第4話 コーヒーor苺ミルク
涼川とそのままだらだらと会話を続けていたら朝の時間が終わり、そのまま授業が始まった。結局何の解決もなく、俺の頭の中はパスタ丸の事でいっぱいだった。
「じゃあ次のページを神野、行けるか?」
「え、ああすみません。聞いてませんでした」
「まったく、お前は……もういい、座れ」
国語の老教師がため息をつき、クラス全体がアハハと少し笑う。俺もそのまま自分の席に着く。一応怒られているんだろうが、正直今はそれどころじゃなかった。老教師はもう一つ聞こえるように大き目の咳ばらいをし、クラスがしんと静まる。
「じゃあ今度は、成瀬。お前なら出来るだろ」
「はい。」
凛とした声で、成瀬がすっと席を立つ。元々静かだった教室が、さらに静かになる感じがする。
「今は昔、釈迦如来、未だ仏に成り給わざりける時は……」
鈴の様なきれいな声で成瀬はすらすらと読み上げていく。古文特有の難しい言い回しも難なくクリアしていく。だが、大人しく聞いていたクラスメイト達は、次第にざわつき始める。そして、そのまま成瀬は読み終え、席に座った。
普段と変わらない、平然とした佇まいの成瀬に、老教師はおずおずと尋ねる。
「あの、成瀬……、今……現代文の授業中だぞ?」
その何にも動じない顔に驚きの表情が写る。目が少し大きく開かれ、黒板と教科書を二度見する。
「……すみません、集中していませんでした」
皆まさか成瀬が間違えると思っていないため、少し緊張した空気が流れ、すぐに弛緩する。教師も手を叩き切り替え、別の女子生徒に当てる。当てられた生徒はスムーズに該当箇所を読み上げていく。
間違えた成瀬の方を見ると、しきりに目をこすっている姿が見られる。よく見たら目の下にクマが出来ている。あの成瀬が寝不足とは……、夜中まで本でも読んでいたのだろうか。
しかし、寝不足そうだとは言え、授業中に寝ようとはしない。そこは彼女のプライドのなせる業だろう。
「神野!ちゃんと授業聞かないか!」
「あ、すいません……」
こそこそと後ろを見ていたのがバレ、俺も前を向かざるを得なくなった。
******
非常に長く感じた授業も半分終わり、学校は昼休みに突入した。勾配に行こうとすると、前の方から涼川が弁当片手に歩いてくる。
「夕~、昼飯一緒に食おうぜー」
「悪ぃ、俺今日購買」
「マジか。じゃあ俺教室で待ってる」
俺の席にドカッと座り、俺にひらひらと手を振る。
「オッケー、さっさと買ってくるわ」
そう答え、俺は足早に購買へと向かった。
~~~~~~
「無事買えてよかったー」
今日の戦利品は焼きそばパンとクリームパン。お手軽に腹にたまる焼きそばパンと、しょっぱい口直しのクリームパン。この組み合わせがベストだと、俺は考えている。もちろん、異論は認めるが。後は飲み物を何にするかだが……、無難にお茶にするか。
ウキウキで自販機へと向かうと、そこには先客がいた。肩くらいまでのセミロングの黒髪に、平均的な身長、そして目の下にクマ……。他でもない、成瀬麻衣香だった。横の自販機に並び、様子を窺う。
どうやら何を買うか、かなり悩んでいるようで、指が苺ミルクとコーヒーで揺れている。俺が横に並んでいる事にも全く気づいていない風だ。その様子が面白く、そのまま眺める。
成瀬はしばらく悩んだ末に、ふうと息を吐き、意を決したような表情をする。
「……よし!」
彼女が自販機の下から取り出したのは、缶コーヒーだった。俺も一部始終を見届けた後、急いで自分の買い物を済ます。そして、去ろうとする成瀬の背に声をかける。
「成瀬さん、ちょっと待って」
一回声を掛けただけでは成瀬は止まらず、すぐ後ろで声をかけて初めて成瀬はこちらを向く。俺に声を掛けられると思っていなかったのか、驚いた表情をしている。
「あの、良かったら、その飲み物、これと交換しない?」
俺は手の中に握られた、苺ミルクを差しだした。
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