第2話 楽しみなバイト
近くのコンビニでバイトを始めて1年ちょっと経つ。そんなに広くないこともあって、仕事は大変じゃない。駅からも遠いし近くに会社もないのでレジが大行列なんて事も殆どない。高校に入学当初、部活もせず毎日バイトを続けていたが、成績があまりにもヒドく4月から週2回しか許されていなかった。ただ夏休みの間だけは時間にも余裕があるので、シフトで人の少ない時間帯にも対応することは許され週5日ほどバイトすることを親父からなんとか許可をもらった。
店長は山田さんといって小太りなおじさんだ。おじさんといっても30過ぎだけど。着る物にも頓着がないからか、野暮ったく40過ぎに見える。
ま、穏やかでいい人だからバイト先の上司としては二重丸。
夕方6時前にコンビニに到着して制服に着替えた。太陽は沈む準備を始める時間なのに外は未だ息もできないくらいの湿度と熱風で汗だくだった。自動ドアが「ウィーン」と静かに開くとスーッと冷気が僕の全身に当たって気持ち良かった。店内はびっくりする位冷房が効いていた。大体しばらくすると身体の芯から冷えてしまう。小太り店長が設定温度を下げているに違いない。ま、とりあえず今は涼しくて気持ちいい。
その店長と二人で店番をしていた。時々客が入ってくる。みんな第一声が「涼しーい」だ。
商品補充で惣菜と弁当のカートから棚に陳列作業をした。この付近には独り暮らし用のアパートなどもあるため、良く売れる。最近は近所のじーちゃんとばーちゃん達も自分用に買いにくる。独りで暮らす老人達もこの辺りには結構いるからだ。自宅から近い場所なのでボクの事を昔から知る人達もよく出入りする。「あら、ともちゃん、頑張ってる?」とか言われて恥ずかしい・・・。
今日は特に嬉しいバイトの日だった。給料日ではない。夜、店長と入れ替わりに劉さんがシフトに入っていたからだ。彼女は留学生で都内の大学に通っている。ボクより5つ年上だ。
背が高く、スタイルがいい。知り合って一年ちょっと。そう、ここで出会った。
だけど、僕の想いを彼女は知らない。完全なる片思いだった。
「オツカレサマデス。」
いつものように劉さんがやってきた。
「お疲れ様です。」
僕はレジにいて彼女に挨拶をした。
着替えた彼女は店長と引き継ぎをしていた。
日常会話は基本的に問題はない。
「じゃあ、よろしくね、何かあったら連絡してね。」
店長は店の裏手にある自宅へ戻って行った。
「オマエ、キョウナンジマデ?」
劉さんが僕に聞く。僕の身長は175cmだけどほぼ同じ高さの目線だから彼女の身長はきっと、170cmくらいだろうか。
「え?23時までだよ。」
「ソノアトダレクル?」
シフト表持ってるはずなのに、見る気も覚える気もないようでいつも僕に尋ねる。
「えっと、武田さんだね、今日は。朝まで劉さんと二人で一緒だよ。」
「ソウカ。」
劉さんは日本語のスイッチがちょっとおかしい。だけど、お客さんに対してはちゃんと敬語が使える。敬語以外の日本語の覚え方に問題があったのだろうが、よくわからない。僕は別に構わないんだ、彼女に「オマエ」と言われても。
その日の二人きりの時間はたった2時間だった。客も殆どこず、二人でおしゃべりしていた。劉さんは日本で大学を出たら、今度はアメリカへ行くそうだ。そしてホテルに就職したいと言った。
「オマエ、ナニヤル?オオキクナッタラ。」
さて、僕は「ナニニナリタイノダロウ」。
答えに困って「わからない。考え中。」と答えた。
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