第26話 潜入!ホーン◯ッ◯マンション

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

3月ウサギ&ラプンツェル&ルクレツィアチーム

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



入った瞬間、後悔した。こっちを選ぶんじゃなかったと───。



大きな扉の前に立つと、まるで自動ドアのように開く。嬉しくない歓迎のされ方だ。


「お、俺帰っていい? 」


ガタガタブルブルしている3月ウサギ。


「……帰れるものならどうぞ? 」


振り替えると、巨大アーチは姿を消し、花壇が競り上がり、巨大な土壁が出来ていた。ラプンツェルが笑顔で中に引きずり込むと。



───バタン。



お決まりの。


「い、いやぁぁぁぁぁぁ!!!! 俺を帰してぇぇぇぇ!!! 」


扉にしがみつきながら騒ぎ立てる。うるさいなぁと中を振り向いた二人は固まった。そこには……。



ホールいっぱいに、首や腕や足がもげた人形がところ畝ましと転がっていた。



「あっちゃぁ~……」


流石にひきつるラプンツェル。


「うぎゃ……むぐっ! 」


振り向いた3月ウサギの口をすかさず、塞ぐ二人。ここまできたら大体予想はつく。3月ウサギがどのタイミングで叫ぶかの。


「……ラプ、よくみて」


ルクレツィアが指し示す場所。そこには、人形にしては大きな頭が 落ちていた。見渡せば、人形に混ざって色々と見るに耐えない部位が落ちている。


「………………………」


あまりの壮絶さに、言葉を失う3月ウサギ。震えるしかできない。


「帰れなかった冒険者かなぁ? 」


なむなむと手を合わせ、肉塊やら人形やらを避けながら、アーチ型階段を登っていく。上には動かず、瞳を怪しく光らせる人形たちが見下ろしていた。すぐに何もしてこないなら、こちらも何もしないでおこう。何されるかわからないし。じわりじわりと登っていく。

登りきった先には───。


明るい場所なら可愛い西洋人形たちがズラリ。


しかし所々、血痕が……。この子たち、殺ってる───!!(戦慄)

ここで3月ウサギを投げたら、どうだろう。……すぐにその考えは却下された。たぶん、ものの数分も持たない。役に立たない。


「殺る気満々の相手に壊さないで倒すってどうしたらいい? 」

「……私もわからないわ」


どんっと3月ウサギを階段から突き落とした。


「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁ!!!!! 」


つんざくような叫び声が響いた。ここにいるより、物言わぬものたちの場所のが安全と判断したからだ。どうせすぐ気絶する。


「行くわよ! 」


掛け声とともにラプンツェルの耳が尖り、爬虫類のそれに変わる。お尻からは太い尻尾がズズズズと。肌も尻尾や耳のような、銀色の鱗に変わる。


「外じゃないから完全体にはなれないわねぇ」


変わらない口調。髪は変わらないのに、見た目が竜人を思わせた。爬虫類のような突き出た口に、二股の舌がチロチロとみえ隠れする。


「……仕方ないわ。あなたの完全体はあまりに大きいもの」


対するルクレツィアは同じ爬虫類でも、全体が蛇としか形容できない。蒼い鱗に覆われた下半身大蛇、頭には無数の蛇を従えた合成獣キマイラ。エメラルドの瞳だけが変わらず、前を向いていた。


「ルクレツィア、アレ使ったらマズイ? 」

「……マズイわね。石にしたら意味がないんじゃない? 」

「動きを止めるだけの、寸止め出来たらいいのに」

「……使えていたら、あたしたちが主役だったわよ」

「………………!」


まさか、ルクレツィアからジョークが発せられるとは……。


「……取り敢えず」


ラプンツェルは耳を塞いだ。全頭の蛇から、超音波を発する。すると人形たちがバタバタおち出した。


「意外と効果ある? 」


しかし、少しするとまたむくりと起き出す。きりがないようだ。


「……でも、攻撃は出来ないようね。私たちが人間ではないから攻撃をあぐねいているみたい」


古代竜エンシェントドラゴンの末裔と合成獣キマイラ。硬さはピカイチだ。

近寄るとギラリと睨まれる。


「あの子に出てきてもらわなきゃ話は進まないわよねぇ」


……二人は見逃していた。既にカノンは視界にいたのだ。



「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!! 」


下から3月ウサギの悲鳴。思わず手摺から、身を乗り出す。


「……やめ……て……この子……タチ……をキズ……つけナイ……で……!!! 」


3月ウサギが落ちた場所、下敷きにしてしまっていたのは、人形。立ち上がるも人形か人間かもわからずパニック。


カノンはぼろぼろだった。陶磁器を思わせる、柔らかな質感の肌はクラック《ひび割れ》が行き渡り、立ち上がれないでいる。クラック《ひび割れ》がなければ女の子にしか見えない。

ベルベットローズの上質なゴシックドレスと大きなリボン、はちみつ色のふわふわウェーブも汚れている。


「カノン?! あなた、カノンなの?! 」


「……なん……デ……あたく……シ……の名前……? 」


余所見をしている間に徘寄った西洋人形たちが、ラプンツェルとルクレツィアにのし掛かる。突き落とす裁断らしい。硬いなら落とそう。安易だなと思ってはいけない。二人でもびっくりするくらい、力が強い。

落ちても然程ダメージはないが、暫くは動けなくなるだろう。だが、耐えるほどの力はない。二人が耐えきれず、落ちた瞬間。


◆◇◆

合流

◇◆◇


再び、扉が開かれた。


二人はまっ逆さまに落ちたが、痛くない。解除して重量を減らしたからかと思ったら。

ルクレツィアは帽子屋が、ラプンツェルはスライディングした3月ウサギが受け止めていた。


「……ふふふ。ざまあないわねぇ? カノン? 」


胸を張るローゼリアが立っていた。横にはリーゼロッテがしがみつき、後ろではアリスが「すげーな! おい! 」と周りを見ている。


「……また……会え……ました……ワネ……でも……ちょっト……遅かった……デスワ……」

「ちょっと! こんなとこでくたばってもらったら困るのよ! 決着、ついてないんだから! あなたを壊すのはあたし! 」

「おバカ……デスワ……ねぇ……」


カノンの様子がおかしい。周りの人形たちの瞳が笑っている。


立てないほどにぼろぼろになったカノンが、人形たちに支えられて立ち上がった。


『アタシタチ、ステラレタノ! ミンナミンナオナジ! コイツラモオナジ! スグステルンダワ! 』


人形たちが囁く、悪魔の囁き。


「棄て……ラレタ……。あたく……シ……も……棄て……棄て……ラレタ!!!! 」


真っ赤なルビーのような瞳が、どす黒く光る。


「な! 何操られてるのよ! 」


火の玉のような球体が、ローゼリアたちを襲う。逃げ惑えば逃げ惑うほどに、絡みつく。人形たちも間を縫って襲い掛かってくる。何十という人形たち。傷つけたらカノンを逆上させる。だから避けるのが精一杯だ。


「攻撃出来ないんじゃどうしようもないわ!

安全な場所はないの!!? リーゼを安全な場所に!! 」


どす黒いうようよオーラを纏う人形たち。そのオーラを食べさせれば……けれど、思うように行かない。


「……おい! ラプンツェル! おまえの持ってるそれはなんだ?! 」


はっとするラプンツェル。


「そうよ! これ! カノン! 受け取って!


持っていたテディベア。それを思いっきり、カノンに向けて投げる。人形には手を出せないのか、西洋人形たちは避けてくれる。カノンにぶつかった瞬間、真っ赤な光の閃光が包み込む。光がゆっくりと収束した瞬間。


力なく崩れ折れたカノンを抱き抱えていたのは、真っ赤なワンテールのワイルド美少女だった。


「……ちっ! おせぇんだよ! 惑わされてあたしを手離すからこうなるんだ! 」


獣のような金色の瞳、燃えるような赤い髪、豊満な胸をベアトップで包み、ショートパンツと帽子のパンクルックの強気な美少女。


「今のうちに食っちまえ! 」


その言葉にびっくりしながらも、リーゼロッテは瞳を閉じ、集中させる。何かを感じて、襲い掛かる人形たちを払い除けるのは、パーティメンバーの仕事だ。傷つけないように、慎重に。


開かれた瞳は、人形たちを凝視する。


「お願い! 大人しくして! もうあなたたちは傷つかなくていの! 」


発するとともに、瞳が揺らぐ。前にも見た光景。いやいやをしながら人形たちから、どす黒いもやもやがリーゼロッテの口へと吸い込まれていく。


……すべてを吸い込んだそこには大量の人形たちが横たわっていた。


◇◆◇◆◇◆◇


疲れ果てた体を引き摺り、館をあとにする。そこにはもう、カノンはいない。アンジェリカが連れ去ってしまったからだ。


「……ねぇ、マッチ持ってないかしら? 」

「ほらよ! 」


帽子屋が投げてよこす。


「ありがとう」


その言葉にぎょっとする。だが、それをとやかく文句をつけずに、後ろを向く。マッチを二本擦ると……。


竹藪と蔦塀に投げつける。マッチの火は、予想外に勢いよく燃えた。


「な、何してんだよ! 白雪姫! 」


帽子屋ががっと頭をつかんでとめる。


「……楓さんに、頼まれたの。『すべて終わったら、燃やしてほしい』って」


きっと彼女はあの場所から動けない。せめて一緒にと考えたのだろう。


すべてが炎で包まれた、そのとき。


『ありがとうございます』


微かだが、彼女の声が聞こえた気がした。


◇◆◇◆◇◆◇


七人が立ち去った場所に、一人立つ人影。


「……まぁたやらかされちゃった☆ あたし興奮しちゃう!やっぱりあの子、あの方と何か関係あるかもぉ☆ 」


前回同様、黒いもやもやを生み出したとされる人物。紫と黒のテーピングボンテージの趣味悪い……少年。ブリブリ美少女ではない。趣味の悪い女装少年(見た目が)。

燃え盛る2つの屋敷を尻目に、立ち去った。まるで彼は、ローゼリアたちを試すかのように笑っていた。


◆◇◆◇◆◇◆


運命の歯車は、少しずつ少しずつ、彼らを導く。重なりあうとき、悲劇が幕を開けるのだ。



『人形の館クエスト』完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る