第4話 みみじぃの取り扱い方 風呂編

 身長5センチのじいさんをどうやって風呂に入れるのか・・・。

戸惑っていると、「暑いから水風呂でいい。」

と言った。ボクは1階へ降りて、小さな洗面器に水を張って戻った。

耳山田さんは仰向けに寝っ転がって手を頭の下にして目を閉じていた。

「あ、持ってきました。」

目を静かに開きムクっと起き上がった。

「お、なんじゃ広い風呂じゃな。」

洗面器で風呂に入るのは初めてらしい。勉強机に洗面器を置いた。透明の洗面器の周りをウロウロして、

「おい、手を貸せ。」

と言った。

 自力では洗面器に上がれないからだと気づいたボクは手のひらに耳山田さんを乗せてそっと洗面器に張った水に滑らせた。耳山田さんの身体に体温を感じた、やっぱり生きてる。

「ヒャッツッホー。」

子供みたいな無邪気な声を上げて耳山田さんは洗面器の中で泳ぎ出した。泳ぎながら着ているものを脱いでいた。結果、ふんどし一枚だった。ふんどしをひらひらさせながら洗面器の中を気持ちよさそうに動いていた。  

 洗面器の水はみるみる濁っていった。どれだけ風呂に入っていないのだろうか・・・。

「あのー、水替えてきますけど・・・。」

「いいんじゃ、いいんじゃ。これで十分じゃ。ああ、気持ちいい・・・。」

耳山田さんは縛っていた髪をほどいた。ほとんど白いその髪の長さは結構な長さだった。

 泳いだりもぐったりを繰り返し、立ったまま泳ぎ身体をこすっている、石鹸もないけどいいのかな?

「おい、もう出る。」

そう言われて、ボクは手の平を貸した。バスタオル替わりにボクのハンカチを差し出した。

 濁った水の中でヒラヒラしていた甚平を絞り、窓辺に置いて乾かすことにした。耳山田さんはふんどし一丁でハンカチの上ですっかりくつろいでいる。

「なんか飲みます?お腹とか空いてます?」

一応聞いてみた。

「水が飲みたいのう、食い物はなにかあるのか?」

 洗面器の水を捨てに1階へ戻り、水を皿に少し入れ、麦茶のペットボトルがあったのでそれを持って戻った。食べる物は、バイトの時に必ず買う「うまい棒」のコーンポタージュ味を開けた。そのままでは食べにくそうだったので、少し砕いて出してみた。

 小皿に入った水を殆ど頭を突っ込む形で飲み、麦茶も勧めてみた。

「これは麦茶というのですが・・・。」

ペットボトルの蓋に麦茶を淹れ差し出した。

「おう、麦茶か。知っとるわい。」

飲んだことがあるらしい・・・。僕は少しホッとした。その後、うまい棒を手に取りムシャムシャ食べた。

「なんだ、これは。こんなうまいもんがあるのか!」

僕は自分が褒められた気がして嬉しくなった。

「それ、うまい棒っていうんです。味の種類も色々あるんですよ。」

うんうん、頷きながらムシャムシャ食べていた。その姿はなんだか可愛い。

 麦茶とうまい棒を交互に口にして、しばらくすると、「眠い。」と言って、コテンと横になった。

「え?」

急に熟睡する耳山田さんに唖然としたが、ハンカチで即席ベットを作り、起こさないように耳山田さんを持ち上げて移動させた。

 勉強なんて、もうできない。僕も今日は眠ってしまおう。明日起きたら、耳山田さんもどこかにいなくなって、夢だったと思えるかもしれない・・・。


 とはいえ、ベットに横になったけど全く眠れない。耳山田さんをベットの枕元に移動し僕の隣に寝かせてみた。暑いとはいえ、ふんどし一丁の老人だから、寝冷えが心配になった。僕は棚の中に昔使った包帯があることを思い出して、5センチ位切ると耳山田さんにぴったりの薄がけが出来上がった。そっと掛けると万歳の体制で寝ていた耳山田さんは足を縮め、即席薄がけにくるまった。

 時計を見ると午前3時だった。アイスノンにタオルを巻いた夏用枕に頭を乗せるといつの間にか僕も眠りに落ちていった。


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