第19話 僕とみみじぃの日々
僕はみみじぃの住居スペースを少しずつ整えていった。ホームセンターに行った時、茶色いプラスチックでできた虫かごがあった。長方体だけど屋根がついていたのを見かけて「あ、家っぽい。」と思ってそれを買って、少しずつ改造していった。
床に当たる部分に麻でできた布を敷き、ハリパネと綿とガーゼでベットを作った。ハリパネで棚も作り、ばあちゃんに作ってもらった衣装も置けるように。
他には小さなテーブルも作った。(まぁ、そこで食べることはあんまりないけど。)
殺風景だけど一応プライベートスペース、でも側面は全部格子だから丸見えだけどね。そのことをみみじぃは全く気にする気配はない。それよりも自分専用の空間(?)が出来たことで飛び上がって喜んだ。
「小僧、やるのう!」
みみじぃは自分の家の周りをたったったっと走り、グルグルグルグル回っていた。
「おい、どっから入る?」
「あ・・・。」
そうだよ、虫かごだからさ、ドアなんかないんだよ。虫は屋根取ってそっから入れるんだから・・・。まさか、真実を告げる訳にはいかない・・・。
「ごめん、忘れてた。ここを開けるよ。」
僕は格子状の一部分をカッターで切り、出入り口を作った。扉はないけど・・・。
「お、これで出入りが楽じゃな。ご苦労さん。」
みみじぃは納得した。早速家に入り、ベットに寝転んでいる。
「おー、これはいいわい。楽ちんじゃなー。」
すぐに飛び起きて、衣装棚に手をやったり、テーブルに肘をついてみたり、自分の新居を堪能しているようだった。
ま、作って良かったよ。みみじぃはわかりやすい。そこが長所。
そして、みみじぃの嗜好が少しずつわかってきた。と、いうか色々試して段々絞られてきたって感じかな。まず、僕が最初に出した「うまい棒」。これは今でも大好きなスナック。特にコーンポタージュ味が一番らしい。最初に僕の前に現れた時、差し出したのがこの味なんだけど、そのインパクトが大きかったのかもしれない・・・。その次が明太子味で、たまにテリヤキ味も食べたくなるらしい。
スナック菓子がとにかく好きで、うまい棒以外にはポテトチップのコンソメ味。じゃがりこも大好きだ!じゃがりこは多少固めなので、僕がうまい棒と同じく割って用意する。ブリンはダントツ好きな食べ物(ほぼ飲み物だけど)に変わりはないが、一度コーヒーゼリーを出してみたら、「これは、違いのわかる大人が食うもんじゃな。」と、首をかしげるコメントを残したけど、気が付いたら完食してたから、お気に召した様子だった。
だけど、栄養が偏ってるというかこの食生活を僕がしていたら、絶対、母さんに怒られるはずだ。みみじぃの健康は大丈夫なのだろうか・・・。まぁ、病院にも行ったことないだろうし、かかりつけ医がいるはずもない。天涯孤独だったら、自分で健康管理をして欲しいが、考えているのだろうか?「自分の基準になんでも当てはめてはいけない」と言われてから、僕達の常識とみみじぃの世界での常識に隔たりがある気もするし、僕の想像を超えた世界でもあるから、僕の足りない脳みそでは計り知れない。
今、僕の目の前で、みみじぃは麦茶の次にお気に入りの乳酸飲料のマミーをグビグビ飲んでいる。
ある晩、自室の勉強机で単語帳を広げていた。みみじぃハウスは机の上に置いてある。窓から風が入ればこのハウスにも風が通るのでここに置くことにした。ジャガリコだと思うけど、さっきベットに持ち込んで食べ始めたらしい。「ボリボリ」って音が聞こえてくる。僕は気にせず、ノートに単語を書きなぐっていた。物覚えの悪い僕はさっきからずっとParliament(国会)という単語を書き続けていた。覚える気がないっていうか、この単語を覚えたとしても僕はいつ英語で「国会」って単語の入った会話を話すのだろうか?(英語だって話せないけど)
そんな日は多分こないだろう。って思うと更に単語が入ってこない。
「はぁー。」ため息をついた時、
ボボーンと音がした。僕は机から顔を上げた。みみじぃも驚いたようで、「なんじゃ!爆発か!」と慌てて、虫かご、いや、みみじぃハウスから出てきた。
音の理由はすぐわかった。花火大会だった。
高校生だとこんな日は友達と待ち合わせたり、彼女がいればお互い着慣れない浴衣とか着ちゃって、手を繋いで見に行っちゃったりするんだろうけど。僕は誰にも誘われなかったし、誘いもしなかった。(正しくは誘う相手がいなかっただね)それに今日が花火大会だと知ったのも今だったし。
打ち上げ場所は家からかなり離れた場所だった。家は高台にあるから見えるけど
この町内とはかなり関係ない場所と言ってもよかった。夏が終わる頃、そういえば今頃だな、花火は毎年・・・。
みみじぃは初めて見るのか、いつの間にか窓のへりまで移動してじっと見ていた。「おぉうー」とか「お!」とか花火があがる度に歓声を上げていた。
「初めて見たの?」
「うむ、初めてじゃ。すごいのぅ。なんだかワクワクするのうー。」
どうやら相当気に入ったらしい・・・。
「結構遠くでやってるんだよ、あの花火は。それでも大きいのはよく見えるね、うちからでも。」
「そうか、遠いのか。凄いのう。」
話しかけてもこちらを見ようともしない。完全に釘づけだ。花火って不思議だな。
僕も単語を覚えるのを中断(正直に言うとあきらめてだけど)し、一緒に遠い花火を眺めることにした。
小さい花火や大きな花火、ドラエモンとかキティーちゃんまであった。僕はちゃんと見た事なかったんだ。いや、多分子供の頃はみていたはずだけど、ここ数年は音で花火と認識はしても何かの手を止めてまでしばし見るなんてことはなかった。みみじぃのお蔭で堪能すらしてる。。
僕達はあがる花火を「おー」とか「すごいね。」とか「ドラエモンだよ、あれ」とか一々歓声や感想を言いながら見ていた。
みみじぃはドラエモンもキティーちゃんも知らなかった。ドラエモンを知らない所を見るとみみじぃは未来からは来てないみたいだ。僕はネットでその都度検索してみみじぃに正解の画像を見せた。花火は一瞬の事なので僕はみみじぃの記憶が上書きされない内に検索するのに忙しかった。
何度かキャラクターものが登場して、段々と大きな花火ばかりが間隔をあけずに上がるようになった。みみじぃは「お、おお、おおー。」とその迫力に興奮MAX状態だった。
「もうすぐクライマックスを迎えるからだよ。終わりに近づくとこんな風なんだよ。」僕は興ざめとも思えるコメントをした。だけど幸い、みみじぃには聞こえなかったらしい、興奮しすぎてて・・・。僕は立ち上がって食い入るように花火を見つめる小さいじいさんの後姿を見ていた。今日は、ばあちゃんが作った、黄色いアロハと白い半ズボンを着用している。
なんとも言えない気分だった。みみじぃ、よくわかんないけど「ありがと。」と心の中で呟いた。理由はわからないけど。
やがて、静寂が訪れた。花火が終わったらしい。最後の数分は大花火がドンドンと音をあげ上がり続けた。辺りは明るい世界が広がっていた。
それでもみみじぃは待っていた。こちらを振り向かずにじっと窓の外を見ていた。
「みみじぃ、終わったよ。花火。」
僕がそう言って、やっと振り向いた。
「花火は終わると寂しくなるもんじゃな。」
僕は何て返せばいいかわからなかった。確かにそうかもしれないけど、今までそんな風に思ったことなかったから。でも今日はみみじぃの意見に一票だった。
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