イベント番外編

『エイプリルフールに見た夢』

「……リーゼ。今日のクエストはなんだ?」


人形のように美しい美少年が無表情で、何の興味もなく、欠伸をしている。まるで、御伽話の王子様が退屈だと言わんばかりだ。そんな彼は、一心同体である、リーゼルハルトに見えていない瞳を向けていた。


「ん~、最新は……ペットの捜索、かな。中々なついてくれないモンスターペットの捜索依頼って多いよね。僕は、可愛いのがいいな」


応えるリーゼルハルトは、ローゼンシュタインに優しく微笑む。赤いずきんを被ってはいるが、可愛らしい柔和な美少年。ローゼンシュタインの機嫌は誰よりもわかる。伏し目がちなのは、他者への計らい。


「うまく飼えもしないくせに、よく飼い主だと言い張れるな。実力のないものに誰も従わないってことだろ。……ペットなんかいらねぇよ、おまえといるだけで十分だ」


リーゼルハルトが複雑な顔をしながら、赤らめるが、気がつかない。つまらなそうに、また欠伸をした。最近は、大きなクエストもなく、しかし、お金にも困っていない。やることもないから、ストレス発散をしたいというだけ。


「やっだ☆白王子様!欠伸したらイケメン台無しだぞ!やぁん!赤ずきん様~、今日もプリティ♪」


レースをふんだんに使った趣味全開のアリスが、今日も絡んでくる。正直、迷惑極まりない。柔らかなプラチナブロンドロングヘアーは腰まであり、大きくボリュームのあるリボンが愛らしい。……黙っていれば、誰もが振り向く美少女だ、黙っていれば。会話なんて聞こえていない周りの連中は、アリスの容姿に色めき立つ。長いまつげ、動くたびに柔らかく揺れるプラチナブロンド。白磁の肌がよいしょする。振り返らずにいられない美少女だ。……中身はどうしようもなく、バカだが。


「やだぁん!あたし、超注目されてるぅ!仕方ないよね~♪あたしほど可愛い女の子なんてどこにもいないしぃ☆あたしって罪なお・ん・な!」


一人陶酔するバカ娘。


「そんなあたしにピッタリの王子様は、やっぱり赤ずきん様なの!あたしの想………ぐぅ!」


最後まで言うことを許されなかった。許されるはずがない。


「……俺様のリーゼに近づくな!この変態娘!喧しい!失せろ!この場で引き裂いてやろうか……?」


見えていない瞳が、アリスを捉えている。……マジだ、この瞳はマジだ。優しくリーゼルハルトの肩を引き寄せ抱き締めながら、爪を変形させてアリスの眼前に向けている。


「……そろそろ学習したら?おバカアリス。おまえが、白王子に敵うわけないわ。ない頭で考えなさい、バカ。陶酔こそ尊いものよ。……今日もあたしは宇宙一だわね、ふふ」


レディ・ハットが表情を変えずに淡々と、アリスの首根っこを掴みながら、貶める。固まり、青ざめて動けないアリスを猫の子のようにぶらぶらし、コンパクト片手に、映った自分にうっとりとする。パンツスーツに、クールなストレートショートボブ。切れ長の瞳が、色々勿体無い。


「お子さまはお子さまよねぇ~♪あと、六年しなきゃ、ロックオン出来ないくらいお子さま!あはっ☆アリスも六年で大人の女になるべきよぉ。あたしみたいにぃ」


イケメン男性をぞろぞろ携えながらアリスを貶しにくる3月ウサギ女。露出度の高い派手な衣装は、一歩間違えばバニーガールである。スレンダーでありながら、グラマラスさも兼ね備え、男性が放って置かない。……中身はアリスとどっこいなバカだが。


「むせえんだよ。消えろ、3月ウサギ。てめぇのゴタクなんざ、俺様に必要ない。……なんなら、この場でその腐った取り巻きごと血祭りにしてやろうか?」


3月ウサギが動くより早く、怯えた取り巻きたちが一斉に逃げ出した。


「え?あ!ちょっとぉ?!」


誰一人として、3月ウサギの側に残らない。だから体だけの関係はよくないと、散々お父さんに言われていたのに。いざとなったら、誰も助けてはくれない。


「(*´∀`)ノ(*´∀`)ノ!今日も盛大に注目浴びてるね!お兄さんたちも混ぜてよ!」


金髪の爽やかイケメン・ラプラタ。世話好き、人好きで、信頼熱い冒険者だ。


「……こういうのは騒々しいって言うんだよ、ラプ。上手くおだてて手綱を握ってあげないと、ただの暴れ馬のままだよね。あ、僕は面倒だからやらないよ?」


静かに黒い発言をしながら微笑む、蒼髪の貴公子・ルクエ。


そんな中、いきなり店の両扉が勢いよく開く。


「諸君!麗しき僕様を迎えいれる準備は出来ていますか?誰よりも美しい僕様の声、かんばせ。それだけで至福のことでしょう!人間様ごときに見せて、聞かせて差し上げているのですから、早く感謝の意を示しなさ……ぶっ!」


色々捲し立てるキラキラしたフランス人形のような白磁の美少年に躊躇いも見せず、ローゼンシュタインはコップの水をぶっかけた。……ジェラードだから仕方ない。


「……うるせぇんだよ、高慢ちきが!俺様の周りには自己陶酔するバカしかいねぇのかよ!うんざりだな。いいか?俺様は、なんだよ。諦めろ、誰も俺様の美しさには敵わない」


「……やはり、ローゼンシュタイン様とは、やり合うしかないようですね」


濡れたはちみつ色のサラサラウェーブヘアーを、犬のようにふるふるする。


「ふざけんな。目障りなんだよ!さっさと消えろ、人形男」


「なんですって?!僕様に失礼じゃないですか!この死喰腐鬼グール男!」



━━バチバチ…………!!!



にらみ合いすること、数十回。彼らに譲り合い精神はない。


……またも、切り上げたのはジェラードだった。


「……ふ、無駄な争いをするところでした。そもそも人形でもないあなた様と競っても無意味でした」


このセリフも何十回目だろうか。


「べ、別にあなた様が人形になったとき、見惚れたからとかではないですよ!断じてありません!忙しいので失礼します!」


自ら自爆して走り去る。腕にはしっかりテディベアを抱きめながら走る、白磁の美少年。


「……何なんだよ、毎回毎回」



◇◆◇◆◇◆◇



「………という、おぞましい夢をみたの」


「まさかの性転換?でもよかったね、ローゼ。に見た夢で」


「あら、どういうこと?」


は、。なんでも、嘘をついても怒られない日なんだよ。もう午後だけど、見たのが午前中だから、セーフだね」


優しく微笑むリーゼロッテは、夢の中でも変わらなかった。


◆◇◆◇◆◇◆


特別番外編『エイプリルフールに見た夢』


Fin☆ミ


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