・・。
テレビではばあちゃんの好きなハンバーグが画面一杯にジュウジュウ湯気を立てながら映っていた。
「美味そうだね、ハンバーグ。」
「あら、本当。このお店どこにあるのかしら。」
ばあちゃんはいつものようにチラシの裏にメモるべくサッと紙をテーブルに置いた。その動きはかなりの素早さだ。
店名と住所が紹介されるとセッセと書き写している。店名だけわかれば携帯で調べられるけど、ばあちゃんの楽しみに水を差すような気がしていつも言えない。
「コレはうまいのか?」
みみじぃがテレビに映ってたハンバーグを指さし言った。
「うん、嫌いな人に会ったことない位にみんな好きだと思う。」
「そうなのか・・・。」
「みみじぃさん、召し上がった事ないですか?」
「ええ、ないです。」
「あら、それはいけないわ。私の勘だけどみみじぃさんは絶対お好みの味だと思うのよ。そうだ、知ちゃん、みみじぃさんにぜひ食べていただきましょうよ。ハンバーグ。」
今度はばあちゃんが僕に言う。
「そうだね。」
でも、一体どうやって?
「今度3人で行きましょう。どこかへ食べに。」
ばあちゃんが言った。
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