第29話 終わらない童話を
━━運命の歯車は不協和音を奏でながら、回り続ける━━
ギルドに帰還したローゼリアたちを待っていたのは……。
「あたくしを待たせるだなんて、流石あたくしのライバルですわね、白雪姫さま!おーほほほほほほほ……!むぐっ」
ローゼリアの帰還に気分よくしながら、横から口に何か突っ込まれる。
「むぐっむぐっむぐっ!はぁ!やめてくださいまし!しゃべれませんわ!」
隣ではニコニコしながら、ラプンツェルがケーキを一口分、スタンバっている。犯人は彼女のようだ。ローゼリア帰還前に、お姉さんずに捕まったようだ。世話好きのお姉さんに捕まったら、諦めるしかない。
「いい様ね、あたしに何の用かしら?……あら?」
赤い服、赤いリボン、赤い靴。ローゼリアに色は見えない。けれど、音が違う。衣擦れや靴の音が軽い。
「あたくし、あなたさま方をサポートして差し上げようと参りましたの。感謝してくださいまし♪……なんですの?」
「口が減らないわねぇ。ええ、何だか衣装が軽くない?」
「あ!ゴシックドレスがオシャレなワンピースになってる!リボンの赤い靴も可愛い!」
ブラウスに赤い薄手のワンピース。ワンピースと同じ生地の大きなリボン。同じカラーの巻きリボンのローヒール。赤の似合うカノンにはこちらもピッタリだ。
「……御愁傷様」
意図を察したローゼリア。ぷるぷる肩を震わせて笑っている。
「なんで笑ってますの?!」
「ごめんね。『赤い靴』の女の子なんだよね?」
二人は、カノンがお母さんにも既に捕まったことを悟った。堂々と、ローゼリアに会いに来たと公言したことは、想像に難しくない。知らなくて当然だ。女の子大歓迎のギルドでそんなことをすれば、確保される。拠点を調べるべきだった。
「……ふん!あなたさま方がなぜ、『白雪姫』さま、『赤ずきん』さまか、よくわかりましたわ」
最初のあの説明を聞いたら、間違えようがない。わざとそれを引くように画策されてしまったのかもしれない。
「まぁ、ここにいたいなら受け入れるしかないわよ」
「あら、あたくしはなんでも似合っちゃうんですの。可愛いって罪ですわぁ!おーほほほほほほほ……!むぐっ」
またケーキが押し込まれる。二回目で、仕組みがよくわかった。高笑いをするたびに、周りが慣れないらしく、振り向く。高笑いするような存在がいないためだろう。
「……順応性高いんだね。あ、名前は?」
「むぐっむぐっ!『赤い靴』のジェシカですわ。再度お見知りおきを♪」
お母さんは口止めされていた。ジェシカが、忌むべき本当の名前だと言うことを。乗り越え、呪いに打ち勝ちたいという真摯な思いを受け止め、受諾されたのだ。
◇◆◇◆◇◆◇
「……女はやかましくて敵わねぇな」
手鏡を覗きながら、映る自分を見つめるナルシスト帽子屋。
「え~?大人女子はいいよぉ?未成年は子どもだから仕方ないっしょ~♪ね~♪」
やけに露出の高いセクシー女性たちに囲まれ、ご機嫌な色ボケ3月ウサギ。
「……………それはいいとして」
「男なんだから、おいとかないでよ」
長い長い溜め息をつく。
「問題が一つある」
「何が問題~?」
「……うちのガキはどこいった?」
「女に興味ない帽子屋に子どもなんていたっけ~?がっ!」
ツカツカと歩み寄った帽子屋に、頭上から拳骨を食らう。びっくりした女性たちが、さっと逃げた。
「え?ちょ!どこいくの?!」
体だけの関係は、脆い。いくら体感しようと、3月ウサギは変わらないだろう。
「アホなこと言ってんじゃねぇよ。アリスはどこいった、つってんだよ!」
久しぶりの凶悪な顔を向ける。
「わーってるって!ホント、うちの坊やはどこ走ってるんだかなぁ」
足にしか定評がないアリス。いなきゃいないで、どこか走り回っていると。
◇◆◇◆◇◆◇
確かに走っていた。ローゼリアの意向で。今のところ危険はないが、精神的プレッシャーは半端ない。
「……この街は、人が多いね」
「確かになぁ。これくらいなら、走り抜けるのは楽しいぜ」
いつものメンバーがいれば、バカにされただろう。
「みたいだね。俺を迷いなく追い掛けてくる姿は、大したものだったよ。隠れる気がないのを除けばね」
そう、人混みだからと、脇目も降らず追い掛けた。バレたのは仕方ない。視界に捉えていたのに、いきなり背後からあらわれたギール。ただ者ではないのは間違いないだろう。警戒は怠らない。
「走るのが役目だからな。人混みに紛れきれてなかったのは、俺の落ち度だってことは認めるさ」
そうこうしているうちに、ギルドに到着する。白雪姫のことだ、赤ずきんを連れてさっさと戻るだろう。それは、アリスでもわかる。
「ただいまー!」
両扉を開けると、白雪姫と赤ずきんはいる。しかし、ラプンツェルとルクレツィアの間にカノンがいた。向こうには、気だるげな帽子屋と相変わらずの3月ウサギがいる。
「……勢揃いだな、おい」
「あら、早かったわね」
「あ!アリスくんの後ろの人!」
━━ギイ……………
両扉をゆっくり開けて入ってくる人に、見えていない瞳を向ける。あのとき感じたものをまた感じた。
「やぁ」
爽やかに微笑むイケメン版ローゼリアがそこにいた。
「「白雪姫にソックリ……」」
ラプンツェルとルクレツィアがハモる。
「あの顔、もう1つあるのかよ……。鏡じゃねぇだろうな?」
舌打ちしながら、帽子屋が手鏡に瞳を逸らす。
「へえ?俺はギール。まさか本当にソックリなんだ。白雪姫、よろしくね」
爽やかに笑いながら、ローゼリアの手を取る。
「……何か知っているの?」
睨み付けるように、顔の位置を凝視した。
「やっぱり。わかっちゃうんだね。……探したよ、俺の妹ちゃん」
固まる一同。ローゼリアの兄を名乗るギールに、ラプンツェルとルクレツィアがフォークを取り落とす。
━━カシャン、カランカラン……
「「「「「「妹ぉぉぉぉ?!!!」」」」」」
リピー………しなくていいです。まさかのことに、客までこちらの成り行きを見守っている。街のツイン救世主の話となれば、気にならないわけがない。
「……どういうこと?」
「父の愛人だった
優しく、ただ優しくローゼリアを見つめる。
「へえ?辻褄は合わなくはないわね。本当ならあたし、その女に棄てられたのね」
嘲笑うかのように見上げる。無言で頭を撫でられた。……一滴、2度目の涙が溢れる。
「……だから、申し上げましたでしょ?あなたさまは純粋な
怪しく微笑むカノン改め、赤い靴のジェシカ。初めて出会ったときの口調そのままに……。
━━物語はここで一旦、幕が引かれる━━
◇◆◇◆◇◆◇
彼女たちの童話は始まったばかり。
彼女たちの歯車はまだ、運命の歯車に程遠い。
触れあうとき、悲劇は幕を開ける。
第二部までお待ちくださいますよう。
幕閉じの間も、彼女たちが止まることはない。
あなた方が覚えている限り………。
◇◆◇◆◇◆◇
第一部完
御伽の国のプリンセスクエスト 姫宮未調 @idumi34
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