第8話 みみじぃ ばあちゃん家に行く

今日もばあちゃんの家に行く日だった。僕は散歩が成功したからというのもあって、みみじぃを外に連れ出す機会を増やそうと思っていた。ばあちゃんはあまり細かいものは見えないだろうし、多分みみじぃに気づかないはずだ。

「今日は祖母の家に様子を見に行くんですけど、一緒にいかがですか?」

うやうやしくお伺いをたててみた。

「ふうむ。そうだなぁ、退屈っちゃ退屈だから行ってやってもいいぞ。」

あっさりオーケーが出た。

 2回目のみみじぃとのお出かけは、ばあちゃん家に決定!白とネイビーのツートンカラーのトートバックのポケットにみみじぃは収まり出発した。

いつもと同じくばあちゃんの家を自分で鍵を開けて入った。玄関までやっぱりテレビの音が聞こえてくる。

ばあちゃんの部屋をノックするけどやっぱり返事はない。

僕はそっとドアを開けた。

「ばあちゃん。」

テレビ画面からドアに顔を向けてばあちゃんは

「あら、ともちゃん。どうしたの?」

「ばあちゃんの顔見に来たの。」

「あら、そう。」

昨日と同じやり取りが続いた。

「メモ残しといたでしょ。昨日。また明日ねって。」

僕が言うとばあちゃんは「キョトン」だった。

「そんなのあったかなぁ。」

「まぁ、いいよ。ばあちゃんなんか飲む?」

「ああ、なんか飲みたいねぇ。」

「オーケー。待っててね。」

僕はみみじぃの入ったバックをベットの上に置き、台所へ行った。


 昨日と同じ麦茶とコップを2つ持ってばあちゃんの部屋に戻った。

麦茶の入ったコップをばあちゃんの前に置いた。

「ばあちゃん、麦茶どうぞ。」

「ああ、ありがとう。」

そう言ってばあちゃんは両手でコップを手に取り一口飲んだ。

そして僕を見て言った。

「ともちゃん、小さいお友達にもお飲み物ださないと。」

「・・・。」

とっさに僕はみみじぃを見た。

みみじぃも僕を見ていた。驚いたようだった。

「ばあちゃん、どういう事?」

「なにが?」

「小さいお友達って・・・。」

「そこにいる、ちいさなお友達の事だけど。あ、お友達じゃないの?」

 答えに困る。友達じゃないけど、連れてきてることは確かだ。

そんな事より、ばあちゃんがみみじぃに気が付いたことが驚きだ。

「いや、えーと・・・。」

僕が考えあぐねているとみみじぃは自力でトートバックから抜け出し僕の後ろを回り込んでばあちゃんの横まで移動していた。

「ご挨拶が遅れまして・・・。お初にお目にかかります。耳山田と申します。」

「あぁ、どうも。知晴の祖母のキミです。どうぞお座りになって。」

僕はなんとも奇妙な挨拶場面に出くわした。

小さいじいさんと大きいばあさん・・・。

イヤ、うちのばあちゃんは140cmくらいしかないから十分小さいはずなんだけど・・・。

「知ちゃん、ほらここでいいからここに座っていただいたら。」

ばあちゃんはテーブルを指して言った。

「あ、はい。」

みみじぃを手のひらに乗せてテーブルに置いた。

「あ、そうだ。いいのがある。」

ばあちゃんが椅子代わりのベットから立ち上がった。数歩先にあるばあちゃんの手芸道具なんかがごちゃごちゃしている収納棚でなにやらごそごそしていた。

「これ、丁度いいんじゃないかしら。御座布団。」

小さな緑色の和柄の布で出来た四角い座布団を持ってきた。

「ばあちゃん作ったの?」

「作ったってほどじゃないけどね。昔招き猫の置物貰った時に作ったの。招き猫がどっかいっちゃったのよ。フフフ。」

嬉しそうに笑うばあちゃんは可愛い。

みみじぃは座布団を見て、おもむろにその上に正座した。

「ほう、これはいいですな。ちと拝借いたします。」

「ええ、どうぞどうぞ。」

和やかに二人の交流は続いた。

ばあちゃんはみみじぃの着ているものにも興味を示した。

「耳山田さん、お召し物はそれ甚平みたいなものですか?」

「え?あぁ、まあそんなものです。」

ばあちゃんが脱いで見せろと言って、みみじぃは素直に脱いで渡した。

受け取ったばあちゃんはチラシの裏の上にそのほとんどボロボロの甚平を広げて鉛筆でなぞっていた。

「なにやってるの?ばあちゃん。」

「ん?布地も沢山あるし作って差し上げようかと思ってね。」

なるほど!それはいいアイデアだ!

「みみじぃ、ばあちゃんが服作ってくれるってさ。」

みみじぃは恐縮していた。

「いや、そんなことまで甘えては・・・。」と言いながらもばあちゃんが棚から幾つか持ってきた端切れを見ては気に入ったらしき柄をそっと触ってる。

 なんだよ、作って欲しいんじゃんか。


 ばあちゃんとみみじぃは二人で布地の選定をするため意見交換している。その姿は楽しそうだった、2人とも。

僕はみみじぃを連れてきてよかったと思った。

その日はばあちゃん、昼寝することなく僕とみみじぃが帰るときには玄関まで見送ってくれた。


 それにしてもばあちゃんがみみじぃに気付くとは!

不思議だった。だって、ばあちゃんは自分の決して広くない部屋で、よく探し物をしている。それは、ペンだったり、はさみだったり、日常でよく使う小さなものだったけど、大概チラシの下とか床に落ちてたり見回せばすぐに見つかる。それなのに見つけられないんだ、不思議なことに。

 僕はてっきり老化により視界が狭まっていて見つけられないのかと思ってたけど。それともどうも違うようだ・・・。


「ばあちゃんすぐに見つけたね、みみじぃの事。」

「そうじゃなぁ、わしも久しぶりにびっくりしたわ。」

「僕が飲み物取りに行ってる間、なんかした?」

「いや、しとらん。じっとしておった。置物のフリをしとったわ。」

置物?なんだそれ。みみじぃがそんな風にカモフラージュしてたと思うと笑える。

「そうなんだ。すごいな、ばあちゃん。」

「確かに。」

ばあちゃんは小さいじいさんの出現になぜ驚かず、受け入れることができたのだろうか?


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