第25話 東国家屋のぼうけん
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ローゼリア&リーゼロッテ&アリス&帽子屋T
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一頻り平和な庭を堪能した四人は、覚悟を決めて石畳の道の先にある、引き戸玄関の前に立ち塞がった。
キレイな木目調の造りは同じ。こっちはハズレなんじゃないかと思うくらい、空気は澄んでいる。
「……アリス、行きなさい」
「え?俺?!マジで俺?!」
大事なことなので、二回聞きました。
「うん、アリスくんお願い」
「おまえしかいねぇんだからよ」
何かあったら、正面突破出来るのはアリスしかいない。人形引き連れて走り回ってくれたら、作業も楽チン。
「し、仕方ねぇな」
ガラガラと至って普通に開いた引き戸。
「…………何もないぞ?何か中薄暗いけど」
玄関には何もないと告げるアリスに従い、三人は玄関に入っていく。やっぱりハズレで、中の確認だけしようと考えた矢先。
━━バタン
引き戸が勝手に閉まった。予想できたはずなのに、庭の平和ぶりに毒気を抜かれていた。
━━カタカタカタカタ
正面の暗がりから、軽い何かが近づいてくる。徐々に近づくそれは……………赤と白のキレイな着物を来たおかっぱの東国人形。
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!むぐっ」
「黙れ。……からくり人形だな」
アリスの口を後ろから塞ぐと、ぼそりと呟く。からくり人形は目の前に来ると止まって、かくっと口を開く。
「………!!!!」
涙目で訴えるが、口は塞がれたまま。からくり人形の口から、紙が落ちる。
━━『いらっしゃいませ」
「い、いらっしゃいませ?もてなされてる?」
おっかなびっくりのリーゼロッテ。かくんと紙を巻き込み、口を閉じるとくるりと方向転換するからくり人形。
━━カタカタカタカタ
まるで、ついてこいといっているかのように、数メートルで止まった。靴を揃えて中に進む一行。
━━カタカタカタカタ
どこに連れていくのだろう。角を曲がるときも、一旦止まる。追い付くと。
━━カタカタカタカタ
また動き出す。何度も何度も。明らかに敷地面積より、移動距離のが長い。
ふと、ある襖の前にカタリと止まった。
『……お客人、お入りくださいませ。』
生きた人間の声ではない。だが、悪意を感じない。リーゼロッテとローゼリアは頷き、恐る恐る襖を開けた。
そこには、深々と頭を下げて、客人を迎える女性。緩やかな黒髪を片方に纏めている。
『わざわざご足労ありがとうございます』
ゆっくりと体を起こした女性。優しげな美人だ。
『驚かれるのも無理もないですね。わたくしは、この屋敷の女主でございました、
━━ここは東国?いえいえ、東国ではありません━━
目の前にいる女性は、東国特有の容姿や立ち振舞い。所作のすべてが洗練されて美しい。この屋敷には相応しいが、土地柄には違和感がある。
『……正確には、この屋敷の《人形》たちの纏め役をしているのです』
「ああ、あなたも人形なわけね」
リーゼロッテ、帽子屋も頷く。
「え!?マジで?!この美人のねーさん、人形なの?!って!ぐぇっ!」
━━帽子屋により、おバカさんは一旦、お休みになりました━━
『……で?あたしたちに何をしてほしいの?』
悪意がないパターンは、大概同じ。わざわざ案内までしたのだ、何かあるに決まっている。
『まずは、お座りください。お疲れでしょう?』
お抹茶を勧められる。
『大丈夫ですよ。毒は入っておりません。……少し、お砂糖は入れましたが』
ニコニコ微笑みながら。帽子屋をちらちら見ながら、リーゼロッテはゆっくり飲み始める。ローゼリアはリーゼロッテの動きを分析しながら、飲み始める。
「「……美味しい」」
『痛み入ります』
優しく微笑まれる。帽子屋が渋い顔をする。
「……俺だけ渋い」
『東国出身の方なら、そのままでも宜しいかと』
クスクス笑っていた。
もちもちした、桃色のお茶菓子まで頂く。自分たちが何をしに来たのかを忘れるくらいに、和む。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『……さて、本題に移らさせて頂きます』
真剣な表情で、再び頭をキレイに下げた。
彼女の話はこうだ。この屋敷、隣の洋館には、買い付けた人形や譲り受けた人形、拾ってきた人形がそのまま安直されている。
東国人形、西洋人形ともに愛して止まない主により、二つの屋敷が人形のために造られた。
造られた当時は、なんら問題がなかった。しかし、主が亡くなると家族は誰も受け継ごうとはしなかった。気味が悪いと誰も……。
時が経つにつれ、人形たちに変化が起こった。拾ってきた人形たちが、寂しさにより棄てた買い手を思いだし、屋敷を徘徊するようになったという。
『こちらの屋敷は、主様が東国の方でしたので、すべて現地から連れてこられました。しかし………』
楓は、洋館があるだろう方向へ向く。
『あちらは、無法地帯。東国出身であったのに、西洋人形だからと何もされなかったのでございます。』
長いまつげを伏せながら。何かに思いをはぜているよう。
ここ数年は、洋館付近に訪れた人々を引きずり込んでいるらしい。引きずり込まれて、出てきた者はいない。
『くえすとという依頼形式のものがあるとか。くえすとでいらっしゃる方々で、行方不明者が軒並み増えているのでございます』
━━自分らも『クエスト』です!━━
何て言いにくい。この空気は言いにくい。
『……存じておりますよ?あなた方もくえすとでいらしたということは』
━━バレてた!わかった上でのご招待、痛み入ります!━━
『……数週間前にいらしたお嬢さんが、お嬢さん方と背格好が似ておりましたもので』
それって、まさか?リーゼロッテとローゼリアは顔を見合わせた。
『西洋人形の空気を漂わせるお嬢さんでした』
━━まさかのまさかでした!━━
「ま、間違えようがないわね」
「う、うん。カノンちゃんしか思い浮かばないや。顔知らないけど」
二人の顔をしばらく見ると、また続ける。
人形のことは自分が何とかしなくてはならないという使命感に満ちていた。洋館に向かい、……そのまま消息を絶ったという。
彼女が入ってからは、怪我をしながらも、命辛々逃げるものが増えてきているそうだ。
もしかしたら今もカノンは中で、奮闘しているのかもしれない。
『勝手なお願いだとはわかっております』
デジャブるこの言葉。
『……………………』
三人に耳打ちした彼女の言葉に、皆目を丸くする。
何を言おうとも、楓は、深々と頭を下げてあげようとしない。決意は固いようだ。
損な役回りばかりさせられる。溜め息をついても、つききれない。
「取り敢えず、向こう行くわよ」
和室を出るときに、わざわざ皆で、気絶しているアリスを踏んづけていく。
「ぐぇっ!……あれ?美人のねーさんは?!」
━━振り替えるとそこには……………見事な市松人形が立っていた━━
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