第24話 じいちゃんの墓参り
そういえば、お盆の時期だった。ハンバーグの会の帰りにばあちゃんが山中さんと話していた。(帰りも山中個人タクシーに来てもらった。僕はラクチンでラッキー)
「今年もお墓参りに行くのでまたお願いしたいと思ってるの。」
「ああ、もう一年ですね。去年も暑かった!ご連絡いただければいつでも。」
ばあちゃんはここ数年、じいちゃんの墓参りに独りで山中さんに頼んで行ってたらしい・・・。
「伯父ちゃんとかと行かないの?」
僕は聞いた。
ばあちゃんは、
「お盆の時期って混んでるでしょ。おばあちゃん、せわしないのイヤなのよ。おじいさんと話するにも天国からいろんな人が来ちゃって、お墓がざわざわしてる気がするのよ。だから時間差?っていうの?それで他の皆さんより早めにお参り。」
お盆の時しか天国から霊魂は降りて来られないんじゃないのか?
そういった事に僕は詳しくないけど、ばあちゃんなりの理屈で墓地での混雑を避けてじいちゃんに会いにいっていることは判明、そう理解することにした・・・。
「今年は僕も行こうか?一緒に。」
なんとなく、気がついたら言っていた。
ばあちゃんは嬉しそうに笑って、
「じゃあ、一緒に行く?」
と付き合いたての彼女みたいな口調で僕に言った。
その可愛い一言に僕も,多分みみじぃも小さく笑った。
墓参りの日はこれまた晴れて、暑い日だった。
山中タクシーで大正解だ。
ばあちゃん家でタクシーが迎えに来るのを待って、僕達は出発した。
ばあちゃん家から車で30分ほどの所に墓地はある。
小高い丘の上に広大な土地を持つその墓地は昔からのもので、僕の地元のほとんどの家がここにお墓があると思われる。そう考えると、一体何人の人がここに眠ってるのか?
お茶屋さんが数軒あって、ばあちゃんはいつも「はなおか」というお茶屋で供える花や線香を調達するようだった。
多分僕も小さい頃、そう、じいちゃんが死んだ時に来ているはずだ。だけど記憶がほとんどない。
「はなおか」の女主人らしき人は、ばあちゃんとは顔見知りのようで、
「あら、今日はハンサムさんとご一緒ですか?お孫さん?」
とぽっちゃりした体形にぴったりの福々しいまあるい顔に笑顔を乗せて聞いた。
ばあちゃんもニコニコ顔で、
「そうなんですよ、ついてきてくれるっていうもんですから。」
と嬉しそうに答えている、気がする。
借りた桶に水を入れ、供花と柄杓と線香を持った。結構な重量というかばあちゃんが持つにはボリュームがある。いつも独りでコレを持って、墓参りしてたのか、と思い浮かべると少し心が痛んだ。
墓地内に入ると、殆ど人影はない。小高い丘の上だからだろうか、太陽がいつもより近く感じる。通路はコンクリートで舗装されているけど、照り返しですでに汗だくだった。広い墓地の一番奥に位置しているじいちゃんの墓まで僕は桶に入れた水がこぼれないように気をつけながら歩いたけど、時々「チャプン」と音をさせてしまいコンクリートにシミを作った。
それにしても広い!当たり前だけど、一面見渡す限り墓、墓、墓・・・。
ばあちゃんが言ってた「お盆の時期はお墓がざわざわする」ってここに立つと深く頷ける。
ばあちゃんは日傘を差しながら、「今日はラクチンだわー。知ちゃんが持ってくれて。」と言う。
「ばあちゃん、独りで大変だったでしょ。今度から僕も来るから連絡してよね。独りでコレ持って移動すんの、無理だって。」
と、申し出た。
前をゆっくり歩く今日のばあちゃんのいでたちは白い日傘にグレー地に白い花柄レースのついた帽子、グレーのワンピースだった。じいちゃんに会うためにおしゃれしてきたのだろう。対して僕はというと、グリーンの膝丈パンツに白いTシャツの上にベージュのチェック半袖シャツ(ポケットにはみみじぃ)そしてお決まりのビーサン・・・。
なんだか、じいちゃんごめん・・・、そしてご先祖様も・・・。
だけど桶から時折こぼれる水が足元にかかってもビーサンだから気にならないしし、逆に気持ちいい・・・。
何年振りかのじいちゃんの墓だった。厳密にはご先祖様達のだけど。
墓の前まで来るとみみじぃはポケットから身体を伸ばして、「これが墓っていうものか?」と聞いた。
「そうだよ。初めて?」
僕は手のひらにみみじぃを乗せ墓の上に乗せてみた。乗せたけど、その途端ご先祖様に悪い気がした。頭の上に乗せてるのと同じだもんね。
「みみじぃ、移動。」
僕はひょぃっとみみじぃを掴んで花を供えるあたりに移した。
墓の掃除をし(と、いっても綺麗だった。枯れた花もなく雑草もない)墓石に水をかけ、新しい花を墓石の両サイドに活けた。
ばあちゃんは黙々と動いている。僕とみみじぃがいることを忘れてるみたいに。
僕も話しかけなかった。
最後に線香に火を点け煙が上がっていくのを確認して墓に供えた。そこでばあちゃんと僕は墓の前にしゃがみ、手を合わせた。
久しぶりに線香の香りをかいだ。いいものだった。みみじぃは僕達の一連の動きにじっと身を潜めるようにして見守っていた。
手を合わせてじいちゃんに挨拶をしてたけど、みみじぃが気になってそっと目を開けたら、僕の膝の上で神妙な顔つきをして僕達と同じように手を合わせていた。
真剣な様子のみみじぃは何故か面白い。ふっ笑って、僕は再び目を閉じてじいちゃんに話しかけた。
ばあちゃんは結構長い時間、手を合わせていた。じいちゃんと何か話し込んでいるのか、驚くほどの集中力で微動だにしない。年寄なのに長時間しゃがんでて膝は痛くないのだろうか?僕は心配になったけど声はかけなかった。ばあちゃんのバックに突っ込んであった日傘を広げ、ばあちゃんにさしかけた。
みみじぃは辺りをウロウロして他の墓を見学していた。家族がいないというみみじぃにとっては死んだ人達を生きてる人達が偲んでこうやって会いに来るという感覚、理解しがたいのかもしれない。
「よっこらしょ。」
それからしばらくして、ばあちゃんが立ち上がった。立ち上がるのに時間がかかる。僕は慌てて手を貸した。
「じいちゃんと話できた?」
「え?ああ、できたわよ。ありがとう。」
ばあちゃんの顔は汗だらけだった。大粒の汗が鼻の下や額やらに噴き出していた。
僕ももちろんすっかり汗だくだったけど、汗だくの年よりってあまり見た事がない。
「ばあちゃん、何か飲もう。汗すごくかいてるから脱水症状になっちゃうよ。」
そう言って、桶やら柄杓やらを片手に、もちろんみみじぃを忘れることなくお茶屋に急いだ。
ばあちゃんは墓地を出る前に一度振り返った。そして、
「またね、おじいさん。」
と小さく言った。
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