第12話 探し人の行方


━━終われば、助かる。それを信じて踏み出した━━


「……三人の探し物。エリカちゃんはを強調してました。セリカちゃんはを大事そうに持っていた……。マリカさんは……なんだろう」


ブツブツと呟く。


「……マリカは旦那を待ち続けてるんだろ?忘れたか?」


然り気無く、助け船を出してくれる。


「ありがとうございます……」


こんなとき、顔を見てお礼が言えない自分を、悔しく思う。それは、今だけじゃなくて、毎日だ。……この悪魔イビルアイがなければと思っていた。でも、なかったらローゼリアに出会うことも、こんな経験も出来なかった。微睡みの中で、ぬくぬく生きるだけ。世界は広いと知ることも出来なかった。何かを得るためには、何かを失う。すべてを手に入れることは出来ない。……でも、悪魔イビルアイがなかったら、何もない女の子だったかもしれない。あの場所から動かなかったら、永遠にを恨み続けていたかもしれない。リーゼロッテは捨てられたから。母親と共に。このクエストから無事に戻ったら、いつか、悪魔の討伐をしに行くかもしれない。父親の仲間か、父親自身と対峙するかもしれない。

それは、ギルドに入ったときから考えていた。果たして自分は、そんなときが来たらどうするだろうかと。迷いなく討伐対象として扱えるだろうか。……まだわからない。

考え込んでしまっているリーゼロッテを、コツンと小突く。


「何ボーッとしてんだよ。時間は待ってくれねぇぞ」


「す、すみません」


今考えても、答えなんて出ない。ならば、今出来ることをしよう。


「……セリカちゃんは、お人形を集めているようですが、探しているって当て嵌めると……」


「探し物はか?」


リーゼロッテは頷いた。しかし、どんな人形なのだろうか。集めているような、ような人形なのだろうか。


「……私なら、くまさんとかうさぎさんが好きなんですけど。」


突然、くしゃりと撫でられた。


「どんな人形かわからないなら、それもアリだな」



そんなやり取りをしていると、後方から足音が聞こえた。人数を考えるとおかしい。自分たち以外には、いないはず。まさか、"ゴースト"がまだいると言うのか。


「……君たち!君たちも雨宿りかい?」


見知らぬ男性だった。


「てめぇは誰だ?」


低音を更に低く、睨み付ける。


「あ、ごめん。俺も俺以外いないと思っていたから、他にいて安心したんだ。いきなりですまない」


現れた男性は、困ったような顔をする。悪い人には見えないが。


「俺は、ユウヤ。……をしに来たんだ」


彼は、どうみても人間だ。信用を得るには、自ら名乗り出る。礼儀正しいのか、はたまた作戦か。


「わ、私はリーゼロッテ……です。あの……むぐっ」


帽子屋に口を塞がれた。


「悪いが、仲間が捕まってんだ。早々、他人を信用出来ない。探しもんくらい、自分で探してくれ」


間違っているわけではない。味方と決まったわけではないのだから。


「敵とか味方とか、正直俺にはわからないよ。よし、捕まってるお仲間さんを一緒に助けるよ。そうだな……、裏切ったら構わない」


覚悟ある発言で、嘘をついているようには思えない。


「ぷはっ!帽子屋さん、あなたが判断してください。ユウヤさんに不審な動きがあれば私が」


裏切るようならば魂を喰らう、そう言っているのだ。


「そうだな。おまえっていう、があったよな」


無理矢理納得しようとしているのは、口調で明らかだ。


「……俺、"ユリカ"さんって女性に会いに来たんだ」


ユウヤの一言で、二人は固まる。彼女が死んでいることを知らないのだろうか。


「ここに、女性の"ゴースト"が現れるって聞いた。もしかしたら、彼女は死んでいるのかもしれない。それでも、会いたい。……どんな人が知りたかったから」


そっと、胸ポケットから写真を取り出す。


「顔は知っているんだ。これで」


二人に写真を見せる。かなり昔のものらしく、黄ばんだ白黒写真。


「この人が、"ユリカ"さんらしい」


彼が指差した人物。それは、先程出会ったユリカその人に間違いなかった。


「入ってきたとき、びっくりしたよ。出迎えてくれたのが、彼女の母親のマリカさんにそっくりで」


更に指し示す人物も、間違いなくマリカ。


「この女の子がエリカさんで、この女の子がセリカさんらしい。……この両脇にいるのが、俺のなんだ」


……そこには、使用人と思われる男性とメイドの女性がいた。まさかの関係者の登場に、驚きを隠せない。


「……聞いてしまったんだ。俺の本当の"ばあさん"は、


衝撃の事実に、声が出ない。信じられないが、嘘ではないのだろう。この一族の生き残りが彼だというのは。


「だから、一目でもいい。……ばあさんに会いたい」


リーゼは帽子屋の服を引っ張った。


「……仕方ねぇなぁ。どの道、俺たちはここから出られない。そのユリカに会う方法は一つ。マリカとエリカ、セリカの"探しもの"を見つけることだ。どう足掻いても、それが見つからねぇことにはどうにもならねぇ」


盛大に溜め息をつきながら。


「だったら、目的は同じ!自分が出るにもやらなきゃならないってことだろ?」


三人の気持ちは固まった。を見つけ出し、ユリカに会う。



……使用人との、許されぬ禁断の愛。あの時代なら尚更、格式にうるさかったはず。一緒になることを許されず、お腹を痛めて産んだ子どもを託したユリカ。産むよりも辛い、別れ。どんなに願っても、自分で育てることは出来ない。そんな絶望の中、死しても優しいままで。母親や妹たちを憂い、おもんばかる優しき長女。母になれなかった彼女が一番、辛かったに違いない。救うのは、彼女も同じだ。


「……ねぇ、おかしくないですか?」


写真を見続けていたリーゼが、不思議そうな顔をする。それは……、エリカがになど座ってなどおらず、皆と微笑んでいた。


「生まれつきだなんて、聞いてないからな。不思議でも何でもないだろ」


確かに、エリカははそんなことは言ってはいない。


「一体何の話を?」


彼が知らないのも当然だ。


「私たちが知っているエリカちゃんは、車イスに乗っていたんです」


を求めるエリカ。

アリスの足を欲し、今も追いかけ続けている。


「……どこかに、エリカちゃんと同じ状態の足があったりして」


そうだとしたら、あまりにも恐ろしい。



━━だが、留まっているわけにも行かず、三人は歩き出した━━

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