人形の館クエスト
第21話 待ち人の温もりと名前
━━半ば強引に連れ帰られた一行は━━
喧騒の中に放り込まれた。無慈悲に。疲れているなどの考慮はされない。もみくちゃにされる五人。皆、口々に「おかえり」や「よくやった!」と叫ぶ。前より人数が増えている気がする。
お母さんの目の前にぺっと吐き出される頃には、疲れのボロボロともみくちゃのボロボロで、屍のように積み上がっていた。
もみくちゃにしたヤツらは、一頻り主役を堪能し、満足したのか、宴会を始めた。自由過ぎる街人たちである。
「おかえり、よくクリアしてくれたね。あなたたちは、あたしたちの『勇者』だわ」
優しい、包み込むような母親特有の(実際、産んだことはない)温かさを感じ、じわり。
「……よっぽど暇なのね。一つクエストクリアしたくらいで騒ぎすぎなのよ。長生きできないわね。幸せの絶頂なら殺されても悔いはないでしょうね」
皆が笑い出す。いつもの口調。しかし……ローゼリアは顔を赤らめ、明後日を向いていた。
宴会は夜通し行われていたが、五人は食事もそこそこに、その場を後にした。後ろでわめく声がして、リーゼロッテとローゼリアが顔を覗かせる。
「おかみさん!俺無理!もう無理!代えて!」
半泣きの男性。
「……何が無理なの?」
「あ、アリスくんみたいな人だ。多分、シンデレラだよ、彼」
きらびやかなドレスを纏い、化粧を施された顔が涙でぼろぼろだ。顔立ちはハンサムといった感じの男性。
「シンデレラ、泣くのはおよし。王子はそんなあなたを好いているのよ」
まるで、魔法使いにでもなったような仰々しい物言い。顔は愉しそうな笑顔だ。
「そうだよ、シンデレラ。僕はそんな君が好きなんだ。涙でぼろぼろじゃないか。さぁ、僕らの愛の巣で化粧を直してあげよう」
◯塚ばりのイケメン女性が、絵本さながらの王子コスチュームで、がっちりシンデレラを捕まえる。明らかに彼女は、ノリノリだ。
「もう、やめて!俺の精神HPは0よ!」
涙声が痛々しい。セリフも痛々しい。周りは笑うだけで、誰も助けない。
「……あれが、逆転カップルね。何故かしら。不思議とイライラしないわ」
「可哀想だから、あんまり言わないであげようよ」
こちらに気がついたシンデレラが向かってくるのを察したローゼリアは、バタンっと扉を閉めた。
その後、彼が希望を受理されたとは思えないが、こちらが助ける義理はない。
◇◆◇◆◇◆◇
どんな冒険者も受け入れるこの街。何故、ここまで寛大なのか。それはこの街の、いや、かつて国だったこの場所を造り上げし者の信念と決意がそうさせている。
魔王に勘当されし、姫君『エリューシア』。彼女は、汚れなき乙女。すべての種族の平和を願い、友好たらしめんと尽力した。争いが嫌いだった。皆で笑いあえる世界にしたいと望んでいた。すぐには無理でも、この場所だけではそれを実現しようと。
今は亡き姫君の意思と想いは受け継がれ、寛大で優しい街人が冒険者を待つ。各地に同じ志の国や街があれば、同盟を結びにいく。彼女の夢の実現は、今も少しずつだが進んでいる。いつか、皆で幸せになるために。だから、この街の名前は………。
『エリューシア』始まりの乙女
そう呼ばれている。これからもずっと………………。
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