第16話 恋について

「小僧、お前はあの娘のどこが好きなんじゃ?」

みみじぃが突然聞いた。

「え?なんで?」

僕はドキッとしたけど平静を装い聞き返した。

「聞いてみたかっただけじゃが、好きになるとはどういう事なのかと不思議に思ってな。」

なるほどね、みみじぃは今まで恋愛対象になる誰とも出会った事ないし、想像もできないんだろう。


 僕は劉さんを好きになった棚卸でのいきさつをみみじぃに話した。

僕の話を聞き終えたみみじぃは、

「おっぱいかぁ。」

と、言った。

「ちょっと、僕の話聞いてた?」

「聞いとった。」

「なんでそれなのに、最初の一言が「おっぱい」なんだよ。」

「小僧、おっぱいを馬鹿にするな。わしが言うのもなんじゃが、思うに、女っていうのは男にとって永遠のおっぱいなんだっ!」

意味がわからない。けど、恋をしたことのないみみじぃの一言はもしかしたら物事の本質ってやつかもしれない・・・。でも「おっぱい」はないよね。

「ちょっと大丈夫?みみじぃ。どっかに頭ぶつけたんじゃないの?」

みみじぃは僕の話は聞いてなかった。腕を組んで考え込んでいる。

「それにしても、恋する瞬間てやつはよくわからんな。」

「ま、確かに自分でもよくわからないけど、誰かを好きになるのに理由はないとも言うよ。きっかけだけで成り立つのが恋なんだよ、きっと。」

「ほほうー。「きっかけだけで成り立つのが恋」か。初めて小僧の言ってる事に少しの深みを感じたよ。」

ひどい言い草だ。

「でもさ、誰にも言えないけどさ、ドキドキしたりニヤニヤしたり出来るだけでも恋っていいものなのかもしれないよ。みみじぃも誰かに恋すればいいのに・・・。」

僕は言ってみた。

「わしはいいんじゃ。でもま、あの娘の傍で心配したりいつもしない笑顔を見せる小僧を見てるのはいいもんじゃな。」

「あ、ありがとう。」

「上手くいく可能性は今のところゼロじゃがな。」

「あ、ああ。」

そんなの自分でもわかってるけどね。

「でもな、小僧。今は、って事で、そのタイミングが巡ってくることもあるかもしれん。何が起こるかわからんぞ。気を引き締めていけ。」

なに、その予言めいた発言・・・。

「そうなのかなぁ。ま、もし仮に今、彼女が僕を好きって言ったら、それはそれで僕はどうしていいかわからないよ。だから今のままで十分なんだ。負け惜しみでもなんでもないよ、これは。」

みみじぃはフフッと小さく笑い

「そうじゃな。それが小僧の正直な心じゃな。」

と言って小さな手で僕の腕をポンポンとたたいた。


 それにしても、誰も知らなかった僕の初めての恋心に理解を示すみみじぃ。僕は自分が誰かを好きになる事を、正直にいうとなんとなく後ろめたく思ってたんだけど、これはとても自然な事でそんな風に思う必要がないんだって、みみじぃと話してたら思えてきたのが不思議だった。人に興味のなかった僕(それは今も変わらないけど)、誰かを好きになるのはいい事なんだね、たぶん。

 みみじぃにも経験させてあげたいけど、無理かぁ、小さいじいさんってだけじゃなく偏屈だし、頑固だしね・・・。なにより、対象の小さいばあさんがいない。

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