第11話 甘い噂
学校に入った時間はギリギリだった。周りはギリギリの時間に入ってきた俺達をちらりと見やるだけだったが、それ以上特に注目されることは無かった。
強いて言うなら普段はやめに学校に来ている成瀬がこんな時間に来たという事に対して、珍しがっている連中がちらほらいただけだった。
俺はあんなことがあった割には、授業にもいい感じに集中できた。いや、あんなことがあったからむしろ気持ちが入ったといういい方の方が正しいのかもしれない。
一方の成瀬も今日は絶好調らしく、この間のようなポンコツはさらすことは無く、教師からの様々な問題をすらすらと解いていた。休み時間も本を読むのに集中しており、その凛とした姿には昨日の面影は一切感じさせない。クールないつもの成瀬麻衣香がそこにいた。
購買でいつも通り焼きそばパンとクリームパンのゴールデンコンビを購入し、俺は席で一人食べ進めていく。今日はなぜか涼川もいないので一人で食う事となる。よし、さっさと食べてスマホで小説でも読むか……
ぴこん
と、考えていたらスマホに通知が来る。見ると前島さんからだった。
<お世話になってます、前島です。お時間よろしいときに電話いただけますか?>
俺は食いかけの焼きそばパンを急いで詰め込みながら返信する。
<少し待ってもらっていいですか?>
******
「もしもし、前島さん?日向です。」
「すみません先生、お昼時間中に。」
「いえ、大丈夫ですよ。」
俺は人気のない実習棟の空き教室で前島さんに電話をしていた。
「神野先生、その後、パスタ丸さんとはどうですか?」
「今日朝、突然家に来ました。」
「そうですか」
「そうですかって……教えたの前島さんですよね。」
あ、返事止まった。やっぱこの人か……。画面の向こうで前島さんが考えているのが目に浮かぶ。
「まあそれはそれとして、」
おい、それとするなよ。
「どうですか、それから?彼女の方から何かコンタクトはありました?」
「いや、それ以上は特にないですね……。」
「あれま、そうですか。って言う事は、朝の迎えだけですか?」
「何で意外そうなんですか、昨日の今日ですよ?」
「逆に聞きますけど、わざわざ朝に迎えに来といて、それだけっていうのも違和感ありません?」
不思議そうにする前島さん、俺からしたら別にそれだけで十分なのだが……。って待て何か違和感があるな。前島さんに質問する。
「えっと、成瀬が今日うちに来たのって、前島さんの差し金じゃないんですか?」
「私がそんなことするとお思いですか?」
「いや、めちゃめちゃ思いますけど……。」
だってあなた、俺の新作のためなら何でもしそうだし……。っていうかするって言ってたし……。
「心外ですね。パスタ丸さんに聞かれたとて、私が先生のお住まいを教えるわけないじゃないですか、それでトラブルになったら大問題です。」
何を当たり前にというテンション。大人としては非常に当たり前のことを言っているんだろうが……。なぜだろう、頭が痛い。
「多分、連絡網とか確認したんじゃないです。?分からないですけど。」
「ああ、なるほど……。」
確かに盲点だった、クラスメートならそういうのが出来るのか。
「まあともかく、パスタ丸さんもやる気のようですし、いい塩梅にイチャコラしといてください。」
「イチャコラって……。」
あなた何歳ですか……、怒るだろうから聞かないけど。
「っていうか、成瀬に変なこと言わないでくださいよ。彼女、ただでさえ俺の新作のためにって責任感じて、無理して今日も来てくれてるんですから。」
そう、本来あんなに可愛くて人気のある子が、俺なんかの朝の迎えに来るのは異常事態なんだ。勘違いするなよ、俺。
「いやぁ、無理してなんてことは、あの子に限ってないと思いますけど……。」
何やら意味深なことを言う前島さん。
「まあ、それに関してはです。元々お二人の件に関してこちらから口出しするつもりはないので。」
「よろしくお願いしますよ。」
前島さんに釘を刺して、俺は電話を切った。
******
決して軽くはない足取りで、俺は教室へと戻ってきた。教室のドアを開ける力もイマイチ入らない。
「よお、浮かない顔してんな。」
無人だったはずの俺の席には、さっきまでいなかったはずの涼川が座っていた。彼を前の席にどかし、俺も自分の席に戻る。
「お前の方は随分楽しそうな顔してんな。」
「ん~、いや、そんなこと無いぞ~。」
いつものイケメンフェイスだが、ゲスな笑みを隠そうとしているのが見て取れる。飯に誘おうと思ったらいつの間にかいなかったのだが、いつの間にか戻ってきていた。
「飯誘おうと思ったらいないし、さっきまでどこいたんだよ。」
「いや、ちょっと耳よりな話を聞いてな。他クラスの奴と話してたんだ。」
「ふーん。Jリーグとと今期のアニメ、どっちだ。」
「お前は俺の事なんだと思ってんだよ。」
サッカーと二次元にしか興味がない男だと思ってる。
「おい、もうちょい何かあるだろ!」
やばい、心の声が漏れていたみたいだ。
「すまんすまん、ちなみに俺はメルナイがおススメだぞ。」
「だから深夜アニメの話じゃないって!……ちなみに俺のお勧めはまるちろいど!だ。」
ツッコミを入れながら、きちんとおすすめアニメを教えてくれる
「そんで、耳よりな話ってなんだよ。」
「ん?聞きたいか?」
「もったいぶるなら聞かない。」
涼川は嬉しそうにしなる。鬱陶しい動きだな……。
「そんなこと言うなよ~。第一、お前にも関係のない話じゃないぜ?」
「どういう意味だよ。」
「いや、それがさ……。」
突然涼川は真剣な表情になり、顔をぐっと近づけてくる。お、なんだなんだ……?
「………成瀬、彼氏できたらしいぞ。」
「ほーん、成瀬に彼氏か……。彼氏!?」
次の更新予定
2024年11月22日 06:00 毎日 06:00
ラノベのために美少女とラブコメしてたはずが、気づけば外堀埋まってた 尾乃ミノリ @fuminated-4807
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ラノベのために美少女とラブコメしてたはずが、気づけば外堀埋まってたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます